(5)防護柵設置要綱(基準)の発刊と改訂
急速なモータリゼーションの変化に伴い社会問題化した(重大)交通事故に対応するため、橋梁防護柵にもより高い安全性が求められた。このため、1986年(昭和61年)に防護柵設置基準の大幅な改訂が行われ、最低条件といわれる「高さ・形態・強度」等における具体的な諸元が示された。つまり、これ以前に設計された橋梁の防護柵は現行の安全基準を満たしていない可能性があり、早急な検証と対応が必要となるのは当然のことである。
以下には「防護柵設置要綱(基準)」((社)日本道路協会)の状況の変化を踏まえた改訂時系列を示す。
①昭和61年(1986年)7月 防護柵設置要綱・資料集(建設省)発刊
最低条件といわれる「高さ・形態・強度」等における具体的な諸元が示された。
②平成10年(1998年)11月 「防護柵の設置基準・同解説」((社)日本道路協会)改訂
仕様規定から性能規定に変更。防護柵の強度アップを図る。
③平成16年(2004年)3月 「防護柵の設置基準・同解説」((社)日本道路協会)改訂
④平成20年(2008年)1月 「防護柵の設置基準・同解説」((社)日本道路協会)改訂
2005年5月のガードレールに付着した金属片による事故、2006年8月の海の中道大橋車両転落事故を受け、歩車道境界防護柵の設置(推奨)や強度アップ等が示された。
⑤平成28年(2016年)12月 「防護柵の設置基準・同解説」((公社)日本道路協会)改訂
幅員が狭い道路においても歩行者等を保護することを目的とした「生活道路用柵」に関する改訂が行われた。
⑥令和3年(2021年)3月 「防護柵の設置基準・同解説 ボラードの設置便覧」((公社)日本道路協会)改訂
交差点の交通安全対策に対するニーズの高まりを受け、防護柵では対策しにくい交差点の横断歩道接続部などにおいて、ボラードによる対策を行う際の参考とするための「ボラードの設置便覧」を新たに追加。
(6)今後検証すべき防護柵(高さ・形態・強度)
以下に現行基準を満足していない(検証すべき)防護柵について「全国高欄協会」リーフレットを参考に紹介する。
①路面からの高さが110㎝に満たない 歩行者・自転車用高欄
歩行者・自転車の路外への転落を防ぐ高さを有する高欄設置を求めている。→1986年改訂
②支柱がブロックアウト型の形態になっていない 車両用防護柵
車両の本線復帰や防護柵支柱や車両のダメージを防ぐ形態を求めている。→1986年改訂
③支柱に衝撃吸収の設計がなされていない 車両用防護柵
衝突時のドライバーや車両への衝撃吸収を考慮した防護柵を求めている。→1986年改訂
④防護柵の強度が現行基準を満たしていない 車両用防護柵
福岡市海の中道大橋中央部付近での車両追突と落下死亡事故を受けて、歩道がある場合でも車両防護柵の設置が推奨されている。→2008年改訂
(7)防護柵(高欄)の維持管理上・安全上の問題点
①維持管理上の問題点
橋梁の新設や更新時は、その時点時点での基準を基に防護柵が設計され設置される。しかし、既設の防護柵が基準を満たしていないからといって道路管理者は更新するだろうか。30年ほど前に地公体の課長をしていた私がいうのだから間違いない。例えば、マスコミで大問題になった「海の中道大橋」の死亡事故(2008年基準改訂)や関越道の死亡事故(当時通達発令)を受け、同様な個所の調査やその後の改良・改築は為されたと認識している。
しかしながら(6)で示した「今後検証すべき防護柵」について管理者は調査・検証を行っているのか。例えば、防護柵の構造改変によりベースプレートやアンカーボルトの設置スペースが現状では確保できない。改良するためには地覆を設置し直す必要があるとか、費用が掛かるから二の足を踏んでいるとか、そういうケースは無いのか。
②安全上の問題点
①の性能や機能上の問題は当然として、例えば、鋼材が腐食しているとか、車両接触や衝突により塑性変形してしまったような防護柵を見たことはないですか。地方道の橋梁防護柵でよく見かけるのは私だけなのか。防護柵は、レールで車両を受け止め、支柱がレールを支えている。これにより衝撃吸収や車両の本線への軌道回復に結びつけている。部材の一部が腐食してしまったとか、塑性変形してしまっているとか、そういう防護柵は絶対放置してはならない。万が一、死亡事故が発生したら管理者責任が問われて当然である。
③道路管理者がやるべきこと
道路管理者が安心・安全な通行・交通を確保するため、今すぐにやるべきことを3項目挙げる。
1)防護柵の設置基準等を満足しているか否か、早急に調査・診断すること。
2)橋梁定期点検時は、橋梁本体と同水準で防護柵の点検・診断を行うこと。
3)分からないことがあれば専門家集団である「協会」に相談すること。
(8)最後に
今回、防護柵の重要性~PARTⅡと題して簡単に述べた。高速道路、自動車専用道路、一般道路(国道、県道、市町村道)等、全国に約1,200千キロ整備されている。防護柵は、車両の路外逸脱による重大事故の防止や二次災害の防止に大きく貢献している。本四などの海上橋では落下事故を防止することを目的としてビーム型防護柵(支柱;H型鋼、水平梁;ボックスビーム)を設置している。現在、路上安全施設については「防護柵の設置基準・同解説(日本道路協会)」により設計が行われている。これまで色々な重大事故等の知見や実験等を踏まえ基準の改訂が行われてきていることを本文で紹介した。設計者ならびに道路管理者は、現在から将来にわたる道路の運用(暫定や完成)の変化やロケーション等を十分に検討し、必要な防護柵の設置や改良を進めて頂きたい。重大事故は考えられない様な条件下で起きる。基準で前提とする条件の下での事故はほとんどない。
最後に、今回、防護柵の基準改訂や改訂要点についてご紹介頂いた(一社)全国高欄協会の会長、各委員の方に感謝申し上げます。安心・安全な道路空間を作り出すために今後一層のご活躍をお願いします。(次回は2022年10月1日に掲載予定です)