道路構造物ジャーナルNET

第86回 管理物を「群」としてとらえ、マネジメントしていくためには

民間と行政、双方の間から見えるもの

植野インフラマネジメントオフィス 代表
一般社団法人国際建造物保全技術協会 理事長

植野 芳彦

公開日:2023.03.16

1、はじめに

 やっと春めいてまいりました。年度末で皆様お忙しい日々をお過ごしでしょう。多くの自治体においては、議会の対応でも忙しいことと思います。お体に気を付けて、こなして行ってください。現役を終わり、3年もたつと現役の時と違って、年度末のあわただしさが、感じられない。なんか、気が抜けたような気がする。
 よく聞かれるのが、「今はどちらに行っている?(勤務先)」私の答え「どこにも。しがない個人事業者です」。こう答えると皆さん喜んでくれる。さらに「私のような嫌われ者はどこの組織も受け入れません。その証拠に正式には、どこからも声がかかりませんでした」と言うとさらに喜ぶ。勝った! と思うのだろう。これは価値観の違いである。そんなことで競争する気にはならないが、富山に時々行きながら、相談を受けたことをやっている今の生活は気に入っている。富山に赴任する前に戻ったようなものだ。

2、なぜ、インフラ・メンテナンスが動かないか?

 講演を頼まれることが多いのだが、その内容はと言うと、私の場合、インフラ関係が多いのは当然。次にPPP/PFI、包括管理。さらにはBIM/CIM、人材育成、営業法となる。これらの中身は、世の中の対応が進んでいないからだろう。BIM/CIMに関しては、直轄で25年度から導入となっているが、世の中がついて行っていない。他の事項も同様に、笹子の事故から10年が経過し、インフラメンテナンスは第2フェーズに入ったと言われているが、どうも進展はみられない。

 現在の老朽化対策における課題としては、以下が考えられる。
 ① 高度成長期に建造された構造物の高齢化が進み、機能の低下が進む状況にある
 ② 自然災害(地震・台風・洪水等)の大規模化が現実として起きており、不安が増大している
 ③ 今後の公共構造物の更新時期の集中により、維持管理の財源確保の不安(長寿命化しても、いずれ更新はやってくる)
 ④ 公共事業が地元の経済活性化に貢献できない時代になってきた。さらに、地元での対応力の低下。
 ⑤ 施設の管理者により、維持管理の方針が明確でないために、適正な維持管理計画がなされていない。
 ⑥ これまで維持管理フィーの適正化が行われておらず、参入企業としての維持管理業務の収益性の難しさがあり、中々真剣に参入できない。
 ⑦ 発注の仕組みも、従来型では対応が困難になってきている。
 ⑧ そもそも、構造物の劣化は、老朽化だけではない。計画・設計時、施工時からの不備も大きい。再劣化も当然の結果である。
などなど、あげていけばきりがない。


RC桁の破壊試験(呉羽4号橋、於:つくば土木研究所)

 何が悪いのか?これは端的に言うと、この問題に対応する「意思」の問題である。これを言ってしまえば、反発も大きいだろう。
 財政の問題、地方経済・産業の低迷は、全国的な経済不況というか、うまく行っていない状態は様々な問題が背景はある。コロナもその1つの要因であるが、旧態依然の行政・政策システムをそのまま現在まで踏襲継続している点にあると考える。効率化とか生産性の向上と言う割には制度がついてきていないので、様々な制限を受けてしまう。建設事業の発注体系は長く変わっていない。極論を言うと明治以降、大きくは変わっていないのではないだろうか。これは、珍しい現象である。実は、変えたくない方々、変えられたら困る方々が、多いのはなんとなくわかる。しかし、時の流れと社会情勢は大きく変化している。なので、考え方を変える「意思」が必要なのだが、どうもそれは無いようである。こういう背景があるから、維持管理も進まない。いまだに「造る時代の思考」でいるので、制度疲労は当たり前だし、国民も同様で、いまだに、成長や発展、開発だの、整備と言うことを言っているが、もはや、かつての活力は、この国にはない。

