道路構造物ジャーナルNET

㊲定期点検の意義

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2022.10.01

(1)はじめに
 ①尊敬する先生からの温かいメール

 道路構造物ジャーナルの連載記事を書かせて頂いて2022年9月号で全36回(丸3年)となった。これまでの技術者生活40数年で経験したトピックス(ノンフィクション)をありのままに書かせてもらった。ある会社からは「内容が厳し過ぎる」とのメールも頂いた。PC斜張橋建設時に発生した基礎の沈下問題の記事(2021年1月1日号、斜張橋の発展とケーブル)に関しては、北九州空港連絡橋設計施工委員会でお世話になった九大名誉教授の彦坂先生から御自身でとりまとめられた「沈下問題に関する各識者の意見」という貴重なレポートを頂いた。

 この中では、有明海沿岸道路橋梁検討委員会委員長としての関わり、委員会での審議経緯、原因究明のための調査と対策及び学識者等の見解、を非常に分かりやすく丁寧にまとめられている。特に、委員長あるいは委員会として今後の類似工事においての「留意事項」を提示されているのには頭が下がる。通常は、委員会や関係者のみ、つまり、その場限りで貴重な情報をクローズしてしまうのが役所流である。非常に有意義であり、かつ重要な内容なので以下に紹介する。

1)事前の入念な地質調査の実施
 以前にもジャーナル(2020年8月1日号、地盤の支持力評価~北九州空港連絡橋~)で少し触れた内容である。北九州空港連絡橋の基礎工の検討時(鋼管杭の支持力評価等)、当時の九大教授(地盤・基礎工部会長)であった落合英俊先生の言葉を思い出す。「調査費は事業費の5%くらいは絶対必要ですよね」と。

 こういう予期しないレベル(?)の不同沈下が発生した場合、その後、原因究明のための追加地盤調査や対策実施後の各種変位計測が実施される。この費用には制限があるのか。答えはノーだ。何らかの原因を見つけて、何らかの処置をし、結果を残さなければ委員会を組織した意味が無いし、世論が許さない。だから委員会から要求された調査はしなければならない。日本一のスパンを有するPC斜張橋だからなおさらである。PC斜張橋だから大反力基礎としてニューマチックケーソン基礎を選定したのである。架橋地点の有明海沿岸は有明粘土と呼ばれる軟弱な粘土層が厚く堆積しており、橋梁のような重要な構造物を建設する際には地域の地盤特性を詳細に把握するための調査が必須である(落合先生曰く)。

2)ニューマチックケーソン施工時、摩擦低減工法による沈下促進を行った場合、周面地盤の強度回復を十分に行う。
 大面積・大深度のニューマチックケーソン基礎の場合、躯体沈設の大敵はケーソンの周面摩擦抵抗力である。刃口及び函体の沈設がうまく進まなければ全体工程が遅延する。このため、沈下を促進させるため各種沈下促進工法が検討されることとなる。沈設時には地盤と函体の摩擦力を低減させるが、基礎工の完成以降は摩擦力(や水平地盤ばね)が回復していることが重要である。沈下促進には、載荷工法(圧入、荷重)や摩擦低減工法(振動発破、高圧空気や高圧水、表面活性剤塗布、泥水注入、NFシート等)が採用される。施工業者は、沈設を促進するために周面地盤を乱さないが時間や費用の掛かる「載荷工法」は採用しない。周面地盤を乱すが沈下速度が速い摩擦低減工法を採用した場合、主塔の施工、遅くても主桁の架設がスタートするまでには周面摩擦力の回復を行うことが必須である。例えば、地盤とケーソンの間にセメントペーストなどの充填材を注入するなど。

②山間部の橋梁群を発見

  9月の中旬、奈良県の山間部に架けられた小規模吊橋の調査に出かけた。国道168号線を南下する道中では至る所で災害復旧(のり面対策)工事が行われている。道すがら、別件で依頼されていた小規模吊橋の探索も兼ねていたこともあって、いつもの通り国道脇や河川脇を注意深く覗き込みながら目的物を探していた。本命の吊橋3橋の内、2橋は国道168号からすぐのところで発見出来た。地元に密着した吊橋の周辺をうろうろしていては不審者と思われるので30分程で調査を終えレポートを作成する。

