道路構造物ジャーナルNET

②技術者倫理

失敗から学んだコンクリート打設

株式会社ファインテクノ
調査計測部
マネージャー

平瀬 真幸

公開日:2023.01.01

手本を示し、その手本に従ってコンクリート打設を行わせ
 そして発注者褒めちぎり、大きな波を作る

 以下、第5回目生コン打設

 5回目のコンクリート打設は、早めに現場に到着して材料を見てみると予想通り軟らかいコンクリートであり、施工も助言に従っていませんでした。私は相川係長に対して「やっぱり予想通りのシャブコンと段取りのようです。これでは5回目も失敗確実ですので、お約束した通りの行動をとる事にします」と伝え、打設を数分止めて全プレイヤーにコンクリートについて次のような話をしました。

 【公共工事の在るべき姿、締固めで表層を密実とする理由、コンクリートの劣化イメージ、コンクリート打設の良否によって左右されるストック効果】等について、そして最後に「皆さんの力で国のストック効果を最大に得られるよう、そして子々孫々の誇りとなるものとしましょう」といった事を伝え、私がバイブレータを手に取り締固めの手本を見せた後、作業員に見様見真似で締固めてもらいました。その1回で下の添付写真のような綺麗なコンクリートを構築し、打合せ通り相川係長に褒めちぎっていただきましたが、その効果もあって施工者は大きな波に乗っていく事になります。発注者のお言葉は神託の如く重く効果絶大ですね。

冬場においては再振動をできるだけ遅くすることが重要
 失敗しても労い、モチベーションを維持させる

 第6回目のコンクリートについては、5回目フーチングの時より施工に対するモチベーションと品質向上を期待しました。実際、現場へ到着すると数分で大きな違いが感じられ、経験が生かされている事を実感できました。
 まず、コンクリートは可能な範囲で最も硬いであろうスランプ6.5cm以下で注文しておりましたし、それを当たり前に締め固めて空気を排出させておりました。ただし、ブリーディングが生じていましたので天端に累積された自由水が多い事を推測し、それを排除しなければならず、排除しても沈みひび割れのリスクが高いと指摘しました。
 コンクリートの水分がゆっくり抜ける冬場においては、数時間後に沈みひび割れが発生するのでそれを見極めて棒バイブを用いて、再振動しなければ解消できません。この現場でも再振動を出来るだけ遅くするよう助言して現場をあとにしましたが、そのような事を経験した事がない施工者ですので、天端Pコン周辺にひび割れを発生させてしまいました。

 施工者としてはガッカリしておりましたが、彼らの有する技術力にてできるだけのことをやり尽くした事から、彼らの労をねぎらい「次回につながるし、沈みひび割れ対策は経験がないのだから良い勉強です。次回は改善策があるのでさらに良くなると思います。あと少しです」と声をかけました。

7回目で不具合は根絶
 成功体験により自信ができ、現場も活気

 最後の第7回目において、それなりの達成感を感じて欲しかったので、事前に入念な打合せを実施しました。打設5回目までは「分りました。大丈夫です」など通り一遍の返事しかありませんでしたが、成功体験もあってか前向きな質問もあり技術の向上やそれに伴う自信を感じさせるようになりましたので、一定の成果が得られるであろうことが期待できるようになりました。

 コンクリート打設当日の現場確認は午後からとなりましたが、現場でヒヤリングしてみると彼らなりの達成感もあって、今までで一番ハキハキしておりました。施工中の彼らの自信に満ちた受け答えに、沈みひび割れなど不安要素がない訳ではありませんでしたが、条件が良かった事もあり仕上がりは以下の写真通り綺麗なものとなり不具合も根絶されました。

 このような公言、実行は広島県にて2現場で成功し、九州でも複数回成功しております。
 個人的に経験を積む度に、コンクリートへの新しい気付きも尽きることがなく、それによって今まで見落としていた事もあって解決しなくてはならない事が増えてきております。技術者人生終盤になって、課題が増えるばかりですが気付きがあるととても嬉しいです。
 コンクリートの寿命はコンクリート打設当日でほとんど決まると思いますので、最高品質と確認できた躯体には何かしらの評価をしていただけたら施工者も頑張る理由ができるかと思います。先月紹介しました、広島県の品質向上の表彰式は、実は国土交通省近畿地方整備局の【コンクリート構造物品質コンテスト】を参考にして提案したものです。とても良い仕組みだと感激しましたが、お考えになった方々の慧眼・情熱・技術者倫理に頭が下がる思いです。そうした【コンクリート構造物品質コンテスト】の全国版などがあればさらに楽しそうだと個人的に思っております。
 今回紹介した現場ですが、完成検査において検査官から「綺麗なコンクリートを造ってもらって発注者で評判になっている。今後も期待しています、ありがとう」とお褒めの言葉をいただいた施工者はとても嬉しそうでした。そうした事があってか、数年経ったいまでも良いモノ造りを継続できております。今回紹介しました現場のように、施工者を育て・褒め・独り立ちさせ、自然と良いモノ造りがなされるような、それが当たり前の世の中が来ないか、そのためにできる事は無いだろうかと日々考えておりますが、私に力が無いので現状は独り言で終わっております。

 ただ、小さな人間だからと自分を諦めず、私が最底辺だとしても国家の繁栄を願って行動するのは大切な事かと思いますのでこれからも行動し続けたいと思います。私は中国・九州の駆体を頻繁に見学しておりますが、1年前あえて雪国の様子を勉強するために予報では災害級の大雪警報が出された日を狙って本州豪雪地帯や本州最低気温を記録した地域をほとんど下道で走破しました。行きは日本海側山間部を中心に、帰りは太平洋側山間部を見学しました。さらには2ヶ月前も岐阜県山間部・富山県山間部などを見て回り多くの気付きを得ました。コンクリートを見るのは雪がない季節が効率は断然良いと思います。

 しかし、真冬と秋に見学して感じたのは、どちらにおいても感じる事や気付くことに差があって、様々な状況で見た方が気付きもより多く具体的なアイディア・閃きが浮かびやすいようにも感じる事ができました。時間は大切ですが、これ一つとっても本質は何かと考えると、勉強のため気付きを得る為の旅でしたので、真冬の見学など時間はかかりますが、それが近道になる時もあるのではないかと様々な気付きから何かを感じる毎日です。
 今回も独り言を思いついたまま執筆しました。次回も何を題材とするか決めておりませんが、精一杯考えたいと思います。
 最後に、工事に関係してくださった皆様ありがとうございました。
 拝読いただきました皆様に感謝を申し上げるとともに、皆様にとりまして健康で幸多き一年となる事を祈っております。(次回は2023年2月に掲載予定です)

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