道路構造物ジャーナルNET

日本インシークの技術②

日本インシーク 点群データとBIM/CIMの融合に向けた取組み

株式会社日本インシーク
経営戦略部長 兼 技術研究所長

山岸 洋明

公開日:2022.06.21

メリット③ 建設生産システム全体での生産性・安全性向上 

 国内における建設業界の人材不足等の社会潮流をふまえ、国土交通省では建設生産システム全体での生産性・安全性向上をめざしてi-Constructionを推進している。
 3次元点群データを地形モデルに用いたBIM/CIMモデルは、ICT施工と呼ばれるマシンガイダンスやマシンコントロールを行う際に施工基面や設計内容等の入力データとして活用することができる。
 また、ICT施工として用いられる工事の出来形管理は、UAV(写真・レーザ)や地上レーザ測量によって行われるため、この情報を3次元点群データを地形モデルに用いたBIM/CIMモデルに関連付けておくことで、竣工後の維持管理においても効率化や高度化を図っていくことが可能となる。


図8 ICT施工の例(ICTバックホウによる掘削法面整形)6)

メリット④ 災害発生時の初動や復旧・復興の迅速化

 近年、集中豪雨等による斜面崩落や土砂災害の発生頻度が高まっている。こういった災害が発生した際、地形モデルとして設計時や竣工時の3次元点群データが取得してあれば、被災後の地形モデルを取得して差分を抽出することで、緊急通行路の確保のために撤去が必要となる土量が迅速に算定できるだけでなく、早期の復旧・復興に向けて必要になる災害査定や復旧設計も円滑に進めることが可能となる。


(左)図9 被災前に取得した地形モデルと被災後に取得した地形モデルの重ね図/
(右)図10 被災前後の地形モデルを用いたBIM/CIMモデルによる復旧計画

4. 鮮度が確保された点群データを継続的に取得・蓄積する方法

 以上で述べたように、3次元点群データを地形モデルに用いたBIM/CIMモデルを活用することで、様々な直接的・間接的なメリットを享受できるが、3次元点群データの継続的な取得や蓄積の方法が問題となる。
 特に、少子化・高齢化を迎えた我が国では社会資本整備に投入可能な予算にも上限があり、現時点で様々な目的や必要性に基づいて行われている他事業の予算を減らすことで3次元点群データ取得に必要となる予算を新たに確保することは容易ではない。
 また、何らかの調査・設計委託や竣工図書として部分的に3次元点群データや地形モデルを保有していたとしても、限定的な箇所でのデータのみであれば有効活用はされないであろうし、時点更新が定期的に行われていないデータであれば利用に対する信頼度を損ねてしまい、さらに有効活用する機会を失うことになる。
 このような問題を解決するためには、現時点で必要不可欠な事業で、かつ定期的に実施することが求められる事業において、当該事業の実施方法にICTを導入することで3次元点群データを副次的に取得することができるようにすることが有効である。
 このような考えから、弊社では、5年に1回実施される舗装定期点検において、従来までの路面性状測定車両に代わる新たな点検手法として、車載写真レーザ測量に用いられるレーザスキャナを搭載した新たな路面性状調査機器(LCMS+MMS,LCMSはLaser Crack Measurement Systemの略)の使用を提案している。


図11 弊社が保有するLCMS+MMSの機器構成

 LCMS+MMSは、従来までの路面性状測定車よりも安価にMCIやIRIといった舗装の健全度調査を行うことができるだけでなく、搭載したレーザスキャナで道路周辺の地形や地物を計測することができる。
また、LCMS+MMSによる舗装定期点検の精度については、一般財団法人土木研究所の性能確認を行っており、従来までの測定方法と比較して十分な精度を有していることが証明されている。


図12 弊社が保有するLCMS+MMSによる路面性状調査の参考コスト

 また、このようにして5年に1回のサイクルで取得した3次元点群データは、前回の連載で示したクラウド上での集約・公開が可能なRID(Road Infrastructure Database、以後RID)を用いることで、大容量のデータを継続的に蓄積することが可能となる(https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/series/25419/)。
 RIDは、WEBツールとして3次元点群データを活用できるシステムであるため、専門ソフト等を必要とせずに点群データの閲覧や計測等を行うことができる。
 また、クラウド上のデータベースシステムであるため、部署横断的な3次元点群データの共有が可能であり、道路台帳の作成・更新や道路施設の維持管理をはじめとして、災害発生時の復旧・復興を含むあらゆる事業への活用による効率化や高度化を期待することができる。
 また、インターネット上で一般公開を行うことも可能であるため、3次元ハザードマップとしての活用や、教育業界やエンターテイメント業界等の民間分野での活用も期待できる。


図13  RID(Road Infrastructure Database)の概要

図14  LCMS+MMSとRIDを用いた3次元点群データの取得・蓄積・管理の参考コスト

5. 今後の展開

 弊社では、意味を持たない点の集まりである3次元点群データに対して、プロダクトモデル化(Semantic Point Cloud Data)を行っている。地物ごとに「領域設定」を行うことにより、抽出や重畳を容易にするほか、施設台帳や点検結果を付与して維持管理にも活用することを可能としている。また、領域設定のための地物認識にAIを活用して自動認識させることによって効率化を実現しており、地物の自動識別精度は8割以上である。


図15  取得した3次元点群データ(左図)と 領域設定を加えた3次元点群データ(右図)

 今後は、社会資本のライフサイクルにおいて作成される各種の情報や関連図書を3次元点群データやBIM/CIMモデルの属性データとして入力や関連付けを行うことで、維持管理や中長期的な修繕計画・更新計画等への活用が可能なものへと拡張を進め、あらゆる社会インフラ整備に関わるプラットフォームとして展開していく予定である。

【出典】
1) 国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000037.html
2) 「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」,p.第1編3,国土交通省,令和4年3月
3) 「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」,p.第1編25,国土交通省,令和4年3月
4) 「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」,p.第1編40,国土交通省,令和4年3月
5) 「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」,p.第1編41,国土交通省,令和4年3月
6) 国土交通省ホームページ(https://www.mlit.go.jp/common/001186303.pdf

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