(2)維持管理の重み~ベンチャープラザの活用~
前回の記事でご紹介した「HOT JET工法」の実用化・高度化、新たな無機系塗料の開発等を推進すべく京都大学桂キャンパス内に設置された「京大桂ベンチャープラザ」(中小機構)内の一室に研究拠点を置いている。
①京大桂ベンチャープラザ
(独法)中小企業基盤整備機構が中小企業等経営強化法に基づき、大学のシーズ及び知的財産の活用や地域の産業集積・資源を広く活用して新事業の創出に取り組む中小・ベンチャー企業に対し、事業スペースの賃貸、入居企業のサポートを行うため、「京大桂ベンチャープラザ」を運営している。
写真‐4に桂ベンチャープラザ研究施設を、図‐2に桂ベンチャープラザの事業概要を示す。
写真-4 中小機構桂ベンチャープラザ研究施設(南棟)
図-2 中小機構桂ベンチャープラザ 事業概要
②HOT JET(図‐3参照)とは
水と空気のエネルギーを制御した溶剤不要の洗浄機である。従来、密閉空間でしか行われていなかった亜臨界状態(摂氏140℃以上)の水を外部噴射することで、限られた空間内において化学洗剤や溶剤を使用せずに有機物の洗浄と抽出を可能にする技術である。
HOT JETの特徴を以下に示す。
1)水だけで汚れを落とす。 →亜臨界状態(100℃を超えた)の水により加水分解、浸透力により汚れ等を落とす。
2)高い洗浄力 →水が亜臨界状態になると亜臨界反応によって酸性・アルカリ性双方の性質を持つようになり加水分解力が生じるほか、アルコールの様な浸透力を有して溶解力が高まるなど、本来水に無い性質を発揮する。
3)水蒸気の数千倍の力 →亜臨界状態の水は水蒸気の数千倍のエネルギーを持ち、噴射すると一瞬で爆発的に膨張し、莫大なエネルギーを放出する。
4)表面を傷つけない →ウオータージェットは、水の圧力で汚れを落とす。HOT JETは、亜臨界水とキャビテーション(小さい気泡を水の中に発生)の効果で洗浄する。このため、水圧に頼らない洗浄法であり、相手物を傷つけにくい。
5)少量の水 →一般的な高圧洗浄機の約1/3の水量。また多くの水が噴射後に蒸発することから排水処理も大幅に削減される。
図-3 HOT JET工法(メカニズム)
③構造物の維持管理に必須な要素技術
この研究施設では、研究テーマの深堀や様々な企業とのコラボ等が可能となっている。例えば、鋼橋の維持管理という中の「塗装」というカテゴリーで言えば既存塗膜の除去技術。この塗膜除去への「HOT JET」の適用可能性確認や各課題の解決。また、長寿命な被覆材料の開発で言えば「CNT」や「塗るゴム」等の斬新な材料開発や検討も含まれる。
(3)最後に
トルコ・シリア大地震からほぼ1か月が経過した。建物崩壊により多くの尊い人命が奪われた。建物崩壊の主たる原因は耐震性の欠如だ。まさに人災である。柱や壁のせん断耐力が無いのである。日本も安住の地とは言えない。南海トラフ巨大地震の30年以内の発生確率が70%と内閣府が公表している。我が家はプレート境界型地震や直下型地震に備え大阪市や神戸市街地ではなく、神戸市西区の丘陵地(西神中央)に鎮座する(18F マンション)。これまでも長周期地震で揺れるくらいなので何も心配はしていない。唯一、心配なのはJR大阪駅近くのタワマン(51F)に住む娘家族が心配ではあるが。3F以上なので津波の心配もないのだが。
最後に、昔から無駄な公共事業の最先端を突っ走っていたのがダム事業である。日本でも「水を制する者は天下を制する」(中国・夏の皇帝・兎のことば)と言われてきた。今世紀に入って大規模水害が発生するたびにこれまで何をしていたのかと思う。必要な時に無くて、要らなくなったのに造っている。事業仕分けで不要と判断された多くのダムが政権交代で雨後のタケノコのように復活した。また、高度経済成長以降多くの道路・鉄道インフラが整備されてきた。
鉄道は国鉄の民営化後、利益が出ないが地元に必要な路線は第三セクターに。それでもダメなら廃線に。高速道路・自専道は、機構の管理下で健全経営になったかと思えば新たに未来永劫有料道路化への道をひたすら歩む。赤字が予想される高速道路は無料化区間として税金で延々と作り続ける。今まで作ってきた道路橋73万橋の点検・補修もおぼつかないのに次世代に付けを回すのか。在来線の横に新幹線や高速道路が整備される。東京~大阪には東名・名神、新東名・新名神、東海道新幹線、リニアモーターカー。近い将来、人口が7千万人を切る。誰がこれらの移動手段を使うのだろうか。動き出したら止まらない公共事業。誰か止めてくれ。
ODAしかり、耐震対策しかり、道路の維持管理しかり、国民の税金を皆が納得するように使って欲しい。(次回は4月に掲載予定です)