2.道路橋の耐久性の信頼性向上に関する共同研究
道路橋を長寿命化させるための基本事項、つまり、耐久性の信頼性を向上させるための基本事項については、前述のように平成29年に改定した道路橋示方書で規定されています。そこでは、細部の構造への入念な配慮を求めています。しかしながら、劣化要因やその影響の累積のばらつきを減らしたり、点検により変状の兆候や要因を確実に捉え措置できるようにするための構造上の工夫は、経験的な対処によることがほとんどです。試行錯誤ともいえます。あるいは、試行錯誤の例が共有されないことにより個別の模索が繰り返されているかもしれません。
このため、耐久性の局所的なばらつきを減らす効果が期待できような知見・事例の蓄積と共有を進める事を目的として、国総研と土木研究所、建設コンサルタンツ協会、日本橋梁建設協会、プレストレスト・コンクリート建設業協会で共同研究を行ってきました。それらの成果については、次でまとめています。
道路橋の耐久性の信頼性向上に関する研究:国総研資料第1121号、令和2年7月
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn1121.htm
以下、その資料の内容を紹介します。
【損傷事例の分析】
耐久性のばらつき要因を把握するために、全国の道路橋の定期点検結果の損傷事例を分析しました。そこでは、損傷が大きい事例や供用年数がさほど長期に達していないにも関わらず補修が必要とされた橋について、損傷の種類や想定される要因を網羅的に分析し、部位毎に劣化のばらつきの形態や原因に特徴があるかどうかを考察しています。
その結果、同じ橋梁の中でも漏水等で水が集中する箇所には、著しく損傷が進展する場合があることが示唆されました。そこで、部位毎に劣化の形態や原因の特徴を把握することを目的に、国が管理する橋梁の定期点検結果から、同じ部位や部材に対して損傷事例を収集し、耐久性のばらつきが発生した要因を考察しました。対象橋梁は、地方整備局が管理する981橋です。
事例分析においては、着目箇所として、上部構造の鋼部材・コンクリート部材では、桁端部、一般部、添接部、定着部、部材取り合い部、桁内部とし、下部構造、及び支承や伸縮装置、地覆・高欄・防護柵、排水施設、添架物などとしています。これらの中から幾つか紹介します。
①上部構造鋼部材の桁端部
桁端部の損傷事例を写真-1に示します。桁端部では、伸縮装置からの漏水や桁遊間から吹き込んだ雨水が胸壁や部材を伝わり、橋台天端に滞水することで湿潤環境となり、周辺の鋼部材で腐食が生じた事例が多く見られます。また、橋台天端は平坦で勾配がないことが多く、滞水がすぐには排水されず、湿潤環境となりやすい事例もあります。止水材が設置されていても、止水不良によって部材の隙間から漏水している事例もみられます。
この他に、主桁側面からの伝い水、排水管の床版取り合い部からの漏水や遊離石灰の析出、橋台の側面からの土砂流入による湿潤環境となっている事例もありました。
以上より、橋面水が常に浸入する、又は滞水し、すぐには排水されないことが、耐久性のばらつきを生む要因となっていることが考えられます。
(a)主桁端部の湿潤環境 (b)伸縮装置からの漏水
写真-1 上部構造鋼部材桁端部の損傷事例
②上部構造鋼部材の添接部
添接部の損傷事例を写真-2に示します。添接部では、部材を伝った雨水が、ボルトやリベットの凹凸、添接板の端部に滞水し、腐食した事例がみられます。また、添接板で連結された部材の隙間から漏水する事例もみられます。
部材の側面では、伝い水により添接部に滞水し腐食が生じることに加え、添接部が水の経路となり部材下面で腐食が生じた事例も見られます。
