1. はじめに
わが国では、国家単位のデジタル化を実現すべく「デジタル庁」の発足など、ICT、IoT活用などの大きな波がきている。土木業界では、社会のあらゆる生産性を向上させるi-Constructionの取り組みにおいて、3次元モデルを活用し社会資本の整備、管理を行うCIM(Construction Information Modeling, Management)を導入することで受発注者双方の業務効率化・高度化を推進してきている。
また、国際的なBIM(Building Information Modeling)の動向等は近年顕著な進展を見せていることから、土木分野での国際標準化の流れを踏まえ、Society 5.0における新たな社会資本整備を見据えた3次元データを基軸とする建設生産・管理システムを実現するため、BIM/CIM(Building/ Construction Information Modeling, Management)という概念において産官学一体となって取組みを推進している1)。
弊社では、約10年前からMMSやUAV等のICT機器を導入して点群データの活用に取組んできているが、近年では点群データとBIM/CIM を融合させることによって、社会資本の整備や維持管理などのあらゆる段階での効率化・高度化向けた取組みを進めている。
図1 BIM/CIMの概念図2)
2. BIM/CIMモデルや地形モデルの精度に関する定義
BIM/CIMモデルの作成精度は、100・200・・・500と5段階で設定される「詳細度(LOD)」により定義され、受発注者間の協議により決定される。
表1 BIM/CIMモデル詳細度(工種共通の定義,山岳トンネルの例)3)
一方、BIM/CIMモデルを用いた設計に用いる地形モデルの精度については、地図情報レベルによって設定される「測量精度」又は点群データ計測に代表される3次元測量手法により取得される「点密度」により定義され、各測量手法の特性をふまえて単独あるいは組み合わせて利用される。
表2 地図情報レベルと測量方法の対応の目安4)
図2 3次元測量手法の点密度と適用範囲5)
3. 点群データとBIM/CIMモデルを融合するメリット
先述の通り、BIM/CIMモデルに用いる地形モデルには、様々な手法により取得したデータを用いることができるが、目的に応じて必要となる精度を確保することが重要となる。
例えば、広域な範囲を対象としたルート選定を行う道路概略設計道路では地図情報レベル2,500~5,000程度の精度があればよく、空中写真測量や航空レーザ測量でも、設計上で必要となる精度は確保できる。
一方、道路概略設計において選定されたルートに対する詳細な比較検討を行う道路予備設計では、地図情報レベル500~1,000程度の精度が求められるとともに、計画道路沿道に位置する民地に生じる高低差や道路排水処理方法を検討するためには地表面レベルでの精度が重要になってくるため、車載写真レーザ測量や地上レーザ計測を用いることが必要になる(図2参照)。
このため、計画・構想レベルでの検討等を除く具体的な設計等を進める段階では、3次元点群データをもとに地形モデルを作成してBIM/CIMモデルを用いた各種作業を進めることとなり、従来までの2次元での測量や設計では得ることができなかった様々なメリットを享受することができるようになる。
メリット① 設計精度の向上
従来までの2次元での測量・設計では、現況地形の平面図・縦断図・横断図をもとに設計等を行うが、ここでの横断図は道路や河川等の中心線線形の変化点や測点ごとに現況地形を測量・図化したものとなる。
このため、設計上のコントロールポイントとなる箇所の標高や形状などが横断図として作成されていない場合、当該箇所の前後や周辺の地形から想定して設計を行うか、追加で測量作業を実施することが必要となる。
一方、3次元点群データにより地形モデルを作成している場合、任意の位置での標高の計測や縦横断図の作成が机上作業によって行うことが可能となる。また、設計や検討の進捗に伴って追加の現地確認が必要となった場合でも机上作業のみで対応できるため、働く場所や方法に縛られない多様な方法で効率的に設計や検討を進めることができ、設計精度の向上や施工時の手戻り防止が期待できる。
メリット② 関係者調整の円滑化
社会資本の整備にあたっては、事業の内容等に対して情報を適切に公開したうえで、沿道住民をはじめとした多くの関係者と合意形成を図った中で進めていくことが求められる。
この関係者調整のうち、社会資本整備に関連する企業等との調整は、一定の専門知識があることを前提に設計図等を用いて進めることが可能であるが、事業実施に伴って近接または支障となる構造物がある場合には、3次元で現況の地形・地物や設計内容を図示・計測等を行うことで、合意形成を円滑に進めることが可能となる。
図3 跨線橋部の地形モデル(点群データ)から架空線位置等を同定して耐震補強を検討
図4 地形モデル(点群データ)上のマンホール位置から既存埋設物位置を同定して電線共同溝を計画
図5 地形モデル(点群データ)から高圧電線の位置・高さを同定して施工計画を立案
一方、こういった専門知識がない沿道住民等との調整を行う場合は、事業内容等を容易にイメージできる資料を提供することが求められ、従来から2次元での完成予想イメージやパース等が用いられてきている。
当然ながら、ここで作成される2次元のパースは特定の視点場から作成されるものであるため、合意形成の過程で異なる視点場からのパースが必要になった場合はパースの再作成が必要となるが、BIM/CIMモデルで作成していればたった1回のモデル作成で任意の複数の視点場から完成予想イメージをいくらでも示すことができる。また、電線類地中化事業の場合には、3次元点群データで地形モデルを作成すれば、電柱や電線が地中化された場合の完成予想イメージを、点群データを加工するだけで作成することも可能となる。
さらに、2次元で作成されることが多い洪水ハザードマップも、3次元点群データを用いて作成した地形モデルを用いて示すことで、洪水発生時の影響をより視覚的に提供することが可能となり、人々の防災意識の喚起や避難行動の迅速化等にも役立てることが可能となる。
図6 地形モデル(点群データ)を用いた現況(左図)と電線類地中化後のイメージ(右図)
図7 地形モデル(点群データ)を用いた3次元での洪水ハザードマップ