 さて、残る1橋の探索に。山間部の吊橋が見つけにくいのはほとんどの場合、主塔が無いからである。つまり、地形の制約で直接主索を地山にアンカーしているからである。国道168号から市道にそれるとそこに雄姿が現れた(写真‐1参照)。中央支間長140m(幅員2m)弱の立派な人道吊橋である。日常的に使用されていることもあり、管理状態は良好である。川を挟んで対岸の集落と市道を連絡している。


写真-1 河川を跨ぐ吊橋

 この吊橋中央から周囲を見渡すと天晴れ!見事な橋梁群が目に入ってきた(写真‐2参照)。国道168号線に架かる宇井大橋(ライトグレ–?)、(旧)国道168号線に架かる宇井橋(赤色)及び市道のふれあい大橋(赤色)、である。景観に配慮して建設されたのであろうか。景観に配慮と言っても3橋が同時に視界に入るのはこの吊橋近辺のみである。新旧国道の橋梁形式は設計条件(荷重等)や時代背景(技術の進歩)でさほど違和感は無い。違和感があるのは「ふれあい大橋」である。何故違和感があるのかは後ほど述べることとする。
 3橋の橋梁諸元等は以下の通りである。
a.宇井大橋(国道168号線)
 完成年:1996年、橋梁形式:鋼単純下路式ニールセンローゼ橋、橋長:198m。
b.宇井橋(旧国道168号線)
 完成年:不詳、形式:鋼単純上路式トラス橋、橋長:不詳。
c.ふれあい大橋(市道)
 完成年:1997年、形式:三角ローゼ橋、橋長:94m。


写真-2 河川を跨ぐ3橋

 ふれあい大橋(写真‐3参照)は、斜ケーブルで桁を吊り上げたローゼ橋の一種である。国道の宇井大橋と市道のふれあい大橋の完成年からするとお互いに意識した橋であることは明らかである。ニールセンローゼ橋に対抗して三角ローゼ橋にしたのはやり過ぎではないのか。

 少し目障りなのが斜材同士のスペーサー(振動対策か?)と天頂でリブ同士をつなぐ対傾構モドキ。個人的にはローゼアーチ橋(垂直材はケーブル)で良かったのではないかと思う
が。さらに気になるのが塗装の状態である。山間部に架設された橋梁の塗装状態としてはあまり芳しくない。上塗りは、ポリウレタンか塩ゴムか。塗歴25年程度の割には良くないと感じる。冬期の融雪剤散布の影響もあるとは思うが、今後の維持管理が心配である。


写真-3 ふれあい大橋(三角ローゼ橋)

 さて、今回は平成26年度道路法改正によって義務付けられた「定期点検」と密接に関連する詳細点検について記述する。

(2)定期点検について

 アメリカ・ミネアポリスでのトラス橋(I-35W橋)落橋事故(写真-4.1参照)、笹子トンネル天井板崩落事故(写真-4.2参照)、日本各地での橋梁の損傷等(写真‐4.3参照)を受け、老朽化対策の具体的な取り組みが開始された。皆さん、ご承知の通り、メンテナンスサイクルを確定(道路管理者の義務の明確化)であり、メンテナンスサイクルを持続的に回す仕組みを構築、することである。


写真-4.1 トラス橋の落橋(2007年8月1日)

写真-4.2 笹子トンネル天井板崩落事故(2012年12月2日)

写真-4.3.1 木曽川大橋斜材の破断と補強/写真-4.3.2 辺野喜橋の腐食と落橋(2009年7月)
写真-4.3 日本各地での橋梁の損傷

 このうち、メンテナンスサイクルの確定(表-1参照)で道路管理者の義務の明確化を行った。つまり、5年に1度の定期点検の実施である。以下、国交省の資料より抜粋。

表-1 メンテナンスサイクル(道路管理者の義務の明確化)

 表‐1に示す通り、5年に1度の定期点検は、「点検」「診断」「措置」「記録」の手順に従い実施される。令和に入り2回目の定期点検が終わりつつある。
 ここで問題なのが「果たして実態は?」である。点検・診断・措置・記録が十分満足に行われているのだろうか。

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