道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第61回 ここまで落ちたか米国のメンテナンス ‐米国の行政専門技術者の言葉が真実になった‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2022.03.01

2.1 Steel Rigid Framesの構造特性と点検・診断について

 ファーンホロー橋に採用されたBatter-Post Steel Rigid Frame (鋼製方杖ラーメン橋)を含むRigid Frames Bridge(リジッドフレーム橋)の特徴について、米国においては以下のように説明されている。
『リジッドフレーム橋は、荷重が各辺(Frame beam)に分散されるように剛体的に各辺(Frame beam)と脚(Frame leg)を結合した多辺形の構造物であり、「中央径間」の曲げモーメントが「側径間」、または「脚」に置き換えられ、「脚」は構造体としてスパン長の延長や使用材料を節約するために機能している。単純桁と比較して、「中央径間」の主桁断面を小さく、桁高を低く抑えることができる』と特徴を示している。また、『「脚(Frame leg)」の支点は、ヒンジ構造あるいは固定構造が採用され、ヒンジ構造の場合は鉛直反力と水平反力、固定構造の場合は鉛直反力及び水平反力に加え、反力モーメントが作用する」と補足説明が加えられている。先の説明に加え、私の拙い知識でリジッドフレーム橋の構造を考えると、部材軸が方向を変える箇所や部材が剛結されている箇所は、隅角部には大きな負の曲げモーメント作用すること、大きなせん断力に抵抗できる構造とすることなどが設計上の留意点となる。また、リジッドフレーム橋の部材断面形状寸法は、曲げモーメントによって決定する場合が多いが、軸圧縮力が作用することから、全体座屈についての照査が必要な構造でもある。なお、米国でよく言われるリダンダンシー能力についリジッドフレーム構造は、優れているグループには該当しない。

 ここで、米国のBridge Inspector(私は米国の公認Bridge inspector資格を1995年に取得、図‐6参照)の立場で今回崩落したRigid Frames Bridgeについて実橋点検ポイントを整理すると下記となる。先に説明したRigid Frames Bridgeの特徴及び追記と共に以下に示す点検のポイントを重ね合わせて今回の事故橋梁を考えてもらいたい。
 道路橋の点検・診断の基本は、公共の安全確保、道路橋の点検・評価・制限荷重の統一性、重要な社会基盤施設として管理するための情報提供などである。Rigid Frames Bridgeを対象として点検を行う場合のポイントは、

(1)主要部材の点検について
 ①腐食による断面減少のせん断および曲げゾーンの点検を行う。特に、Batter-Post Steel Rigid Frameの場合は、図‐7に示すエリアの点検に重点を行うこと。
 ➁圧縮部分の桁(Frame beam)のフランジに座屈の兆候がないかを点検する。
 ③端部の支承に腐食や異常がないかを点検する。
(2)二次部材の点検について
 ①水平継手の添接板及び周辺は、ゴミや水分がたまりやすく、腐食や劣化が進みやすいので、必ずチェックする。
 ➁排水管とデッキの接合部の下に、道路の排水にさらされたことによる腐食がないかを点検する。
 ③車両や人が通行する路面上の主構造桁部分に衝突による損傷がないかを点検する。
以上がBridge InspectorがRigid Frames Bridgeの点検を行う場合の留意点である。現地での点検作業が終わると、内業として診断業務に移り、表‐1に示すNational Bridge Inventory健全度ランクに区分けして対象橋梁を評価し、特記事項を記入した後、橋梁データベースマネジメントシステム『PONTIS』(Network-level Bridge Management System developed under FHWA)に点検・診断データを入力する。

 『PONTIS』とは、1989年にThe Federal Highway Administration (FHWA・連邦道路管理局)が開発した道路橋のマネジメントシステムである。全米の道路橋は、『PONTIS』に諸元、点検結果(0~9)、必要な措置等を入力することになっており、Bridge Inspector資格取得のための必要条件である『Bridge Inspector Training』でもElement入力作業を実務として行い、必須科目となっている。FHWAは、全米の各州(State)、郡(County)、市(City)などに道路関係の補助金配分を行っている米国連邦政府の機関であるが、FHWAは『PONTIS』に保存されている各州、郡、市など個別橋梁データを確認し、補助金優先順位基準として「National Bridge Inventory:全国橋梁一覧表」などを採用し、アセットマネジメントによって最適投資を行っている。
 私がBridge Inspector資格を取得した時、42名が受講・受験し、28名が合格者となったが、その中には、ニューヨーク州、ミネソタ州やペンシルバニア州などのDOT(Department of Transportation:交通局)及び著名な民間企業コンサルタントPARSONS Corporationの橋梁技術者も含まれており、今でも難題があると連絡を取っているが、米国で事故が起こるたびに彼らの顔が浮かぶ。

