(4)特色のある小規模吊橋
小規模吊橋の使用材料、今回は主ケ―ブルに着目し、特色のある採用事例について紹介する。小規模吊橋指針・同解説(以下、「指針」という。)では、主ケーブルに用いる材料はストランドロープ(鋼芯)かスパイラルロープ(ロックドコイルロープを含む)となっている。PWS(平行線ストランド)は、構造上、工費上等の観点から使用されるのはまれであるので除外している。指針が発刊される以前の吊橋では、山間部の索道等で使用したストランドロープ(麻芯含む)が橋に転用されることが多かったようである。
以下には、主ケーブルの種類毎の使用事例を紹介する。
1)ストランドロープ(麻芯)の例(1955年完成)(写真-1.1参照)
写真-1.1 ストランドロープ(6×24(G/0種)、Φ28㎜) (著者撮影)
麻芯ロープは、長期的な耐力に乏しいことから指針上は除外されている。しかし、本橋の架橋地点が山間部(国立公園)であり、使用環境によっては発錆や腐食が進まない事例として興味深いので紹介する。
2)ストランドロープ(鋼芯)の例(1960年完成)(写真-1.2.1、1.2.2参照)
写真-1.2.1 ストランドロープ(7×19)(G/0種)、Φ48㎜) (著者撮影)
ストランドロープ(鋼芯)の事例としては、道路構造物ジャーナルNET(2020.4.21号)(写真-1.2.2)で紹介した吊橋である。写真-1.2.1の事例はC橋である。同じ構造用ストランドロープでも海岸までの距離や日照等の環境条件の差により腐食の差が大きく出るケースとして紹介する。
写真-1.2.2 ストランドロープ(7×19)(G/0種)、Φ48㎜)
3)PWS(Parallel Wire Strand)の例(1954年完成)(写真1.3参照)
写真-1.3 ストランドロープ(7×19)(G/0種)、Φ38㎜)(既設)
PWS127(1972年追加設置) (著者撮影)
既設ストランドの1本当たりの切断荷重は、886KN。3本で2,657KN。追加設置のPWS 1本の切断荷重は、3,830KN。つまり、PWS 1本でストランドロープ4.3本に相当する。耐力も大きいし、腐食にも強いし、弾性係数も大きいし。残るはコストの問題だけである。
4)平行線(Parallel wire)の例(1954年完成)(写真-1.4参照)
写真-1.4 平行線(Parallel wire)の事例
何故、この吊橋に平行線(Parallel wire)(素線径Φ5㎜、本数81本)を使用したのか、未だ不明である。おそらく、Air Spining工法で架設重量を軽減したかったのであろう。また、何故このように亜鉛めっきが消失したのか。解明すべき点は多々ある。興味深いので紹介する。
5)臨機応変なアンカー構造(写真-1.5参照)
私が実際に見た事例は日本で2橋である。一般的な地山アンカータイプ(主塔無し)の吊橋と思いきや、実は立木にケーブルがアンカーされていたのである。吊橋の耐用年数は、ケーブル寿命に依存する? いやいや、立木に依存するというレアケースである。興味深いので紹介する。
写真-1.5 臨機応変なアンカー構造 (著者撮影)
(5)最後に
ウクライナとロシアの戦争は7カ月目に突入した。一方でJICAにおいてはウクライナ戦後復興事業計画が立てられていると聞く。スリランカ政府は財政破綻したと認めた。道路や鉄道などのインフラ整備に中国から多額の資金援助を受け、対外債務はGDPの約6割に上るという。日本もODAで積極的に支援してきた。何れの国も同じで貰うことが当然になると、自分では働くなる典型である。高速道路を造ったり、巨大な斜張橋を架けたり、本当に必要だったのかを反省して欲しい。F/S(フィジビリティスタディ;実行可能性調査)は妥当だったのか。会計検査院はしっかり見て欲しいものだ。今からでも遅くはない。
今回は小規模吊橋の事例紹介を行った。これまで多くの自治体さんと吊橋の維持管理について話をしてきた。どこでも言われるのが「健全度判定Ⅲ」を「健全度判定Ⅱ以上」にしたいと。そのための補修設計をお願いしたいと。その際の私の決まり文句である。吊橋は自由度が高い。個別の条件で臨機応変に検討すべきであると。人が1日に数回しか通らないとか、1週間に1回とか、四季で数回とか。このような場合、安全であることを確認した上で活荷重制限をするとか、いかようにも手を打てるものである。いきなりケーブル架け替えとかは必要ないと思う。
ケーブル材料には以前はストランドロープ(麻芯)が結構使われていた。ダム工事(水力発電所)などの索道用に使われたストランドロープが転用されたためである。耐力も弾性係数もストランドロープ(鋼芯)に比べて小さい。発錆や腐食による耐力低下率も大きい。
小規模吊橋の維持管理をする上で重要なのは、ケ―ブルの調査をしっかり行い、非破壊検査を含めたケーブル健全度評価をきっちり行って、補修設計をすることである。十分な資金があればケーブルを架け換えれば良いし、なければ現状をキープできる補修工法を採用すれば良い。
今回は小規模吊橋のケーブルを題材に挙げたが、次回以降は主桁等についても紹介していきたい。
(次回は2022年9月1日に掲載予定です)