(1)はじめに
昨今の話題といえば、①旧統一教会と政治家の関係、②新型コロナウイルス関連、③東北 ・北陸・中部地方の 豪雨 災害、④ ウクライナ情勢、であろうか。 本 ジャーナル NET の 8 月 12 日号で東北地方等の 被災状況が紹介されていた。
道路・鉄道インフラ 設備 の地震や 豪雨災害に対する 脆弱性 の指摘は 今始まった ことではない。東北地方は、東日本大震災の津波で壊滅的な被害を被り、今もなお復興作業が 続いている。 地震と豪雨災害と言えば熊本地方も同様である。マスコミや評論家は、 線状降水帯 が 多数回発生したとか、 想定を上回る 短時間 降水量 があった、 とかつまならない説明をするばかりである。正確な原因や被災状況を伝えるとともに、これまで行政が何をやってきたのか、やっていないのか、を伝えるべき義務がある。もう十分に独り立ちできている 国にODA予算 を配分する必要があるのだろうか。ODAの押し売りをして、出来の悪いインフラ施設を 高い金で渡す。こういうことはやめようではないか。国内 の 防災対策、例えば 河川改修や橋梁補強に十分な予算(補助金をつけるべきではないのか。昔、就職先として国鉄 は土木技術者の憧れの的であった、と聞く。関空係長時代も国鉄出身者は 非常にプライドが高かった。それだけの技術者が 昔は居たと思う。今はどうか。
分割民営化された JR各社 は、赤字路線を何とか減らしたいし手放したい。力がある自治体は第三セクター方式で事業継承したがうまくいかない。残された方法は、廃線の二文字。しかし、廃線に対しての 地元や 世論は手厳しい。費用対効果(費用便益)を示しながら廃線にゆくゆくは持ち込みたいのだろうか。 費用対効果が大きい 新幹線は万全の対策を練るが、その他のローカル線はどうなっているのだろうか。また、利益の上がる第三次産業(不動産事業等)に注力する。30年ほど前、イギリス出張に行った際、旧国鉄の社員と一緒になった。彼は、大阪駅構内にある不動産事業を担当する子会社に出向している、ということだった。何を言いたいか。第三次産業(不動産業等)に精を出すのも分かるが 、本業の鉄道業にも集中して欲しいのだ 。願うのは私ばかりか。
旧統一教会の話は身の回りでも聞こえてくる 。 妻の職場にパートで来ていた高齢の信者である。アルバイト収入の一部を献金し、一方では高級な朝鮮人参を「購入していた」ようである。政治と宗教、政治と公共事業、切っても切れない仲はどこまで続くのか。
前段はこれくらいにして、今回は 2020 年 11 月 1 日号「防護柵の重要性」の続編を紹介する。
(2)続編の経緯
前回の記事がジャーナルに載った後、非常に懐かしい声の電話が かかってきた。電話の相手は、福岡県の北九州空港連絡橋の防護柵(及び高欄)についての設計を一緒に行った防護柵メーカー担当者であった。会話の中で私の方から以下の4つのお願いをした。
①これまでの防護柵(高欄)に関わる重大事故を受け、(一社)全国高欄協会(以下、「 協会 」という。)としてどういう対応(基準の改訂対応(基準の改訂等)等)を行ってきたのか?
②新設新設橋橋での歩車道完全分離の考え方はどうなっているのか?
③既設防護柵(高欄)で機能が低下したとか、消失してしまったものの扱いは?
④上記①~③について協会としてのコメントを頂けないか?