2.2ペンシルバニア州の橋梁点検・診断概要

 ペンシルベニア州は、州全体を11に分割し、ペンシルバニア州DOT(Pennsylvania Department of Transportation’s)は11のEngineering District & County Maintenance Office(地方事務所)に分けて道路施設マネジメントを行っている。ペンシルベニア州及び州下の地方自治体(郡、市町村など)は、道路橋の定期点検を2年に1度の頻度で行うのが原則で、特に、必要があれば1年に一度、もしくは頻度(例えば、半年とか毎月)を増やして行っている。因みに、NO11 Engineering District & County Maintenance Officeは、総延長2,570マイルの道路、総延長1,804マイルの橋、そして4つのトンネルを直轄管理し、州下の郡や市などの道路施設を管理指導及び取り纏めを行っている。話しは少し脱線するが、図‐8は、NO11 Engineering District & County Maintenance Officeと事務所内に飾られているペンシルバニア州旗を広げて見ている私の状況写真である。ペンシルバニア州旗は、白頭鷲と馬、そして平和と繁栄を象徴するオリーブとトウモロコシで支えられた盾をあしらった青色の美しい旗(図‐9参照)である。
 ペンシルバニア州旗に描かれているのは、ペンシルベニア州の強みを象徴する盾、盾の中に描かれている船は州の商業が世界中に運ばれていることを示し、鋤はペンシルベニア州の豊かな天然資源を、そして3つの麦束は肥沃な畑とペンシルベニア州の人間の思考力と行動力の豊かさを描いている。盾の下には州のスローガン、「美徳、自由、そして独立」の言葉が書かれている。米国は、欧米諸国の中では歴史が浅く?移民した白人を主として独立宣言を重視するお国柄である。このようなことから米国の何処の州に行っても、州DOT事務所の入り口には必ず州の紋章を描いた州旗が飾られている。私は、州の歴史が分かり、州の特徴をより深く理解する目的で必ず、州旗を披いて見ることにしている。

 ペンシルベニア州の規定では、公認のBridge Inspectorが橋梁の点検・診断を行うこととし、Bridge Inspectorは、ペンシルベニア州DOTを通じて15日間のSafety Inspection of In-Service Bridges Training講習を受講し、合格した公認の技術者でなければならず、2年ごとに再講習が義務付けられている。法で定められた道路橋定期点検は2人以上の公認のBridge Inspectorで構成されるチームで行われ、チームリーダーは道路橋点検・診断における5年以上の経験が必要である。私が興味を持った点検・診断技術者の技術レベルをどのように保っているのかDOTの責任者に聞いたことがある。ペンシルバニア州DOTは、Bridge Inspectorの質とその力量チェックは、外部検査機関(ペンシルベニア州DOTとコンサルタントで構成するBridge Inspector会)が何橋かを抽出し、それらを対象Bridge Inspectorが再点検・診断し、提出された点検・診断結果と正規点検・診断結果とを比較する。チェック対象のBridge Inspectorから提出された点検・診断結果に誤りが多い場合には、対象Bridge Inspectorにペナルティを課すことが決められている。Bridge Inspector技量確認検査の閾値は、例えば、抽出橋梁15橋を対象に変動率を算出し、10%を超えるとパナルティを課している。ここまで説明したBridge Inspectorの技量確認制度は、ペンシルバニア州DOT職員でも同様に扱われ、民間技術者と同様に確認検査を定期的に行っているとのことであった。外部に厳しく、内部に甘い、どこかの国の体質とは大きく異なっている。

 橋梁点検の方法は、目視による外観調査が基本であり、40年以上前から近接目視点検である。道路橋の実橋点検で重視する変状は、構造的破壊につながるコンクリートの空洞、ひび割れ、鋼材の断面欠損、き裂、破断などである。近接目視と併用する非破壊検査については、コンクリート構造物は、超音波、地表レーダ、赤外線やインパクトエコーなどを使って行い、ハンマーやチェーンドラッグなどを併用している。また鋼構造物は、浸透探傷試験、磁粉探傷試験、放射線透過試験、超音波探傷試験などを併用して行っている。また、道路橋を支持する地盤については、簡易現位置試験も行っていた。私の印象では、近接目視点検の精度を高めるために、種々な機器やシステムを使っているが、基本は点検技術者の責任との考えが主流であり、点検員に権限も付与されている。専門技術者がプライドを持ち、責任ある仕事を行い、任せるには、責任、権限、そしてサラリーが必要である。

 『PONTIS』や州のデータベース(以前から使っている州独自のシステム)への入力は、内業作業を少なくするために点検現地にハンディコンピューター(図‐10は10数年前に使っていた携帯端末)を持ち込み、状態を確認しながら入力作業を行っている。点検・診断結果が悪い場合の措置については、以下である。

 点検・診断時に対象橋梁の健全度が悪く、構造的の問題があると判断をすると対象橋梁の荷重制限措置を行なう場合が多い。荷重制限措置としては、最悪の場合が通行止め、それ以外は荷重制限を行う。荷重制限は、制限ランクとしてH-20(TRUCK OR LANE 20 TONS)、HS-20(TRUCK OR LANE 38 TONS)、ML-80(TRUCK 36.84 TONS)などであり、算定方法は、活荷重/死荷重>1.0を基本として算出し、対象橋梁毎に制限荷重を決めている。

 ペンシルバニア州は、郡が67、市が41に区分されている。郡及び市管理橋梁の点検は、州が受託して行うか、もしくは民間に委託して行い、州が郡や市町村から受託して点検する場合の点検割合は、15年前は州の直営が90で民間委託が10となっていた。今回事故の起こったアレゲーニー郡を管轄するペンシルバニア州DOTのNO11 Engineering District & County Maintenance Officeに所属する点検員は34人でそのうち、17人が専門家で、他は点検補助員であった。

 ペンシルベニア州が管轄の州下地方自治体橋梁事業へのFHWAからの補助金の割合は、FHWAが80%、ペンシルベニア州が15%、郡及び市町村が5%である。郡や市等で財政状態が厳しい場合は、100%の補助体制となることから、郡や市等は予算獲得の必要がなくなる。また補助内容は、工事請負費でも委託料(設計委託、調査費)、工事種別に関係なく、同率補助となっている。
これまで説明した情報は、15年前の情報であることから、PPPの増加等によって多少の変更はあると思うが、基本的な考え方は同様と考えて良い。

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