(3)鋼橋防食における塗装(その2)
①関西国際空港連絡橋(海上部)(写真-2参照)
平成2年秋から関西国際空港㈱本社工務二部に設計係長として着任した。空港連絡橋の海上部については8割程の桁架設が完了していた。トラス桁及び鋼床版箱桁橋については長期防錆型塗装系(当時は、上塗りはポリウレタン樹脂塗料)を当然の如く採用した。海上部で厳しい腐食環境であること、100年以上の耐用年数を期待すること、等からである。本四橋と大きく違うのは、維持管理設備としての「外面作業車」や「内面作業車」を設置しなかったことである。作業車を設置しなかったこの判断は大正解である。先々代の本四の先輩係長や大阪市出身の係長さんの判断には頭が下がる。それは何故か。予防保全の本質と関係がある。一般に「予防保全」とは「損傷が起きる前に手を入れる」ことである。本四橋防食の基本は、中塗りが損失する前(下塗りが露出する前)に中・上塗りを塗り替えることである。ここで重要なのは2点ある。「塗膜健全度の評価と塗替え計画の策定」と「局部損傷の手当の実施」である。塗膜健全度の評価(と塗替え計画の策定)は、あらかじめ定められた定点において塗膜調査を行い、分析し、塗膜劣化曲線を作成し、塗替え計画を策定することである。局部損傷の手当は、無機ジンクリッチペイントを防食下地としている長期防錆型塗装系では必須である。一般部を一所懸命点検したとしても隠れた局部損傷を見つけ、直ちに補修しなければ長期防錆型塗装系を使う意味が無い。そのために「外面・内面作業車」を使用するのである。良い面ばかりではない。外面・内面作業車の設置や維持管理には莫大なお金が必要だ。メリットを出すために走らせねばならない。走らせるためには操作員が必要だ。作業員も必要となる。最終的には作業車をメンテするのが仕事になる。将来の維持管理組織や体制、方針が出来ていなければ設置するべきではない。このため、関空連絡橋と同様に福岡県の北九州空港連絡橋も作業車は付けていない。桁外面に吊りピースを設置しただけである。
<事例紹介>
補剛トラス桁の塗替え工事を担当していた頃、現場から連絡が入った。非合成鋼床版の道路縦桁(図-6参照)下フランジ上面に大きな腐食が発生していると。板厚も半分程度になり団扇くらいの範囲の塗装が黒色に変色していた。変色した塗装を剥ぐと大きな減肉を確認。断面計算上は事無きを得て、塗替え塗装を指示した。重要なのは、これが見過ごされてきた現実だ。幸いにも塗替え塗装用の足場があったからこそ発見された損傷である。皆さん、橋桁へのアプローチ率というのをご存知だろうか。どれだけの面に接触できるかの指標である。大鳴門橋でも70%程度であった記憶がある。通常の点検では30%は見れていないのである。これは一般橋(30~50%か)でも同様である。阪神高速の時もどうしようか悩んだ。この部分をどうやって見るかについて。
さて、話を戻すと何故こういう損傷が発生したか。私の予想では以下のとおりである。
★工場塗装で上塗り迄仕上げて、台船で現場に運び、トラベラークレーンで吊り上げ架設した。
当然の事ながら「架設時の当てキズ」に用心しながら架設したとは思う。しかし、部材数が多いことから当てキズは残る。その部分は十分な処置をせずに上塗り塗料でタッチアップした。こういうことではないかと思う。
②関西国際空港連絡橋(空港島部)
空港島内高架橋(ターミナル迄の)については、陸上部橋梁という扱いで「トラッククレーンベント架設工法」で計画されていた。ということは、中・上塗りは現場塗装ということである。これについては、部内での抵抗もあったが添接部を除いて全て「工場塗装」に変更してもらった。施工をする側は丁寧な架設を強いられるし、塗膜養生も大変である。しかし、維持管理をする側から見れば非常に助かる。是非とも参考にして頂きたい。
③阪神高速道路の塗装基準改定
阪神高速道路の神戸管理部設計課長時代に「阪神高速道路塗装基準」の改訂を主査として行った。基本的な考えは、鋼道路橋塗装・防食便覧改訂(平成17年)を受けてのものであった。この中で特に重要視したのは、防食下地の形成と塩分除去規定の厳格化である。このため、5号湾岸線の一部に試験施工区間を設け、Rc-1系の試験塗装を実施した。ブラスト作業による飛散対策、有機ジンクリッチペイント、エポキシ樹脂塗料(下・中)およびふっ素樹脂塗料(上)の施工性の確認である。一方では、旧塩化ゴム系塗料に含まれているPCB等の有害物の処理量と処理方法の検討であった。塩分規定では、湾岸線については20mg/m2以下と本四橋レベルに引き上げた。
(4)最後に
今回、これまでに担当した塗装について一部を紹介した。大学や各協会等で講演を頼まれた時に紹介することがある。想定外の外力(地震や風)が作用しても鋼構造物は安易に壊れない。これは許容応力度設計法で言うところの安全率で守られているからである。しかし、維持管理が不十分で鋼部材の腐食が進行した場合、安全率で構造物の健全性は担保されなくなる。塗装等の防食をしっかり行い、十分な維持管理を継続して行うことが重要である。