(2)小規模吊橋雑感
前号に引き続き、小規模吊橋の他県の状況を探るために我がふるさと(島根)の吊橋2橋と日本一の支間長を有する箱根西麓・三島大吊橋(三島スカイウオーク)について紹介する。
①安富橋(写真‐3参照)
国道9号線の脇、過去4年連続清流日本一に輝いた高津川に架かる2吊橋の一つ。知ら
なかったが映画「男はつらいよ寅次郎恋やつれ」のロケ地であり、寅さんも渡ったとのこと。
・所在地 島根県益田市安富町(市道内田安富線)
・建設年 1950年
・全長 255.3m
・幅員 1.5m
・橋梁形式 鋼3径間2 ヒンジ補剛桁(ポニートラス)吊橋
・用途 歩行者・二輪車
・大規模修繕工事 平成28年度 概算補修単価 凡そ、310千円/m2
(主ケーブル交換、部材補修補強、塗装塗り替え他)
写真-3 安富橋(島根県益田市)
安富橋は、主ケーブルの損傷等が発見されたため、通行止めの後、大規模修繕工事が実施
され、現在は雄大な姿を見せている。そもそも何で吊橋が必要なのか、と考えるところではある。推測するに、一級河川高津川に架けること(河積確保で橋脚を少なく)、漁業(生態系)に大きな影響を与えないこと、からであろう。また、水平方向、鉛直方向の剛性を付加する耐風索も設置できないことから補剛桁(ポニートラス)を採用したのであろう。構造的に感心したのは、3径間2ヒンジ吊橋をよく選定したことである。歩道吊橋で一般的なのは単径間吊橋である。両側径間が長くなるので吊り構造にしているのには感心した。施工は苦労したであろう。
②飯田(吊)橋(写真‐4参照)
国道187号線の脇、過去4年連続清流日本一に輝いた高津川に架かる2吊橋の一つ。
・所在地 島根県益田市飯田町(市道須子飯田線)
・完成年 1955年
・全長 165.6m
・有効幅員 3.0m
・橋梁形式 鋼3径間2ヒンジ補剛桁(ポニートラス)吊橋+RC単純床版橋
・用途 自動車・二輪車・歩行者 制限荷重3トン
・大規模修繕工事 平成24年度~27年度 概算補修単価 凡そ、523千円/m2
写真-4 飯田(吊)橋(島根県益田市)
飯田(吊)橋は、主ケーブルの損傷等(吊索の断面欠損の事例;丸鋼φ28→φ21~22㎜、その他鋼部材の著しい腐食)が発見されたため、通行止めの後、大規模修繕工事が実施され、現在は雄大な姿を見せている。安富橋との大きな違いは自動車荷重の載荷(制限荷重3t)である。吊橋の必要性については安富橋と同様、推測するに一級河川高津川に架けること(河積確保で橋脚を少なく)、漁業(生態系)に大きな影響を与えないこと、からであろう。
補剛桁(ポニートラス)を採用しているのは、鉛直方向の活荷重たわみや風荷重による水平たわみを抑えるためであろう。主塔はRC製であり正面の形状は外国製の主塔のように美しいというのが第一印象であった。
③番外編 箱根西麓・三島大吊橋(愛称;三島スカイウオーク)(写真‐5参照)
道路構造物ジャーナルNET、2022年8月1日号、小規模吊橋雑感にも取り上げたが、日本最長の歩道吊橋である。
・所在地 静岡県三島市笹原新田
・完成年 2015年
・全長 640m
・中央支間長 400m
・有効幅員 1.6m
・橋梁形式 単径間無補剛吊橋
・用途 歩行者専用
・建設単価 6,250千円/m2
写真-5 箱根西麓・三島大吊橋(愛称;三島スカイウオーク)
三島スカイウオークは、静岡県で遊技業を展開する民間企業が観光収益と地域貢献を目的として建設した長大歩行者専用吊橋である。構造に関する特徴的なものを以下に示す。
★主塔 φ1,400㎜、板厚23㎜の鋼管を曲げ加工。表面には凸凹無し。主塔内には点検用梯子を設置。
★主索 高強度スパイラルロープ(φ47.5㎜×7本/ケーブル)を使用。
★耐風索 水平面内、鉛直面内の剛性を高めるために非常に規模の大きい耐風策を設置。やり過ぎ感が否めない。
★床構造 風抜きのため、オープングレーチング構造を採用(写真-6参照)。
(3)最後に
10月30日、インドで歩道吊橋が落橋した。これは人災である。原因については現在調査中のようではあるが、①ずさんな改修工事(錆びたケーブルが未交換で良かったのか、悪かったのか不明)、②改修前は通行制限(20人~30人)が設けられていたが、改修後は制限されていなかったことによる荷重オーバー、③インフラ工事の経験がない地元業者が補修工事を受注したこと、のようである。さらに、受注業者は自治体から建築基準法を満たしたことを証明する「適合証明書」を取得していなかった、ことも判明している。
本件で特に重要なことはケーブルの評価ではないかと考える。錆びた(私は見ていないが)約140年前のストランドロープをそのまま使い続ける判断は私には到底出来ない。この吊橋がどういうフローで補修されたかは不明である。おそらく調査・点検会社や設計コンサルタントで継続使用可能と判断し(管理者は知識のないまま承認)、補修設計を行い、補修工事発注となったのであろう。
問題なのはケーブルの健全性が定量的に評価されたのかどうか、である。道路構造物ジャーナルNET、2022年8月1日号、小規模吊橋雑感にも取り上げたが、ある吊橋(古都の)でケーブルの詳細調査診断は不要(別に要らないんじゃないの)と行政側に一方的に判断された。吊橋構造を熟知し、ストランドロープの特性や劣化評価に秀でた素晴らしい技術者が行政側に居たのであろうと脱帽した。私も経験を積んでそういう技術者になりたいものだ。
話は戻すが、世界各地で落橋が相次いでいる。日本では近接目視による定期点検が平成27年度から本格的に始まり、2巡目がもうすぐ完了する予定である。これまでの経験で小規模吊橋の健全度判定のⅢあるいはⅣ判定は殆ど主索(ケーブル)の錆・腐食である。山間部の小規模吊橋は、少子高齢化による人口減少で利用者が極端に少ない。その結果、補修の優先度が低くなり忽ち「通行止め」となる。吊橋(橋は全て)は、家と同じで使わないとどんどん傷み、劣化が極端に進行する。参考までに、調査した吊橋(島根県)2橋の補修単価を示した。ケーブルを取り換えると単価が跳ね上がる。しっかりケーブルの詳細調査診断を行って、継続使用するのか、取り換えるのか、検討するのは非常に重要なことである。
インドでの吊橋落橋事故を日本で再現させないためにも管理者の皆さん、しっかり考えてください。協力しますのでご一報をお待ちしています。(次回は2023年1月1日に掲載予定です)