道路構造物ジャーナルNET

⑥道路橋の長寿命化への配慮

筑波山の麓より

国土交通省
国土技術政策総合研究所
所長

木村 嘉富

公開日:2022.06.27

【作業の確実性と容易さの分析】

 維持管理作業の確実性や容易さについて、国が管理する道路橋に関する定期点検調書の写真や、共同研究者である建設コンサルタンツ協会に対するアンケート調査から、網羅的に考察しています。

①狭隘な構造の事例分析
 国が管理する道路橋からランダムに2,500橋を抽出したところ、約半数の1,200橋で何らかの狭隘な箇所を有していることが分かりました。点検の確実性や容易さを阻害する項目について、(a)アクセスがしにくい、(b)狭くて進入ができない、(c)埋め込まれていたりすることで直接状態が確認できない、(d)移動性が悪いの4つに区分し、事例収集を行っています。それらの事例を写真-6に紹介します。橋梁点検を行われた方々は、いずれも思い当たる事例ではないでしょうか。残念ながら、道路橋あるあるです。


(左)横断検査路が不足/(右)桁端部と胸壁の間隔が狭い
(a)アクセスがにしくい/(b)狭くて進入できない

 (左)保護キャップ内の目視が困難/(右)開口が狭い
(c)直接状態が確認できない/(d)移動性が悪い
写真-6 点検の確実性や容易さを阻害している事例

②アンケート調査
 道路橋で点検や補修・補強・更新を行う場合の作業の確実性と容易さについて、不具合例や問題意識を抽出することを目的として、アンケート調査を実施しています。アンケートの方法は、建設コンサルタンツ協会の各支部から協会加盟会社に対してアンケート様式を配布する形としています。アンケートにより、作業の確実性と容易さの課題として、162項目を収集しています。
 作業の確実定に関する内容は36項目あり、「補修・補強・更新のための空間の確保」が7項目(19%)、「作業性と品質の確保」が15項目(42%)ありました。
 作業の容易さについての課題としては126項目あり、「アクセス性が悪い」が47項目(37%)、「近接目視が困難」56項目(45%)、「目視による状態把握が困難」19項目(15%)となっています。

③作業の確実性と容易さに関する分析結果
 事例収集の結果、定期的に全ての部材に近接して目視で点検しようとすることに対して望ましくない事例がみられます。設計時点で、狭隘な構造になっていないか、検討しておくことが求められます。定期点検の際には、特殊な検査機器等を使用して何らかの確認を行える可能性はあります。しかしながら、突発的な災害や不測の事故が発生しないともいえません。重要な部位については、確実、かつ容易に近接して点検できるように、設計時に配慮することを心がけられるとよいと考えます。
 このことはアンケート結果でも挙がっており、支承取替時のジャッキ設置スペース等の作業空間の確保、点検時のアクセス性や外観目視の方法といった作業の確実性の確保、点検時に現在位置や主桁、横桁、横構といった同じ形状部材の正確な把握等、作業の容易さも求められています。
 したがって、単に点検が可能であるというだけでなく、条件によらず確実かつ容易に点検が行えることは、耐久性を確実なものとするために重要な性能と考えることができます。

【耐久性確保のために】

 耐久性の信頼性を向上させ、長寿命化させるためには、水処理の影響が大きいことが改めて確認されました。特に、凍結防止剤の散布により塩分を含んだ水が橋梁に悪影響を与えることは、統計分析からも確認できています。水の経路を想定した構造細目上の配慮の他、そもそも縦断勾配といった計画段階での検討も重要となります。
 耐久性の信頼性を向上させるためには、材料の調達や橋梁の計画・設計時において、作用の累積的影響を減らす工夫が重要です。耐久性の信頼性を向上させる方法としてまとめると、改めて次の4点となります。

・浸入させない。
・浸入しても滞留させない。
・表面を保護する。
・見つけて直せる・是正できる。

 鋼橋の桁端部においてそれらを図示すると、次となります。


(a)桁端部のイメージ1     (b)桁端部のイメージ2
図-3 耐久性の信頼性向上の方法

【新たに望まれる構造細目や仕様の検討】

 上記の検討から、国が管理する橋梁の定期点検における課題としては、次が挙げられます。
 鋼橋
  1)点検性:横桁・ダイヤフラム等の開口寸法、横桁上フランジ狭隘部の点検、橋座面の点検性
  2)維持管理性:橋座面での作業性、横桁上フランジの塗装作業空間
  3)耐久性:箱桁内への滞水対策、箱桁上フランジ面の排水対策、ボルト継手部の腐食対策、下フランジの伝い水対策

 コンクリート橋
  1)点検性:桁端部の点検スペースの確保、点検通路の確保
  2)耐久性:排水の処理、PC定着具の保護、コンクリートの打継方法

 これらについて、具体的な構造細目や構造上の配慮事項を検討しました。具体的には、既往の資料を収集・整理し、新たに望まれる項目に対しては調査・実験を行っています。実験については、報告書をご覧下さい。

【耐久性の信頼性向上における配慮事項のディテール集】

 これらの共同研究により得られた成果や収集した既往の研究、工夫を試みた事例について、具体的なディテール集としてまとめています。その目次を表-3に示します。

表-3 ディテール集目次

 ディテール集では、この表が示すように101例をまとめています。これらの中から、解決すべき課題と検討で行った実験、それらに基づき提案したディテールの例を示します。

【現在の橋梁関係の皆様へ】

 1月の伊勢神宮と出雲大社、3月の木橋を受け、これから作る道路橋を長寿命化させるための取り組みを紹介しました。最後に紹介したディテール集については、共同研究者である建設コンサルタンツ協会、日本橋梁建設協会、プレストレスト・コンクリート建設業協会では会員に対しても周知され、活用が始まっています。
 ただし、その時点での知見や要素実験、模型実験により、具体的な事例としてまとめたものです。実際に施工し、実環境下での供用後の状態を確認しながら継続的に改善していくことが不可欠です。また、ここで示した以外にも色々な工夫は考えられます。令和3年度田中賞を受賞された多摩川スカイブリッジでも色々な配慮が行われています。道路構造物ジャーナルネットでも紹介されています。
 日本の道路橋が本格的に建設されるようになって、まだまだ100年足らずです。先人達に対して恥ずかしくないように、みんなで取り組んでいきましょう。工夫した事例、うまくいった事例がありましたら、井手迫さんにお伝え下さい。直ちに取材し、紹介されると思います。うまくいかなかった事例も貴重です。その際は、橋梁名は伏して紹介されると思いますので。(原稿執筆 2022年6月10日)

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