 ハード(社会資本)は、現在の社会構造の変化すなわち深刻な少子・高齢化に直面し、景気の低迷、デフレスパイラル、(最近は若干インフレ傾向)国と地方行政の財政の逼迫という問題を抱えており、縮小する公共投資を前提にした公共事業(社会資本整備)のあり方を模索していかねばならない。その解決策のひとつが民間活力の導入である。限られた投資で早期の利益発現を期待する事業では特に効率が重視されるため、民間の財力・技術力を活用したNPMやPPP事業等の活用が必要となる。ソフト(政策)は、従来の社会システムの良いところは残しながらも、新たな斬新な“しくみ”を構築させる政策が重要である。最大のテーマは「官民連携」であろう。斬新なアイディアが必要である。

 地域活性化は、“プロジェクト”であり、リーダーが必要である。あらたな政策を打ち出せるリーダーが複数必要である。ここで、一番の障壁は、“人”の壁であると考えている。民主主義の社会においては多数の意見の方向に向かっていくこととなる。しかし、それが正しいとは限らない。80対20の法則では生き残れるのは20の方である。これは、社会が大きく変化するときに生じる現象であると言われている。多くの方は少し前の状況、現状が正しいと感じがちだが、実はそれでは、荒波を乗り切れられない場合がある。旧態依然とした状態では、消滅する可能性だってある。理解しようとしない人々に理解してもらうには、大きな労力が必要である。ここで評論家の方々は、説明責任とか、合意形成と言うが、それが必要なのはわかるが言っているほど簡単ではない。時間の壁が迫っている。

3、群での管理

 老朽化問題を検討していくにあたり、最大の問題は、一気に゛群“で管理していかなければならないという課題が管理者に突き付けられる。これまでの造る時代には、1つ1つ、1橋1橋実施していたわけであるが、造った藻の管理すべきものが、一気に多数既に存在しているので、”群“を管理していくわけである。しかし、どうも観察していると、この群れを忘れている。また、皆さん苦手なのである。1つ1つの場合はそれだけ見れば、よいがそうではない。そんなことをしていれば効率は悪いし生産性は上がらない。ましてや追い付かなくなっていく。あらゆる対応にマネジメント、戦略が必要なのである。

 「アセットマネジメント」といわれているものがあるが、どうも、普及していかない。特に自治体においては、拒否反応さえ起きている。実は、私はなるべく、この言葉を使わないようにしていた。単純に「マネジメント計画」と言うことにして、マネジメントの重要性を説き、職員に拒否反応を起こさせないように注意してきた。実は中身は、各所でやられている「アセットマネジメント」なのだが、言い方を変え、小難しいマニュアルは排除した。どうも、実際に運用する側のことを考えていない。実施する側に立てばよいのに。学問的に系統だった仕組みの構築はもちろん重要であるが、「運用」と言うところを考えていかないと普及は進まない。

 そもそもが設計と言う行為ですら、厳密解を求めているわけではなく一般に使われるように組み立てられている。日本人が好きなやり方であるが権威付けするために難しくしてしまう。かつてと言うか現在もそうであるが、PPP/PFIがなかなか普及していかないのもそこにあると、個人的には考えている。実際の実行が後回しにされ、建前が先行するので、運用側があきらめてしまう。これを言うと反論も多いだろうが、世の中には、上流で仕組みを考える人間も必要だし、実際に運用する人間も必要であり、それによって利益を得る人間も必要なのである。実行するには「運用する人間」を増やさなければならない。

 私は実行者である。頭が悪く単純思考であるので「実行者」に徹している。賞や評価は要らないし価値を感じない。実行した達成感、満足感が欲しいだけである。なので、どうしたら実際に使えるようになるかを考えている。自分の街の管理物を「群」としてとらえ、マネジメントしていくためには、まずは、組織そのものから考えなければいけない。人員の配置も人事制度まで本来はいじる必要が生じる。考え方をまるで変えなければ、困難である。それを実行するには、反発を招くので、じっくりと気づかれないように、変えていく必要がある。世の中の考え方や仕組みもそうである。人そのものも変えていかなければならない。考え方、思考を変えるのであるが、これも難しい。これができれば、組織も変わっていくし、マネジメントもスムーズに進む。富山では、未だ未完ではあるが、変えることができたと自負している。完ぺきではないが職員の一部は考え方を変えているし、実行できる職員になってきている。議員さんも一部は理解していただいている。時間がかかる。壮大な戦いなのだ。

組織の改編

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