道路構造物ジャーナルNET

㊶維持管理の重み(その2)

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.02.01

(1)はじめに~最近の話題~

  1月号にて新年のご挨拶を申し上げようと思っておりましたが、年末・年始ボケで忘れていました。少々遅くなりましたが、あらためまして「新年明けましておめでとうございます。本年もよろしければ小生の記事をお読みいただければ幸いです」。

 ①阪神大震災から28年、日本と世界の地震
 1995年1月17日、AM5時46分、震度7の巨大地震が神戸を襲った。20世紀末に未曾有の巨大地震が日本のそれも神戸という大都市を襲うとは誰も予想していなかった。神戸の様な大都市を襲った地震は稀であり、死者は6,434人。日本で過去100年以内に震度6強~7の地震が14個発生している。震度7は、阪神大震災(1995.1.17)(直下型)、新潟県中越地震(直下型)(2004.10.23)、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)(海溝型)(2011.3.11)、熊本地震(直下型)(2016.4.14)、北海道胆振東部地震(直下型)(2018.9.6)。震度6強は、鳥取県西部地震(直下型)(2000.10.6)、宮城県北部地震(直下型)2003.7.26)、能登半島地震(直下型)(2007.3.25)、新潟県中越沖地震(直下型)(2007.7.16)、岩手・宮城内陸地震(直下型)(2008.6.14)、東日本大震災の余震4個(2011.3.11~4.7)、山形県沖地震(直下型)(2019.6.18)。阪神大震災以降、東日本大震災を除き内陸直下型地震が頻発している。特に、震源が浅い場合は甚大な被害が発生することになる。ここで全世界の既往地震に目を向けてみることにする。1900年以降に発生した巨大地震を規模によってランキングした資料があるので紹介する(表‐1参照)。第1位は、1960年のチリ地震(海溝型)でM9.5である。この地震の際は、遠く離れたチリから約22時間をかけて日本沿岸に津波が到達したことが話題となった。第3位にスマトラ島沖地震(海溝型)。阪神大震災後に発生した巨大地震であり、津波による多数の死者が出たことが大きな話題となった。第4位は東北地方太平洋沖地震(海溝型)でM9.1である。スマトラ島沖地震と同様にプレート境界型地震で津波による多くの犠牲者が出たことは記憶に新しい。

  ★地震規模のランキング上位は、当然の如く、海溝型(プレート境界型)地震が独占している。
  ★チリ地震による日本での津波は、三陸海岸で8m。その被害は北海道から沖縄に至る太平洋岸に及ぶ。

 もう一つ、地震の被害ランキングについても紹介する(表-2参照)。第1位は、1976年の唐山地震(中国)で死者・行方不明者が42,000人。次いでスマトラ島沖地震で226,000人。第6位に関東大震災105,000人となっている。

 ★地震被害(死者・行方不明者)ランキングは、スマトラ島沖と関東大震災以外は内陸直下型地震が上位を独占している。
 ★唐山、ハイチ、海原、アシガバート、四川何れも地震に弱い建物が多数倒壊した。
 ★関東大震災は、耐震基準策定前の多くの建築物が被災(火災・倒壊)。その他、液状化による地盤沈下、崖崩れ、沿岸部の津波等。

 最後に、巨大地震による経済的被害ランキングでは、第1位東北地方太平洋沖地震(32.8兆円)、第2位阪神大震災(21.3兆円)、第3位四川大地震(17.5兆円)となっている。

 ②地域インフラ群再生戦略マネジメント
 イ)社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会の提言
 12月2日、国交省の社会資本整備審議会・交通政策審議会技術分科会技術部会の提言『総力戦で取り組むべき次世代の「地域インフラ群再生戦略マネジメント」~インフラメンテナンス第2フェーズへ~』が公表された(図-1参照)。

