1.4 高架橋以外の構造物の耐震補強
(1)盛土、切り取りの補強
高架橋の耐震補強が幾分進んできたころ、社長に呼ばれ、「首都圏の在来線は御茶ノ水付近など高架橋以外でも危険そうな場所があるだろう。鉄道はラインなのでラインとして補強の計画をするように」との話がありました。その必要性は私も思っていたのですが、盛土や切り取りなどの耐震診断の手法が確立されていないこともあり、すぐには実施できていませんでした。盛土の耐震診断もニューマーク法で行うということが土の関係の技術者で決まり実施が始まりました。盛土や切取りの補強対象も、いずれも崩壊すると人命や列車の安全運転が心配な個所から、危険度の高い順に選ばれています。写真-6は盛土の耐震補強の状況です。
写真-6 盛土の耐震補強
(2)その他構造物の対策
このほか、古い鋼橋脚や、無筋橋脚、レンガ橋脚、レンガアーチ高架橋なども補強が行われ、ラインとして全構造物についての補強が行われています。
写真-7は、橋脚下端がヒンジ構造の古い鋼製橋脚です。このヒンジ部が損傷する事例があるので、その部分の補強方法です。
写真-7 鋼製橋脚の補強
電柱もプレストレストコンクリートの電柱はピアノ線が多く配置されており、コンクリートの圧壊先行破壊が生じます。耐力を超えるともろく破壊するので、ピアノ線を切断して、鋼材が降伏するような配筋にして変形能力を大きくする補強(写真-8)や、鋼管柱に変える対策が行われています。数が多いので施工能力が追い付かなく、なかなか対策が進んでいないのが実態です。
写真-8 電柱の耐震補強
(3)鉛直支持と水平支持を分離した支承構造と支承部の補強
1978(昭和53)年の宮城県沖地震で、多くの支承が壊れました(写真-9)。
写真-9 鋳鉄製シューの地震での損傷
多くは鋳鉄製のシューです。水平移動制限装置が壊れ、鉛直支持と一体の構造のため補修が大変でした(写真-9)。その後は鉛直と水平の支持機構を分けた支承構造を原則としました。地震で支承部が被害を受けても、水平支持の部分だけの被害であり、鉛直支持は健全であるので、シューの全交換をしないで済み、早期の復旧が容易です。
鉛直支持はゴムシューを基本としています。鋼製シューは錆びたりして動かなくなることが生じます。ゴムシューは表面に亀裂が入ることもありますが、それでも動くという機能は維持します。かつて先輩からコンクリート桁のシューは、最初は縁を切るだけの馬糞紙だったのに、それに比べて今は高すぎる金の靴(シュー)を履いているよ、と言われました。コストの安い鋼板付きのパット型のゴムシューを今は基本にしています。
支承部の補強については、宮城県沖地震以降、桁座の拡幅や、落橋防止のための対策が行われてきています。
2.既存不適格の構造物の対応は個別構造物ごとに、工夫しないとコストがかかります
既設構造物でも用途変更などを行う時は、新設構造物と同じように現在の基準で設計を満足するようにしています。
駅などの構造物は、利便性などの目的で構造を変更することがしばしば生じます。大きな駅では、将来の利用を考慮して造られているものもあります。将来、地下階が増設できるように杭を長くして、地下に1層増やせるように造られた構造物もあります。
いざ必要になり、地下階を造る段階で、現行の設計基準で再度検討すると、多くの箇所で現行設計標準を満足しない箇所が見つかります。新たに造る部分ならどうにでも施工可能ですが、既に造られ、使われている構造物では、簡単に補強ができません。その場合、その部材が壊れたときに人的被害が生じない範囲であれば、部材の破壊を許すことも含めて検討し、判断します。特に駅構造物などはラーメン構造で、スラブや壁が一体的に造られています。
設計時は骨組みモデルでの設計ですが、その設計時のモデルでは壊れる部材が生じます。その場合は実際の構造に合わせた、スラブや壁を一体にしたモデルでの実験などを行って補強の必要性を確認することもあります。使っている施設を補強する工事費は非常にかかり、そのコストを考えると施設の改良をやめるという判断になることもあります。
実構造物の忠実な縮小モデルでの載荷実験などから耐力が確保できることが確認できることもあります。また、破壊する部材があっても、その破壊が人的被害を生じさせないのなら、その破壊を許容して、全体解析を行うことで、全体としての安全性を確認することもあります。設計基準は、新設を基本に考えています。また多くの部材の交番載荷実験も降伏耐力以降の荷重―変位関係などのデーターをとっていることがほとんどありません。既設構造物の評価には降伏耐力以降の、耐力を失うまでの挙動もしっかりと確認して全体解析ができるようにしておくことも必要です。
3.構造系の変更による耐震補強
特殊な環境条件では、各種の方法で耐震補強が行われています。鉄道の上を跨いでいる橋梁では、作業時間が夜の列車の走っていない間のみしかできないなどの制約から、線路内の橋脚を補強するのは非常なコストと時間がかかります。そのような場合は、線路内の橋脚への地震時水平力を、シューを全周方向に滑りシューにしてほとんど水平力を受けない構造にし、桁を連結するなどして線路外の橋脚を補強して、この線路外の橋脚でほとんどの水平力を負担するなどの方法も取っています。
大きな地震が相変わらず起こっています。鉄道構造物は耐震性能の小さい箇所から補強してきています。補強の終えた構造物や部材の損傷は報告されていません。補強の効果が出ているのは素晴らしいと思っています。
しかし、鉄道構造物の補強は靭性補強が中心なので、降伏したのちの変形能力を大きくする補強がほとんどです。L2 レベルの地震であれば、補強した部材もある程度損傷が生じてもおかしくないと思っています。気になって地震後に鋼板巻き補強の柱の鋼板を開けて確認したこともありますが、その例では、損傷は見つかりませんでした。曲げひび割れが入っても小さいと、塞がって気づかないだけなのか、構造物にL2の地震入力がなかったのか、気になっています。
同じ疑問は新しい耐震基準で造られた構造物にも言えます。JR東日本の新設のRC高架橋は地中梁のない内巻きスパイラルを配置したラーメン高架橋がほとんどです。L2地震に対しては、変形性能で耐える考えなので、大きな地震の後にはある程度損傷が生じるのではと思っていますが、東日本大震災の後でも、隣接の東北新幹線の高架橋に被害が生じているのに、並行して造られている新設の高架橋にはほとんど損傷が見られません。うれしい結果なのですが、技術的には割り切れない気持ちです。
地中梁のない高架橋なので、地震後には杭の周囲の地盤に空隙が生じていました。この土の部分で地震力を吸収しているのかなとも思っています。壊れた構造物の研究は多くの人が行いますが、その近くで壊れなかった多くの同じような構造物については報告されません。壊れた構造物については、地震動を変えたり、地盤条件を変えたりと被害に一致するような検討が一般に行われます。同じ考えで、近くの多くの構造物に被害がないことの説明はほとんどされません。多分自然環境はそれほど均一ではないのでしょう。
【参考文献】
1)岡田宏、石橋忠良、吉野伸一、古谷時春、斉藤俊彦;RC橋脚の耐震評価と補強例、構設資料No.84、1985年
2)宮本征夫、石橋忠良、斎藤俊彦;既設橋脚の鋼板巻き耐震補強工法に関する実験、構設資料No89 昭和62年
(次回は、2023年1月1日に掲載予定です)