連載記事掲載から2年弱が経過したわけであるが、今回協会さんへのヒアリングや頂いた資料を基に現状での防護柵(高欄)の考え方についてについてまとめてみた。
(3)最初に~これまでの悲惨な事故を振り返り
①福岡市海の中道大橋中央部付近での車両追突と落下死亡
当時、日本中のマスコミを大いに騒がせた現役福岡市職員が起こした重大事故。なお、事故等の詳細については、2006年9月29日の福岡市の記者発表資料を抜粋して以下に紹介する。
<事故概要事故概要>
・日時 2006年8月25日(金)22時50分頃
・場所 福岡市東区臨港道路(福岡市港湾局管理)「海の中道大橋」中央付近(写真-1参照)
写真-1 事故現場の現況
・発生状況
車両同士の衝突→5人乗りの乗用車(RV車)が歩道を乗り越える→防護柵を突破→約15m下の博多湾に転落(当時水深約6m)
・道路横断構成と防護柵設置状況(図‐1参照)
片側歩道(4m)タイプで、車道は2車線。歩道部は、20㎝のマウンドアップとSp種の歩行者自転車用高欄を設置。反対側は、B種の車両用防護柵を設置。
図-1 道路横断構成と防護柵設置状況(事故後対策含む)
<教訓>
通行量が少なく、見通しが良く、結果、高速走行し易い橋梁では、歩車道分離のマウンドアップは意味が無い。完全歩車道分離型の防護柵を設置するべき。
②関越自動車道高速バス居眠り運転事故
当時、日本中のマスコミを大いに騒がせた重大事故。なお、事故等の詳細については、以下に紹介する。
<事故概要>
・日時 2012年4月29日(日) 4時40分頃
・場所 群馬県藤岡市岡之郷、関越自動車道上り線藤岡ジャンクション付近
・発生状況
高速バス運転手の居眠り運転により、遮音壁に衝突。乗客7人が死亡。乗客乗員39人が重軽傷。事故現場は、片側3車線の緩やかな左カーブ。バスは左側のガードレールに接触し、そのまま延長線上にあった高さ3m、厚さ12㎝の遮音壁に10.5mにわたってめり込んだ。
<教訓>
ガードレールと遮音壁には10㎝の隙間があり、このことが被害を拡大させた可能性があると指摘された。こういう箇所は構造的な弱点にもなり、防護柵に連続性を持せる必要がある。
③阪神高速道路山手線藍那IC付近車両突破事故
<事故概要>
・日時 2006年6月28日(水) 午前8時15分頃
・場所 神戸市北区山田町藍那(藍那IC付近本線)
・発生状況(神戸新聞より)とその後の対策
二車線の緩やかな右カーブを走行中、高さ1mのガードレールを4.4m区間にわたって突き破って直下(10m)の県道を飛び越え、南側の駐車場でバウンドし、さらに神戸電鉄粟生線の線路上を飛び越えて南側の竹藪に突っ込んだ(写真-2の経路①→②→③)。この事故で乗用車の男女(高齢)二名が死亡。その後の対策を写真‐2.2に示す。
写真-2.1 事故現場と車両の逸脱経路/写真-2.2 事故後の防護柵の補強
<教訓>
橋梁区間(壁高欄)と土工区間(ガードレール)に防護柵等の連続性が無い(隙間が存在する、構造上の抵抗力が違う)と重大事故に繋がる。突入角度(基準上は15°)が大きかったとはいえ十分な安全側の配慮が必要。
④滋賀・大津市車両歩道突入事故
散歩中の保育園児の列に女性が運転する車両が突っ込み、園児2名が死亡、保育士を含む14人が重軽傷を負った。
<事故概要>
・日時 2019年5月8日(水) 午前10時15分頃
・場所 滋賀県大津市大萱の県道交差点
・発生状況 T字路を右折して進入してきた普通車を避けようとして左に急ハンドルを切った軽乗用車が横断歩道で信号待ちをしていた園児の列に突入。
<教訓>
ここ最近、歩道に車両が突入する重大死亡事故が非常に増えている。マウンドアップで歩道を作ったと行政は威張らず、きちんと歩車道分離型の高欄を設置することが第一歩。高欄は視線誘導にもなり、運転者に注意意識を植え付ける手段ともなる。
(4)何故、今、防護柵なのか?
日本国内に道路橋(支間長2m以上)と称する橋は約73万橋(2015年当時)存在する。国道、県道、市町村道、高速自動車国道、自動車専用道路など。2026年に建設後50年を迎える道路橋は凡そ4割を超える。平成26年の道路法改正により橋梁については5年に一回の定期点検が義務付けられ、従来の事後保全から予防保全へとシフトされつつある。
ところで橋梁付属物とされる「防護柵」についてはどういう扱いがなされているのであろうか。橋梁と同じく健全か健全でないか、という判定は為されているのであろうか。例えば、部材が腐食しているとか、車両接触により塑性変形しているとか、により健全度判定を行い、取り換えが行われているのだろうか。こういう安全設備の維持管理が見捨てられる(あるいは切り捨てられる)ことにより(3)で述べたような重大事故が発生するきっかけになる可能性がある。
そこで防護柵(高欄)を扱っておられる協会さんに過去から現在に至る基準の改訂や補修補強に関する対応についてヒアリングを行ったので次ページ以下に紹介する。