-分かっていますか?何が問題なのか- 第62回 景観とメンテナンス(その2) ‐メンテナンスの肝は、熱意と探求心‐
これでよいのか専門技術者
(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員
髙木 千太郎 氏
4.おわりに
私から読者に、ここで考えてもらいたい重要なことがある。今回の連載の始めに、吊りピース設置について、敢えて一般の場合と限定した。この真意は、図‐40にある。実はAB橋パイロンには、景観設計を行うだけではなく、維持管理についても考慮したことから図‐41に示すように見えがかり以外の箇所に吊りピースを設置し、将来の維持管理、例えば、今回説明している塗装の塗替え仮設が設置できるように対処していた。しかし、現実には、図‐40に示した吊りピースは使われることなく、今回話題提供している新たな吊りピースをパイロンウェブに設置し、図‐41に示す塗装塗り替え用の仮設(単管足場及び防護工)で覆い塗装の塗替え工事を行っている。ここで問題は、当初設計時の仮設設計が実際には用を成さなかったのか、当初設計の吊りピースを使うことを無視して安易に新たな吊りピース設置を行ったのか、どちらが真実であろうか?読者の方々に考えて貰いたい。
図 ‐40 AB橋パイロンの維持管理用吊りピースの設置状況
図 ‐41 AB橋パイロンの塗装塗り替え用足場及び防護仮設設置状況
私は、後者の方であると思いたかった。しかし、架設後30年を経た今日、「全基準も変わり、当初設計で設置した吊りピースで足場を設置することは至難の業との結論となり、新たな吊りピース設置の判断となった」と関係者から聞いた。特に、既存の吊りピース利用が困難と判断した理由として大きかったのは、パイロンは裾広がり形状であるが、当初設置した吊りピースは図でも明らかなようにパイロンのセンターから750離れた位置左右に平行に設置されていたことにあった。そのため、地上に近づくほどパイロンウェブ端部から吊りピースが離れた位置であることから、単管足場を容易に設置できない構造となっていたのである。もしも、当初設計の段階で、将来の維持管理用足場設置を十分に検討し、十分に機能する位置に吊りピースを設計し、設置していれば、今回説明している無数の簪を付けた事態とはならなかったはずである。要するに、結果的には当初設計の吊りピースは、役に立たない格好だけの飾りの吊りピースであったという結論となる。さてさて、何が本当であろうか??
ここに示したような、当初設計が全く機能しなかった事例を数多く体験している私としては、今回の原形復旧検討を進める過程において、「またか、立派な景観設計と現実の差異が明らかになった」との悲しい思いと、それに対応するメンテナンス技術者の苦労は絶えないとの思いが輻輳した。私が今回『景観とメンテナンス』の表題を付けた真意を是非測って頂きたい。また、メンテナンスにも多くの課題があり、課題解決には種々な検討を行うことが求められており、正しく回答を得るにはそれを探求する強い意志と豊かな想像力が必要となる。
さて次回は、AB橋パイロンの原形復旧について最終章となる予定である。長々と3回に渡って説明する趣旨は、メンテナンスには種々な検討が必要であることは述べたが、検討や検証を適切に行うには、時には種々な試験を行い、それを基に最適案を抽出し、実行することが必要不可欠であることを、読者の方々に少しでも理解して貰いたいとの私の強い思いからである。今後は、安易な方策を直ぐに行うのではなく、最適な案を良く考えてから抽出し、それを基にして実行しましょうよ。そうしないと、今回のように失敗しますよ! 読者の皆さん。(次回は2022年9月1日に掲載予定です)