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第35回 小規模吊橋雑感

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2022.08.01

(1)はじめに~最近の話題~

 7月の参議院選挙は何の盛り上がりもなく、政権与党の圧勝で終わった。ロシア・ウクライナ戦争は7カ月目に突入した。新型コロナの感染者数は累計1,150万人、日あたりの新規感染者数は12万7,000人、東京では2万人から3万人で推移している。
 政治の世界に戻せば、自民党が参議院選で信任を得たと勘違いして暴走するだろう。外郭団体に湯水の如く血税が流れていくのだろう。2009年に自民党が下野し、民主党政権に移行した際、民主党の掲げた「事業仕分け」に期待したのは私だけではないと思う。結局、公務員の天下り先の確保を目的とする外郭団体が温存されたままとなった。マイナンバーカード然り、新型コロナ関係の手続き(システム作成)然り、数多の外郭団体に費用が流出している。アベノマスクを配るのに手数料が幾らかかったか覚えていますか。
 新型コロナワクチン接種では、母親が3回目の接種を受けた時、書類の記載ではファイザーの使用期限切れが判明した。早速、有効期限の半年延長である。ワクチン接種では3回目以降の接種率が一向に向上しない様である。恐らく知らないうちに廃棄されているワクチンがどれほどあることやら。
 話は変わり、日本の重要な国際貢献であるODAに関して。先月渡航した、とある国の話である。首都から高速道路と地道で約3時間以上走った所に国際港湾が整備されようとしていた(図-1参照)。


図-1 巨大な港湾建設プロジェクト(右写真:著者撮影)

 建設中の国際港湾と高速道路は未だ繋がっていない。びっくりしたのは、都心から高速経由で3時間以上も離れた何もない海辺に大規模港湾をODAで建設していることである。既設の国際港湾では将来的にパンクするので新たな国際港湾の建設を日本が援助するというスキームらしい。JICA事業に群がっている企業にとっては「ありがたや」の一言だろうが。
 昔と違って相手国の自力が十分ついているのにもかかわらず、「援助を頼む」と言われたら「はいはい」と援助するのは日本だけではないのか。中国は資金援助の交換条件として、例えば「地下資源等の開発利権」を要求しているとも聞く。国際貢献(海外援助)も必要ではあるが、足元を見た政策を実行して欲しいものだ。近年、日本は度重なる「豪雨災害」や近く想定される「巨大地震災害」に備えて必要十分な対策を率先してやるべきではないのか。多分、やられているとは思うが。
 話は変わるが、春頃にゴールデンタイムのテレビドラマを偶然見た。主演は、東宝のシンデレラガール(数十年前)。今流行りの刑事ものである。事件の舞台は北陸ということになっていたのだが、映し出されたのは吊橋と桜の背景。
 何と、ジャーナルで紹介した「技術相談会」の案件(写真-1参照)の吊橋であった。本題は、この橋がテレビに映し出されたことではない。この橋については、技術相談会を含め懇切丁寧に今後の維持管理方法を含めて管理者にアドバイスしていたのだが、役所の人事異動があったとかで、一番重要なケーブル診断が不要という判断が新担当者によって為された。庁舎内の先輩に「必要ないんじゃないの」と言われて方針転換したようである。私あるいは地整局の担当者が懇切丁寧にアドバイスをした結果がこうなるとは残念である。


写真-1 テレビドラマに出てきた吊橋(桜の名所) (著者撮影)

 今回は、この3年で巡り合った近畿管内の歩行者専用吊橋(大~小規模吊橋)の現状について簡単に紹介しようと思う。

(2)歩行者専用吊橋の現状~大規模吊橋~

 歩行者専用吊橋を小規模吊橋か、そうでないか、に分類する。小規模吊橋指針・同解説(昭和59年4月)(日本道路協会)によれば支間長200mを超えるか、否かということである。ここで中央支間長が200mを超える大規模歩行者専用吊橋ランキングを表-1に示す。1位~5位までは全て観光施設として建設されたものである。6位の谷瀬の吊り橋のみが生活道路橋として建設され、現在では十津川村の観光資源にもなっている。


