施工者が製造者に求めてきた多くはスランプ上限要求
生コンの品質事故はプラントだけの問題ではない
以上、2つのプラントで生じた不具合を紹介しました。長年の経験から、施工者が製造者に求めてきた多くはスランプ上限要求、つまりは軟らかく施工がしやすいコンクリートで、加水などで水セメント比などどうなっていたか分りません。通常の設計スランプのコンクリートは、圧送や締固めに手間がかかる事からほとんど見向きされず、過当競争など厳しい世の中で生き抜く為にも効率の良い軟らかいコンクリートが求められ続けたのは自然の流れでした。設計スランプ12cmが採用されて加水に似た状況は減ったかと思いますが、軟らかいコンクリートを使う施工者は充填しても十分な締固めを実施しないので、仕上がったコンクリートの品質は悪い状況です。そんな環境が今も一部で続いていますので、生コンの品質事故はプラントだけの問題ではないと個人的に思っております。
プラントのモチベーションが上がる「行動」が必要
本来、プラントは施工者より圧倒的にコンクリートを勉強している
これまでの記事で紹介しておりますが、コンクリート打設においては【公共工事の在るべき姿】を初めとする倫理的な事を全プレイヤーと共有し、そこで得られた技術に誇りを持っていただけたと思って指導しております。そうした現場では、プラントの多くは私たちの求めるコンクリートに対して積極的に協力していただきましたし、賛同いただける確立は施工者より多いと思います。加えて、施工者が高い技術で取組むとなると、プラントもそれに呼応するかのように特別な管理を当然のように、そして現場に頻繁に来られて製造したコンクリートの状況や脱枠したコンクリートの出来映え等を確認する事が多くなります。そしてお互い信用が構築できたなら、我々施工者側の求めるコンクリートについて、プラントから専門的かつ特別な工夫を検討いただけたり提案される事も珍しくありません。
当然ながら、私たちの取組みを門前払いされるプラントの事は分らないので、今回良い事例として紹介したプラントと悪い意味で反対の方がいるのは事実です。私たち現場側が考えるべきは、プラントへ事前に協力に値する動機となる説明(理由・情熱・倫理)等で共感を得られる行動を起こしたか否かではないでしょうか。動機付けとなる行動がなければ、半世紀以上続いたであろうスランプ上限要求の歴史があるので、JIS規格を外れるコンクリートが隠れて供給されるのは根絶できず、その可能性を考慮して事に当たるべきだと考えております。
今までの連載記事で、指導前に低品質と見られるコンクリートを構築する施工者が良質なコンクリートを構築してきた事例を紹介してまいりました。良質な躯体を構築するにはプラントも施工者も各々大切な役割を担っていますが、プラントは施工者より圧倒的にコンクリートを勉強していますし熱心に取組んでいただけます。本来は、施工者側が熱心に取組んだ方が良い躯体は出来やすいです。いかに良質な生コンであっても施工が悪ければ悪い躯体しかできません。逆に、悪い生コンであっても施工者が高い技術を駆使すれば良質な躯体にできる可能性は低くはありませんので、施工者を育てなければ、プラントがどれだけ頑張っても国としては良い結果としにくいと思います。ここでプラントをかばう訳ではありませんが、高い倫理と技術で製造したコンクリートであっても、施工者の要求は受入検査時にJIS規格をクリアするだけもので、大概は適度に軟らかい(上限要求)コンクリートかJIS規格外の軟らかいコンクリートが圧倒的だと言う事です。どうかすると、規格上限でも「軟らかいポンプ配合にしろ」「工場長は今から現場に出て来い」など、そんな滅茶苦茶な事が私の目の前で2年前に展開した事もあります。せっかくコンクリート主任技師などを取得して、良かれと思うコンクリートを製造したくても出来ない状況では腕を磨く事がないのはもちろんですが、誇りを持って製造する事はできるのか、そんな事で担い手も続かないのではと想像しております。ここで、プラントの協力を得る前の状況、そして施工者・プラントで協力して良質な躯体とした写真を紹介します。
