(3)高架橋の柱と中層梁
ラーメン高架橋の被害が多く生じたのは2層高架橋の中層梁のせん断ひび割れです(写真-9)。数は少ないのですが、1層高架橋の柱の梁との接合部付近が損傷したものもありました(写真-10)。
写真-9 2層ラーメン高架橋の中層梁のせん断ひび割れ/写真-10 ラーメン高架橋の柱天端の損傷
(4)橋脚の鉄筋の途中定着部
それまでの河川橋脚の配筋は、主鉄筋を橋脚下端から天端に向かって、モーメントが減っていくのに合わせて途中で減らしているのが一般です。この鉄筋を減らした箇所(鉄筋の段落とし部)で、コンクリートのかぶりが剥落したり、せん断ひび割れが生じたりという損傷が生じています(写真-11)
写真-11 橋脚の鉄筋の段落とし部の損傷
3.復旧
3.1 落下した桁のシューへの戻し
シューの水平移動防止の突起が壊れ、上シューごと桁が橋脚天端に落ちてしまった桁が多くありました。スパン20mのRC桁が多かったのですが、治具を工夫して、鉛直ジャッキと水平ジャッキを組み合わせて容易に元の位置に戻すことができました。
L形のプレート2枚を、間にPTFE 板を入れ、鉛直ジャッキをプレートの上に載せて桁を持ち上げ、L形の立ち上がり部分を水平ジャッキで相互に押すことで横移動できます。想定以上にスムースに作業が進みました。1日で何連もの桁を元の位置に戻しました。
3.2 シューの補強
上シューを下シュー上に戻しても、シューの移動防止の突起は壊れているので、新たな移動防止の構造を追加しなくてはなりません。上下のシューを鋼製の枠で囲み、下シューとの隙間に樹脂を入れて一体化し、この枠で上シューの移動防止装置としました。
3.3 桁座、桁端
桁座や桁端の損傷は、鉄筋の追加補強やクラック注入、横桁の追加などで補修、補強しました。桁座を拡幅して支承の位置を前面に移動させることも損傷が大きい場合は行われました。
3.4 高架橋の中層梁
中層梁のせん断ひび割れの補修は、クラック注入のみで済ましています。元の耐力に戻ることの確認はしています。補強しなかったのは、これが損傷しても列車走行に支障しないことと、これを補強してしまうと、損傷部位がほかの部材に移ってしまい、かえって危険となるからです。これを補強すると、柱と中層梁の接合部や、柱の損傷が先に起こる可能性が生じます。かえって構造物としては望ましくない破壊になることを避けるためです。
その後に起こった東日本大震災でも、再度中層梁にはせん断ひび割れの損傷が生じています。この時の補修もひび割れ注入のみを基本としました。その時、一部の現場からは何度も補修しないようにしてほしいとの声もあり、その場合は、柱の耐震補強、柱と中層梁の接合部の補強と合わせて中層梁のせん断補強を実施しています。
3.5 柱
柱の損傷は、梁との接合部付近の被りの剥落とひび割れです。ひび割れには樹脂注入をし、せん断補強筋を損傷範囲には追加してコンクリートで断面修復しています。
4.復旧にあたり行った実験
4.1 中層梁の試験
中層梁がせん断ひび割れを多く生じたので、その確認のためと、樹脂注入をした場合の性能の確認試験をしました。樹脂注入のみで十分元の耐力に戻ることを確認しています1)。
5.耐震基準の改定
この地震の復旧をほぼ終えた時期、1979(昭和54)年に私は構造物設計事務所に戻ることになりました。この地震での被害を契機に、設計の基準を見直す作業が行われていました。私は、コンクリートの設計基準の改定を担当することになりました。
5.1 エネルギー一定則
この頃には、構造物の大きな地震での弾性応答加速度は1G程度だろうということが、耐震設計の関係者では認識されていました。震度法の震度0.2というのは0.2Gなのに、それで設計した多くの構造物が1Gの応答で壊れないのかということについての研究が行われていました。
その理由は、降伏強度が小さくても、降伏後の変形能力が大きいと大きな地震でも倒壊しないということの研究がニューマークより発表されていました2)。世界の耐震のルールはこの考えを取り入れてきていました。大切なのは、構造物側の研究者にとっては構造物の降伏後の変形性能の把握です。国内でも特に建設省の建築研究所にて多くのコンクリート部材の交番載荷実験が行われていました。建築基準法は1981(昭和56)年に新耐震といわれる1Gの弾性応答加速度に対応した基準に変わりました。
