道路構造物ジャーナルNET

㉞日本の技術力とは 

現場力=技術力(技術者とは何だ!)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2022.07.07

(3)インドネシアの技術力

 6月中旬から2週間、インドネシアのジャカルタ市(ジャワ島)及びマカッサル市(スラウェシ島)
を訪問する機会を頂いた。これまでに5回ほどインドネシアを訪れたわけだが、来るたびに橋梁の景色が変わっているように思う。日本のODAで実施されたタンジュンプリオクプロジェクト(道路構造物ジャーナル2020年10月1日号、国際貢献・ステップ案件・弊害)や民間プロジェクトでは新たな技術がどんどん採用されている。品質管理や工程短縮に特に効果が発揮されるプレキャストブロック工法はインドネシアでは標準工法となっているようだ。
  2011年11月頃のジャカルタ市環状道路の工事状況を写真-5、6に示す。ジャカルタ環状道路の建設現場では、プレキャストブロック桁のエレクションガーダ架設やエレクションノーズ架設が至る所で行われていた。近くで覗き見したが、結構しっかりしたコンクリートを打設していた。


写真-5  ジャカルタ市環状道路のプレキャストブロック架設(2011年11月頃)

写真-6  プレキャストブロック工法(2011年当時)

 皆さん、お気付きでしょうか?写真-5の右側のエレクションノーズ工法を拡大したものを写真-6に示す。ウエブにはせん断キーが、下フランジと上フランジ・ウエブ付け根部にPC鋼材挿入用のシース穴が見られる。この当時はインナーケーブルが主流であった。
 次に今回訪問した2022年6月中旬頃のジャカルタ市内及びマカッサル市内の高速道路の状況を写真-7に示す。


写真-7 プレキャストブロック工法(古いタイプと現在のタイプ)

 ジャカルタ市環状道路では、インドネシアではありふれたハンマーヘッドタイプの柱頭部となっ
ている。単純桁でポンポンとプレキャスト箱桁を架設していくやり方であるが見た目が悪いし、将来的な維持管理の弱点にもなるし、私は全然好きではない。
 一方、マカッサル市内高速道路では、橋脚部では箱桁ブロックに切り欠きを設けてはいるが見
た目上非常にすっきりした構造にしている。このPC箱桁(プレキャストブロック)を製作した工場を見せて頂く機会があり、非常に細かな部分まで見ることが出来た。骨材・セメント・型枠・打設等について100%信用はしていないがその管理に対する熱意は感じられた。設計・製作・架設及び維持管理上の弱点が随所にあり、色々、指摘したが聞く耳を持たない性分らしい。自分も外国人からしつこく指摘されたら無視するであろうが。

 

<ここで少し休憩タイム>

 マカッサル市で1日だけの休暇があり、市内見学(写真-8参照)をした。海岸近くに巨大なモスク(イスラム教の礼拝堂)(写真-8参照)があり、多数の敬虔な信者がお祈りをしていた。また、周囲を見渡すと8径間連続斜張橋(写真-9参照)があるではないか。

写真-8 近くのモスク(マカッサル市内)

写真-9  多径間連続斜張橋(マカッサル市内)

 実は、まったくの偽物でした。主塔、ケーブル定着構造も桁橋の上に載せた張りぼてでした。

(4)モロッコの技術力

 写真-10はモロッコ高速道路会社(以下、「ADM」という)(約1,800kmの有料高速道路ネットワークを所轄し、建設・運営維持管理を担う国営企業)が管理する長大橋の一つ、「ブーレグレグ橋」である。この橋は、中国企業により建設されたものであり、外観はともかく、構造については感心した。主桁はPCエッジガーダー形式で施工性から鋼製横桁が設置されている。30歳当時、来島海峡第一大橋(現構造は、吊橋)のPC斜張橋の可能性について検討したことがあったからである。当然ながら、同様な主桁形式を検討していたのである。
 モロッコの技術力は、維持管理技術に関する取り組み姿勢にある。ADMと阪神高速道路は技術協力の覚書を締結し、さらにはJICA民間連携スキームによる橋梁の点検技術「忍者テック」を特殊高所技術㈱指導の下、技術移転を実施した。現在ではADM職員3名が自社管理の橋梁にぶら下がって「直営点検」を実施している。また、彼らが講師となり後継者の育成をしている。将来的には忍者テックをモロッコ(ADM)から逆輸入することも視野に入れていると聞く。


写真-10 ブーレグレグ橋

 写真11 主桁・横桁構造

(9)最後に

 日本と海外のインフラに関する技術力の差はあるのだろうか。分野毎に比較すれば日本が劣っているものもあるし、優れているものもあると思う。土木全般、あるいは絞って橋梁に関して考えるとどうなのかと時々考えてみることがある。中国の大規模プロジェクトの現状を目の当たりにすると日本と比べようもないのは明白である。政治力の差であり、投資家の資本力の差であり、大学の研究力の差であり、若手技術者の育成力の差である。最近、中国人技術者と仕事をする機会を得た。中国から日本の大学(院)に留学し、日本のトップコンサルタントに就職している彼らには非常に伸び代を感じる。貪欲に技術力を吸収しようとしている。昔、同じように日本の大学(院)に留学し、日本のコンサルタント(ゼネコン)に就職し、30代で中国の大学や企業に帰っていく技術者を何人も見送った。彼らの仕事の夢は日本ではなく、中国にあったのだろうか。
  現状のビッグプロジェクトは、大阪湾岸西伸部の斜張橋群の建設であり、次世代ビッグプロジェクトは第二関門橋である。日本の技術力を世界に示して欲しいものである。(次回は2022年8月1日に掲載予定です)

 

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