塗布前の水分の除去と管理、塗布後の加温継続が大切
冬期におけるシラン系表面含浸材の間違わない塗布の仕方
■ 塗布前に実施する加温効果の評価(シリーズⅠ)
はじめに、シリーズⅠとして、シラン系表面含浸材を塗布する前に実施する加温の効果について評価を行いました。図5に加温工程を示します。当日の日中の外気温は約5℃でした。コンクリート主桁下面に囲いを設置した後(写真1)、2日間、継続的に加温を行いました。ここでは、加温開始から22、27、45、47時間後にシラン系表面含浸材を塗布しました。比較のため、囲い外の無加温のコンクリート主桁にも塗布を行いました。それぞれのケースの記号は加温工程で表すこととし、塗布前の加温時間、塗布を表す「c」(coating)、そして、塗布後の加温時間を組み合わせた形としました。
図6に温度、湿度およびコンクリート表面の水分状態の推移を示します。囲いを設置した直後は1.7℃であった囲い内の温度は、加温開始から1時間後には約45℃まで上昇し、それ以降は実験終了までの間、大きな変化もなく、約45℃の状態が保持される形となりました。相対湿度は、囲いを設置した直後は約40%でしたが、その後の加温によって、囲い内の相対湿度は約15%まで減少しました。電気抵抗式水分計の測定値は、加温を続けることによってカウント値が経時的に減少しており、囲い内の相対湿度の変化と対応しています。
図5 加温工程(シリーズⅠ)/図6 温度、湿度、水分状態の推移(シリーズⅠ)
図7は塗布直前に電気抵抗式の水分計で測定したカウント値と、実験を終えて1~2ヶ月後にコア採取を行って測定した吸水防止層の厚さとの関係です。カウント値が約200の主桁下面(囲い外の無加温のコンクリート主桁)に塗布した場合、材料A、Bのいずれも、吸水防止層の厚さは0mmでした。一方、カウント値が約100~150の主桁下面に塗布した場合、厚さ約2~6mmの吸水防止層が確認されました。吸水防止層の厚さは、カウント値と概ね対応しましたが、その一方で、カウント値が100前後でも吸水防止層の厚さが1~6mmと幅がある傾向も示されました。
図8は各ケースの吸水防止層の厚さを棒グラフで表したものです。当初は、塗布前の加温時間(●h-c-■hの●)を長く設定し、コンクリート主桁下面の表面近傍を十分乾燥させてから塗布した方がシラン系表面含浸材は深く含浸し、厚い吸水防止層が形成されると予想していました。しかし、比較対象の無加温(0h-c-0h)を除くと、材料A、Bのいずれにおいても、塗布前の加温時間が最も短い22h-c-25hが全ケースの中で吸水防止層が最も厚く、また、塗布前の加温時間と吸水防止層の厚さが反比例するなど、予想とは異なる結果が示されました。
図7 温度、湿度、水分状態の推移(シリーズⅠ)/図8 各ケースの吸水防止層の厚さ(シリーズⅠ)
この理由を考察するため、囲い設置から囲い撤去までの期間に着目しました。囲い内では常に加温を続けています。塗布前の加温時間が22、27、45時間の22h-c-25h、27h-c-20h、45h-c-2hの3ケースは、塗布後もコンクリート表面に暖気が供給され続けています。ここで、塗布後の加温時間(●h-c-■hの■)に着目したところ、塗布後の加温時間が長いケースほど、吸水防止層の厚さが大きい傾向が見受けられました。以上のことから、塗布前の加温時間は、水分を減少させることを念頭に設定すれば、必要以上に長くする必要がない一方、塗布後の加温継続も重要と考えられます。
■ 塗布後に実施する加温効果の評価(シリーズⅡ)
シリーズⅠでは、コンクリート表面を乾燥させるための塗布前の加温はシラン系表面含浸材を含浸させる上で大切な工程であることが示されました。その一方で、塗布前に加えて、塗布後の加温工程も吸水防止層の形成に大きな役割を果たすことがあわせて示されました。
そこで、シリーズⅡとして、塗布後の加温効果に着目した現場検証を行いました。
図9に加温工程を示します。日中の外気温は約5℃でした。コンクリート主桁下面に囲いを設置し(写真1)、塗布前日に加温を行いました(以下、事前加温と記します)。図10は塗布前日から塗布当日までの間、コンクリート表面の水分状態の変化を把握するために行った電気抵抗式水分計の測定結果の推移です。事前加温開始前のコンクリート主桁下面は結露状態で、カウント値は500を上回っていましたが、事前加温を6時間行ったところ、約150まで減少しました。その後、塗布後の加温(以下、事後加温と記す)の効果をわかりやすく把握するため、塗布作業までの間、加温を停止することとしました。塗布当日のコンクリート主桁下面のカウント値は約100~150で、加温停止による大幅な数値上昇は見受けられませんでした。塗布後に実施する事後加温の時間は、0、2、16、20、24時間の5ケースとしました。それぞれのケースの記号は、シリーズⅠと同様に実験の流れで表現することとし、事前加温は全ケース同じ内容であるため、塗布を表す「c」(coating)と事後加温時間の2つを組み合わせた形としました。