 提言の主なポイントは、市区町村における財政面・体制面の課題等を踏まえ、各地域の将来像に基づき、複数・地域・他分野のインフラを「群」として捉え、総合的かつ多角的な視点から戦略的に地域のインフラをマネジメントする、「地域インフラ群再生戦略マネジメント」を推進する、こととしている。この提言を見て違和感を感じるのは私だけだろうか。非常に耳障りが良く、凄く良いことを書いてはいるが道路法が改正された10年前にも同じようなことを言っていなかったか。とは言え、道路橋の定期点検も一回りし、地公体等が管理している個別施設の現状(現況)が把握され、各自治体で濃淡の差はあるが一応個別施設計画が策定された。はっきり言って、「絵に描いた餅である」。財源(不足)や技術者の問題(質と量)もいない、で計画が進んでいないことは誰もが知っている。技術部会の中で示された「事後保全型から予防保全型に転換すれば維持管理に要する総費用は大きく削減される」という「マヤカシ」を皆さんは信じますか。新設橋ならまだしも建設から50年になりそうな橋が40%以上を占めている。地方自治体が管理する多くの橋梁は予防保全型維持管理が適する時期を逃しているのは周知の事実である。橋自体の年齢や損傷が軽微であれば予防保全型維持管理に移行は可能である。ネックになるのは財源と技術者不足である。では予防保全型維持管理が可能なのは、人員があり余っている高速道路会社、国、財源が潤沢にある政令指定都市や大都道府県くらいではないのか。前月号の記事にも書いたが、老朽化施設を数多く抱えている弱小市町村を上位組織の都道府県や国がどれだけ支援し、救えるのかにかかっているのである。
  今回、12月に国交省がプレス発表した「地域インフラ群再生戦略マネジメント」~インフラメンテナンス第2フェーズへ~を是非とも熟読してもらいたい。

ロ)推進イメージ(案)(図‐2参照)
 技術部会で示された技術推進イメージ(案)を見て頂きたい。計画策定プロセスが示されている。複数・他分野の施設を「群」としてまとめて捉え、地域の将来像に基づき将来的に必要な機能を検討、することとしている。個別施設の維持、修繕、更新、集約・再編の検討である。
 テレビ番組で最近よく流れている山奥の集落で生活する人達。ある集落では過疎化が進んで1軒しか残っていない。市町村道(公道)から分岐した民地の道路は住民が修繕するしかない。
 しかし、誰も住まなくなった集落に繋がる市町村道はいづれか消される。家や橋と同じである。使わなければ朽ち果てる。近畿のある吊橋(歩道)は、市道〇線や村道〇線として存続する限り廃橋となることはない。人が住まなくても、畑や山林の管理で使用するのである。熊野古道に関係する橋もある。つまり、「橋の存続の判断」は、自治体が勝手にすべきことではない、ということ。管理者と地元が双方の意見や考えを共有し、結果的に存続の判断を両者合意の上で発表する。当然、行政側は費用対効果を示さなくてはならない。特殊な橋(例えば歩道吊橋など)であれば維持管理上の課題(費用や技術)も勉強しておかなくてはならない。

(2)維持管理の重み(その2)

 前号の記事で 定期点検後の「措置」の実態についてNHKがまとめた数字を示した。国が求める「5 年」を超えて対策に着手できていない橋の割合は、国0%、都道府県4%、政令市15%、市区町村16%、道路公社4%、高速道路会社0%となっている。全体では補修の必要な橋61,388橋、5年以上未実施の橋6,967橋、未実施な橋の比率11%となっている。
 何と5年以上「措置」が未実施の橋の比率が11%。ということは、「通行止め」にしている橋が全体の10%を超えているわけである。つまり、10%の橋が地元にとっては有れば良いが、無ければ無くても良い、わけである。乱暴な言い方ではあるが通れるなら通りましょう。通れなければ使いません。代替えルートが無ければ忽ちに修繕するはずである。
 技術部会でも触れてはいるが「個別施設計画」が多くの地公体で策定されているようである。この個別施設計画が十分に検討・吟味されたものなのか。「絵に描いた餅」になっていないのか、初心に帰って見直すべきではないのか。

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