道路構造物ジャーナルNET

㊵維持管理の重み

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2023.01.01

(1)はじめに~最近の話題~

①五輪汚職事件
 無観客で行われた東京五輪・パラリンピックが無事成功裏に終わったと思ったら、当然の如く五輪委理事への贈収賄事件が発覚した。スポンサーになるためにせっせとお金を貢ぐ体質はどこの国も同じである。こういうスポーツを食い物にする委員を選んだ理由と任命責任者を記者会見させるべきではないか。

 ②公共事業に関わる汚職事件
 公明正大な入札改革を掲げて一般競争入札が施行されて早30年ほどになる。この間、品確法等が定められたり、デザインビルドや総合評価方式等が施行され、標準化されていった。阪神高速時代、設計の立場で試行を繰り返し、徐々に定着していったと思っていた。ところが、世の中には相変わらず情報を漏らす発注者が多いこと。折角作り上げた入札制度の仕組みが根幹から崩され、無意味になってしまう。

③大阪湾岸西伸部の長大橋建設
 湾岸西伸部の長大橋計画については、道路構造物ジャーナルNET 2021年11月1日号、「大阪湾岸西伸部斜張橋計画雑感」でも触れさせていただいた。業界やら各方面から海上区間の設計が思うように進捗していないようだ、と聞く。載荷試験を行ったが想定支持地盤の支持力が出ない、主桁・主塔の耐風性がクリアできていない、工事費が大きく膨らんだ、等々。この期に及んで何でそういう議論になるのであろうか。高名な先生方が名を連ねている委員会、日本を代表するような受注額を上げているコンサルタント、長大橋の設計では実績十分なコンサルタント、などが参画している。

 平成20年当時、神戸の設計課長時代に湾岸9期の事業費削減のWG委員をさせて頂いた。その時は、事業化するためにはコスト縮減が避けて通れないということであった。個人的には(2021年11月号ジャーナルにも書いたが)多径間吊橋を推していたが、委員会の目的が事業費縮減検討であったことから色々な案を各自が提案した。それからわずか10年もしない間に5径間連続斜張橋案が示された。よく使う手段ではあるが、着工するために事業費を安く見積もる。その後、時機を見て事業費の増額を行う。この手法は、これまでの日本の大規模公共事業では当たり前のように行われた。関空の沈下問題もそうである。事業費の大幅な膨張と工期遅延を想定外沈下で逃げた(道路構造物ジャーナルNET、2021年2月1日号、公共工事における権利者-過去の経験を未来に-)

 私が福岡県の課長時代に「北九州空港連絡橋」事業を担当した。当初は、有料道路事業200億、補助事業等325億でスタートし、最終的にはオール補助事業(1/2補助)で国と合意した。夢のような空港利用計画が策定(県)され、山口宇部空港、福岡空港(及び将来の九州国際空港)と圏域が按分されていた。その空港利用者から空港連絡橋の通行料金を徴収するのである。私ならば自家用車では渡らない。絶対リムジンバス。だから、県の上層部にオール補助事業を道路建設課と共に訴えた

(2)維持管理の重み~インフラ老朽化の実態~
  ①インフラ老朽化について

①インフラ老朽化について
 12月7日、NHKニュース おはよう日本 「老朽化で撤去される橋も・あなたの街は?」を出勤前の慌ただしい時間ではあるが見てしまった。当然留守録に。その内容にびっくりしたのは私ではなく妻の方であった。「老朽化した橋が落ちた」とか「直せない橋が増えている」とか、10年前に安易に予想できたことがそのまま画面で流されているではないか。市町村では予算が無い、技術者が居ないから金銭的、技術的な面で国が手厚く支援するという掛け声のもと道路法改正が行われたのではないのか。

 5年に1回の近接目視点検がスタートしてから2巡目が終わろうとしている。では、今現場で何が起こっているのか。山形県の遊佐町の栄橋(1956年完成、長さ125m)は、老朽化で危険な状態ということで「通行止め」の措置がなされた。その間に補修や架け替えの検討を行ったが補修をするのにも既に手遅れだった。架け替えには莫大な費用が掛かる。10年間放置した後、落橋したのである。この橋は、農地や森林を管理するために住民にとっては重要な生活橋であったようである。
 この事例を含め、行政側の問題点を整理・指摘する。
  ★住民の生活橋を手の付けられない状態まで放置した。⇒行政は生活橋と判断しなかった。
  ★出来る限りの保全対策を講じなかった。→通行止めにしているから大丈夫だという認識。
  ★通行止めにすればそれで良いという役所の考え方。⇒使用しないのだから現状維持。

 色々なところで講演する際に言うのだが、橋は家と一緒で使わなければどんどん傷んでくる。検討する暇と時間があるのであればホームセンターで材料を買い、DIYで補修をすれば良いではないか。やっている自治体はいくらでもある。
  ★絵に描いた餅と言わざるを得ないコンサルタントが作成した「長期修繕計画」をバイブルのように崇めている。本当に理解しているのか。時々刻々と変わる情勢を反映して改訂しているのか。
  ★国は手助けをしたのか。→篩にかけられて外されるなら、外されないような努力をしたのか。
  ★都道府県ごとの「メンテナンス会議」は、機能しているのか。⇒NEXCO絡みの道路が対象であり蚊帳の外になっている。
  ★富山市でのトリアージの問題