(写真-2-a)当初スランプ上限要求/(写真-2-b)スランプ下限要求へ改善
(写真-2-c)スランプ上限要求したコンクリートの仕上がり
(写真-2-d)スランプ下限で丁寧に締固めた仕上がり
写真-2a~dについては、第1回連載で紹介した広島県廿日市市の現場です。
ここでは、全プレイヤー一丸となって良い結果(写真-2-d)となりました。今も取組んでいるのは、協力業者の(株)粋工業さんだけのようですが、良いモノ造りに熱心な会社ですので彼らの技術はこれからも伸び続けるのは間違いないと思います。
(写真-3-a)当初スランプ上限要求/(写真-3-b)スランプ下限要求へ改善
(写真-3-c)スランプ上限要求したコンクリートの仕上がり
(写真-3-d)スランプ下限で丁寧に締固めた仕上がり
(写真-3-e)同じ現場で指導から1年半後に施工したコンクリート。元に戻ってしまった
写真-3についても広島県廿日市市の現場です。一時期、品質が大きく改善(写真-3-d)しましたが、今は指導前に近い状況(写真-3-e)に戻りました。結局は施工者側がどう考え行動するかで持ち込まれるコンクリートも、構築される躯体の品質も決まると言う事だと証明してくれていると思います。写真から分るのは、コンクリートに水みちがありますが、これはスランプ上限要求以上が疑われる軟らかいコンクリートですし、丁寧に締固めた形跡もありません。写真ではわかりませんが沈みひび割れや横流ししたときに生じるブリーディングの集積痕もありました。ここでは、一時期良い品質となりましたが、今は製造・施工まで取組みは終わったと言って良いと断言できます。
費用をかけて良いモノを造っても、そんな評価項目ありません
誠実な施工をするイニシャルコストを施工者が負担しただけで倒産必至
ただ、ここで考えなくてはいけないのは、一度でも高品質なコンクリート構築に挑戦した施工者ですので、品質低下については資金が尽きたなど何かしらの理由があって取組みが続けられなかったのではないかと言う事です。基本的に、公共調達と完成検査の評価においては、施工者が誠実に施工して高品質としても、公益に対する評価はほとんどありません。
施工者側から良く聞こえてくるのは「費用をかけて良いモノを造っても、そんな評価項目ありません」「これからは週休2日やICTなど費用がもらえて高得点ですから楽に儲けられます」と言う事で、私の良いモノ造りで社会に貢献する主張が施工者に受け入れてもらえない事も多々あります。良いモノでストック効果を最大限にするといった主張は普遍的かと思うのですが、イニシャルコストで門前払いされるようでは技術者も育てにくい環境が業界にあるかと思われます。世界中で、良いモノには対価を支払うのが常識かと思いますが、建設業界では誠実な施工をするイニシャルコストを施工者が負担しただけで倒産必至です。そんな良いモノを造る余裕がない厳しい状況が数十年も続いていますので、プラントも施工者も推して知るべき状況である事を考慮して欲しいと思わずにいられません。不正は悪い事ですが、良い事は評価しないのに、悪い時だけバツを下すのは余計に不正がはびこる一因と思いますので、評価基準については、誰もが分りやすくヤル気をだして挑戦するような仕組みがあれば良いと思います。
挑戦する事について、「マニュアル通りとして欲しい」等の意見も多くあるかも知れません。ここで考えていただきたい事は、マニュアルなど基準書は、誰でも実行可能な事が記載されておりますので品質の底上げには有効です。しかし、品質をある一定以上にできたなら、その後はストック効果の最大化が公益には必要だと思います。土木技術者にとって、公益最大化への挑戦はきっと未来の担い手にも魅力的で受け入れられると思いますが皆さんはどう感じられるでしょうか。
今回もまとまりのない独り言を読んでいただき、まことにありがとうございました。(次回は5月上旬に掲載予定です)