図9 加温工程(シリーズⅡ)/図10 塗布前日から塗布当日までの電気抵抗式水分計のカウント値の推移(シリーズⅡ)
図11は事後加温時間と吸水防止層の厚さの関係を示しています。材料Aの場合、事後加温が0時間のケースは2mmであるのに対し、事後加温を16~24時間行ったケースは6~9mmで、厚さが3~4倍大きい結果となりました。材料Bは、事後加温0時間に関しては、吸水防止層が確認されませんでした。一方、記号c-20hを除くと、事後加温を16~24時間行った主桁下面では約6mmの吸水防止層が確認され、総じると、事後加温の時間が長いほど、吸水防止層の厚さは大きくなると言えます。
図12は塗布直前に測定した電気抵抗式水分計のカウント値と、1~2ヶ月後にコア採取によって測定した吸水防止層の厚さの関係を示しています。シリーズⅠにおいては、カウント値が約100~150の主桁下面へ塗布したケースでは、いずれも吸水防止層の形成が確認されましたが(図7)、シリーズⅡでは、事後加温を行わなかった材料Bのc-0hに関して、塗布直前のカウント値は約100であったものの、吸水防止層は確認されませんでした。
シリーズⅡを実施したときの塗布前日および当日の最低気温は、前日が1.3℃、当日が-0.3℃でした。加温時の囲い内の温度は、シリーズⅠのときと同じく約45℃でした。塗布前日の夜間に一旦、加温を停止しましたが、囲いを撤去していないこともあって、囲い内の空気は乾いた状態が持続し、塗布時のコンクリート主桁下面のカウント値は約100で、乾燥状態が保持されていました(図12)。c-0hは塗布後、事後加温を行わずに囲いを撤去していますので、シラン系表面含浸材が十分に含浸していない段階から温度低下が始まることになります。
図11 事後加温時間と吸水防止層の厚さの関係(シリーズⅡ)/図12 塗布直前の電気抵抗式水分計のカウント値と吸水防止層の厚さの関係(シリーズⅡ)
空気は、乾いた空気中に水蒸気が含まれる状態で存在しており、この状態は一般に湿り空気線図で表現されます[4]。図13は湿り空気線図を概念的に示したものです。絶対湿度が一定の場合、温度が低下すると相対湿度は高くなります。事後加温を行わなかったc-0hは、塗布直後に囲いを撤去したことで、シラン系表面含浸材が十分含浸していない段階でコンクリート主桁下面が外気と接触し、コンクリート表層の相対湿度が冷却によって上昇することで表層空隙の水蒸気が液体に変化し、シラン系表面含浸材の含浸が阻害されたことが考えられます。また、主桁直下が河川であったことも湿度上昇の要因と考えられます。
図13 シリーズⅡにおけるコンクリート主桁表層の空気状態の変化の概念
一方、事後加温を実施したc-2h、c-16h、c-20h、c-24hは、加温による温度上昇に伴ってコンクリート表層の相対湿度が低下し、塗布後も暫くの間、表層空隙は乾燥状態が続くことになりますので、シラン系表面含浸材の含浸が進行したと考えられます。今回の現場検証では、事後加温の時間が長いケースで、吸水防止層の厚さが大きい傾向が示されました。すなわち、塗布後の温度保持のための事後加温は、吸水防止層の形成に大いに資すると言えます。
■ おわりに
本稿では、シラン系表面含浸材の塗布を冬期に行う場合においても吸水防止層を確実に形成させるための施工技術の確立を目指し、冬期に道路橋のコンクリート主桁下面における現場検証の結果について紹介しました。
ここでは、(1)電気抵抗式水分計は、シラン系表面含浸材の塗布の可否を判定するためのコンクリートの水分状態の管理手法として適すること、(2)塗布前の加温時間は、適切に乾燥させることを念頭に設定することが重要であり、必要以上に長くする必要がないこと、(3)塗布後に行う事後加温は、吸水防止層の形成に大いに資するため、塗布後も半日~1日程度、加温を続けることが望ましいことを示しました。
シラン系表面含浸材による性能発揮は、材料の品質はもとより、水分や温度管理など施工も大きく影響します。本稿の内容がシラン系表面含浸材の適切な施工の参考となれば幸いです。
参考文献
[1] 土木学会:表面保護工法設計施工指針(案)[工種別マニュアル編],コンクリートライブラリー119,p.149,2005.4
[2] 谷倉泉,榎園正義,後藤昭彦:床版防水工における水分計の適用性に関する研究,構造工学論文集,Vol.59A,pp.1112-1123,2013.3
[3] 令和4年度国土交通省北海道開発局道路設計要領,第3集橋梁,第2編コンクリート,参考資料B「道路橋での表面含浸材の適用にあたっての留意事項」
[4] 手塚俊一,藤田稔彦:湿り空気線図とその応用(1),空気調査・衛生工学,No.57,Vol.12,pp.1239-1250,1983.12