  優先度を付けて、優先度が低い橋は撤去せざるを得ない、と述べていた。そもそも、そういう道路計画を策定し、代替えを含む多くの橋梁を作ったのは誰の責任か、考えて欲しい。少子高齢化の人口減少で都会に移っていくのは他県でも同じである。私が知っている自治体は、しっかり考えて「長期修繕計画」を立て、時々刻々と見直しをおこなっている。
  ★住民との話し合いの場を。⇒行政側が優先度が低いと言って勝手に橋を撤去するのは如何なものか。利用・使用状態により、道路規格の見直しや限定利用もありじゃないのか。

②老朽化と措置の実態
 このニュースの中で老朽化の実態と道路橋の補修状況について興味ある数字が示されていた。つまり、国交省がメンテナンスサイクルを確定し、道路管理者の義務を明確化した件である。点検、診断、措置、記録を5年ごとに行うこと、診断は統一的な尺度で健全度の判定を四段階に区分。これに基づき措置が行われる。
 「措置」とは?
  〇点検・診断の結果に基づき計画的に修繕を実施し、必要な修繕が出来ない場合には通行規制・通行止め
  〇適切な措置を講じない地方公共団体には国が勧告・指示

 ではNHKが公表した数字の中で国が求める「5年」を超えて対策に着手できていない橋の割合は、国0%、都道府県4%、政令市15%、市区町村16%、道路公社4%、高速道路会社0%となっている。全体では補修の必要な橋61,388橋、5年以上未実施の橋6,967橋、未実施な橋の比率11%となっている。言い出しっぺの国や通行料金を頂いている道路会社の0%は当然としても、その他の管理者で未実施率4~16%は如何なものか。当然のことながら「適切な措置を講じない地方公共団体には国が勧告・指示」をしているのであろう。

(3)小規模吊橋雑感(連載)

前号に引き続き、小規模吊橋の他県の状況を探るために我がふるさと(島根)の吊橋1橋と岐阜県の吊橋5橋を紹介する。

①出雲市内のA吊橋(写真‐1参照)
  11月下旬、現在の会社に呼んでいただいた方から突然の電話が入った。我が故郷、出雲の吊橋について技術支援をしていただけないかと。事前に吊橋の点検写真と図面を送っていただき、凡その診断と一次診断を実施。残りは、現地に赴いて管理者とディスカッションの後、現場踏査を踏まえ二次診断という形をとった。神戸から片道電車で5時間。久しぶりに振り子電車の伯備線・やくも号に乗車した。
  ・所在地  島根県出雲市
  ・建設年  1950年
  ・全長      100m
  ・幅員   2.0m
  ・橋梁形式   単径間補剛(ポニートラス)吊橋
  ・用途     歩行者等

 A橋は、主ケーブルにロックドコイルロープ(C形、φ50)が使用されている。ロックドコイルロープを使用した橋は尾道大橋(広島県尾道市)以外では初めて見た。ロックドコイルロープは、スパイラルロープの外層にZ線、T線と呼ばれる異形断面の素線を配置することにより、表面が平滑となり、ロープ内部への水の侵入等が抑制され高い防食性能を有している。このため、主ケーブル自体には変状が無い。しかし、本橋の架設場所は日本海の海岸線から1.2㎞と非常に飛来塩分の影響を受ける環境である。日本海から吹き付ける潮風は鋼構造物にとっては大敵である。主塔や補剛桁の塩分が流されない部位では発錆や腐食が進行していた。いずれにしてもこういう立派な吊橋が故郷にあったことに非常に驚いた。

②美濃橋(写真‐2参照)
  美濃橋は、完成当時(1916年)国内最大級、現存する最古の近代吊橋である。
  ・所在地  岐阜県美濃市曽代(~前野)
  ・完成年  1916年
  ・橋長    113m
     ・有効幅員  3.1m
  ・橋梁形式  単径間補剛桁(ポニートラス)吊橋
  ・用途    歩行者(+自転車)
  ・大規模修繕工事   平成20年度


写真-2 美濃橋

 美濃橋は、一級河川長良川に架けられた現存する最古の近代吊橋である。両岸に聳える主塔はまるでブルックリン橋の如く重厚感を醸し出している。この橋も両岸に耐風索を設置できなかったことから補剛桁構造(ポニートラスとし、鉛直方向の活荷重たわみや風荷重による水平たわみを抑える)としている。面白いのは、構造的にここまで頑張っているのに何でハンガーロープのケーブル定着はひっかけ構造にしたのか? 近畿地方の小規模吊橋で見られるバンド無しの定着構造である。これではハンガーロープがケーブル上をスリップしたり、ケーブルやハンガーロープの腐食の原因にもなるのに「もったいない」というしかない。当然のことながら、近傍のハンガーロープに過大張力が発生したり、良いことは何もない。

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