表-1 大規模歩行者専用吊橋ランキング

注)各橋の特徴(個人的に評価できる)
・第1位 箱根西麓・三島大吊橋
 主ケーブルに高強度スパイラルロープを使用(ストランドロープが一般的)。補剛トラス桁を採用(耐風性からであろう)。
・第2位 九重“夢”大吊橋
 歩道の高さが日本一(173m)。道路橋並みの耐風・耐震設計を実施(やり過ぎ)。補剛トラス桁を採用(三島大吊橋と同様)。
・第3位 竜神大吊橋
 主ケーブルにPWS(平行線)を使用。日本最大級最大落差100mのバンジージャンプ設備を設置。補剛トラス桁を採用(三島大吊橋と同様)。
・第4位 もみじ谷大吊橋
 無補剛桁構造では「本州一」の規模を誇る。
・第5位 水の郷大吊橋
 無料で通行可能な吊橋としては「日本一」。   
・第6位 谷瀬の吊り橋
 竜神大吊橋が完成するまでは圧倒的に「日本一」。現在も生活橋としては「日本一」の規模を誇る。生活橋であるがため、観光客が自転車やバイクで通行することを禁止している。春夏秋の行楽シーズンには20~30名程度の渡橋制限を実施している。

 以下には、1994年竜神大吊橋が完成するまでの間、日本一の支間長を誇っていた「谷瀬の吊り橋」について簡単に紹介する。谷瀬の吊り橋を誰が?何故?いつ頃?費用は?について十津川村役場さんの資料を参考に以下にまとめた。是非、一回は渡って下さい。

(3)谷瀬の吊り橋

①建設経緯(十津川村観光協会資料より)
「谷瀬の吊り橋」は、十津川村上野地と対岸の谷瀬を結ぶ住民のために架けられた橋である。谷瀬の集落の人々は、この橋が完成するまでは十津川(熊野川)に丸木橋を架けて行き来していた。しかし、丸木橋は洪水の度に流される。このため、吊橋を架けることにしたのである。昭和29年(1954年)、当時の800万円という巨費(村負担;200万円、村民負担;600万円)を投じて建設された(村民は当時30戸だったので1戸当たり20万円を村に寄付。一部は木材を伐採し売って得た収入を充てた)。教員の初任給が7,800円、米10キロが765円の時代である。

(参考)簡単に現在のレートで変換すると、
  初任給 220,000円   当時;7,800円   220,000/7,800円=28倍
  (米10キロ  6,000円  当時;765円   6,000円/765円=8倍)
  800万円×28=224,000,000円  224,000,000/297.7m×2.0m=376,000円/m2
 ・現在のm2当たりコストからするとかなり割安(1/2程度)感がある。
 ・設計活荷重が牛一頭(100貫目;375kg)であり、通常に比べると主ケーブルが細い。
 ・一戸当たりの寄付が560万円(20万円×28倍)とかなり高額。

 十津川村と言えば、新十津川町をご存知だろうか。明治22年の大水害で集落や耕地があった河川敷・河原は被災し壊滅状態になった。当時の村民達が、新天地を求めて移住したのが今の北海道・新十津川町である。

②吊り橋の特徴
1)橋梁概要
 ・橋梁形式;単径間無補剛吊橋 中央支間長;297.7m
  メインケーブル;片側3本のストランドロープ(当初)
  片側1本のPWSを追加(1971年)
 ・設計荷重;牛1頭(100貫目;375kg)(当初)
       群衆荷重0.03tf/m(変更)

2)技術的特徴
 活荷重の変更(牛1頭⇒群衆荷重30kg/m)に伴い、主塔と主ケーブルを増設。上下2段の主(補)ケーブル構造を有する。新ケーブルにはPWSが採用されている。PWSは、1969年に完成した米国・ニューポート橋(吊橋)で初めて採用されたケーブルである。日本では大鳴門橋(ケーブル工法)の実験橋として上吉野川橋で1970年に採用された新技術。

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