これらから、添接部は水の経路となりやすく、ボルトやリベット、添接板の角部の凹凸に滞水させないということは難しいことから、設計時点で滞水状況にばらつきが生じる可能性があるといえます。
(a)添接板下端部に滞水 (b)リベットに滞水
写真-2 上部構造鋼部材桁添接部の損傷事例
③上部構造鋼部材の部材取り合い部
部材取り合い部の損傷事例を写真-3に示します。部材の取り合い部では、部材の上面に土砂堆積や滞水が生じ、周辺部材や溶接部等に腐食が生じた事例がみられます。また、部材取り合い部は水が移動して集中する箇所であり、部材埋め込み部や格点部では流れてきた水が滞水したことで腐食が生じた事例がみられます。
これらから、部材の取り合い部や連結部は、伝い水が集中しやすく狭隘で凹凸があるため、滞水や塵埃の堆積などで腐食が局所的に進行しやすいことが分かります。
(a)ガセットの滞水・土砂堆積 (b)垂直材埋め込み部の腐食
写真-3 上部構造鋼部材部材取り合い部の損傷事例
④上部構造鋼部材の桁内部
桁内部の損傷事例を写真-4に示します。箱桁内では、マンホールや作業孔蓋の止水機能の不全や箱桁内に設置された排水管からの漏水により、箱桁内の滞水箇所や湿潤状況となったところで局所的に腐食が進行した事例がみられています。箱桁内部には水抜き孔は設置されていますが、塵埃や鳥の糞の堆積によって排水されず、滞水している事例もありました。
また、箱桁内部の排水管において、床板防水のスラブドレーンが設置されているものの、箱桁内部で脱落し、その結果、橋面水が箱桁内に浸入した事例もみられています。
これらより、桁内部では水が浸入すると長期にわたり滞水する状況となりやすく、また、配水管等が堆積物によって機能低下し、すぐに排水出来なくなる状況であることが分かります。
(a)箱桁内の排水不全 (b)マンホールからの漏水
写真-4 上部構造鋼部材桁内部の損傷事例
⑤上部構造コンクリート部材の桁端部
桁端部の損傷事例を写真-5に示します。桁端部では伸縮装置や地覆遊間部から漏水し、漏水箇所付近で剥離・鉄筋露出が生じる事例がみられます。また、部材内部に水が浸入し、ひび割れや施工継ぎ目部から漏水・遊離石灰が析出する事例が見られます。橋座面では、滞水や土砂堆積により桁端部を湿潤環境とする事例が多くみられます。コンクリート部材の桁端部は、鉄筋のかぶりが薄くなりがちであり、経年劣化や橋台胸壁部との接触によって剥離する場合もあります。
これらから、鋼部材の桁端部と同様に、橋面水が常時浸入する状況となって水みちができていることや、滞水がすぐに排水されず湿潤環境となっていることが、耐久性のばらつきの要因の一つとなっていると考えられます。
(a)伸縮装置からの伝い水 (b)橋座面の滞水
写真-5 上部構造コンクリート部材桁端部の損傷事例
⑥損傷事例の分析結果
これまでも指摘されているとおり、水に起因する腐食や関連したひび割れ等の発生の事例が多くみられます。桁端部での水処理の問題や排水経路の問題もみられ、ほぼ同様の損傷形態が多くの橋で発生しています。また、防食、防水・止水という水の浸入、供給を防げるという点での改善だけでなく、下部構造天端に水が滞留してしまったり、水抜きが機能せずに桁内に滞水してしまったりなど、水を確実に排出するという点で配慮が不足している例も散見されました。同様に、配水管取り付け部もさることながら、排水管から排出された水が構造物にかかってしまうような寸法の事例や、水切りをつけたことでかえってその箇所が滞水したりする等の事例もあります。
したがって、水に関して、浸入させないということ、浸入したとしても滞留させず、すぐに出ていくような構造にすることが必要と考えられます。これらは、前回までに紹介してきました木造神社や木橋に共通する事項と言えます。先人達も、腐食の状況を調べ、工夫を積み重ねてきた結果が、現存する神社や木橋といえます。