建築構造物の地震での損傷は、基本は梁の先行降伏としていました。柱が壊れるよりも梁が壊れるほうが致命的な倒壊になりにくいからです。鉄道高架橋など、大きな荷重を梁で支えるものは、地震時に梁降伏が先になるようにしようとしても、梁が強すぎ柱降伏が先になってしまいます。
建築での実験結果を参考に、柱の交番載荷実験を我々は実施しました。変形性能を計算式で算定するまでにはいたらなかったので、構造細目で靭性を確保するルールを基準に入れて、1Gまでの弾性応答加速度に耐えられる設計基準を1983(昭和58)年に制定しました。
基準は新しく造ると想定外の設計結果となることがあるので、制定の2年前から大宮―上野間の新幹線、埼京線の設計に採用して、問題点をつぶすことをしています。技術基準は完全に作ったつもりでも、実構造物を実際に設計すると不都合な個所が生じます。設計成果物のすべては、当時は構設でチェックするので、そこで過去の設計と大きく異なる部材などが設計されると、そのような結果にならないように条文を修正します。このような試行期間で、多くの設計をしてみないと完全な基準にはなりません。
現在は、降伏後の変形性能を求める算定式が提案されています。この基準を作る途中で多くの実験データーから算定式を作ろうと検討して、基準改定の幹事長だった東大の岡村先生に説明に何度か行きました。この基準制定時期までには納得してもらえるものはできませんでした。この時の議論で、鉄筋の抜け出しを分離しなくてはいけないことなど鋭い指摘を受け、しばらくして、我々は変形性能算定式を提案しています3)。この鉄筋抜け出しを分離して変形性能を求める方法が、現在に至る多くの変形性能算定式の基本になっています。
5.2 靭性を向上させる配筋
変形性能を大きくするには、まずはせん断破壊や大きなせん断ひび割れをなくすようにせん断補強筋をしっかり入れることです。これをすることでかなりの変形性能は確保できます。ある程度以上、せん断補強筋を入れてもそれ以上の変形性能は上がらなくなります。主鉄筋が降伏し、伸びた主鉄筋が圧縮を受けると、これが座屈し、帯鉄筋をはじき出してしまいます。また内部のコンクリートが粉砕され、外に飛び出してしまい圧縮部もなくなってしまい耐荷力を失っていきます。
座屈した鉄筋にも帯鉄筋が押し出されず、内部の粉砕されたコンクリートが飛び出さないようにコンクリートを拘束し続ければ、耐荷力の低下は抑えることができると思います。ヒンジ部をコンクリー片が飛び出さないように鋼板などで囲んでしまうか、我々の提案している主鉄筋の内側にスパイラルを入れてスパイラル内のコンクリートを維持し続ける配筋などを採用すれば、より大きな変形性能の部材となります4)。
靭性率といってコンクリート部材の変形性能を表す指標があります。一般的に交番載荷で変形が進んで、降伏耐力を維持している限界の変位を降伏変位で割った数字です。この降伏荷重を維持している最大変位は、これを超えると急激に耐荷力を失う変位でもありました。通常の帯鉄筋の場合はそれ以上の変位では急速に耐荷力を失ってしまうのです。
スパイラルを主筋の内側に入れたり、ヒンジ部を鋼板で囲ったりしてコンクリートがなくならないように工夫した部材は、降伏耐力を過ぎた変位となっても、急激に耐力を失わずに、ある程度の耐力を維持することができます。この降伏耐力を過ぎてからの変形能力も十分耐震性能には貢献できます。配筋の工夫で、変形性能を増やして、それを耐震設計や想定外の地震に対する備えとしていくことは必要なことです。
5.3 降伏耐力での検討
許容応力度設計では、材料の降伏強度に安全率で割った値で検討していました。耐震設計は、降伏耐力と変形性能が耐震性を決めるので、設計でも降伏耐力での検討としました。
それまでの震度を1.5倍して降伏耐力を確保することとしました。上部工は今までとあまり変わらない部材の大きさと鉄筋量となります。変形性能を大きくするために帯鉄筋は増えることになります。水平力が増えると、基礎は大きく変わることとなります。安定計算からも支持面積が少なく計算されるので、基礎は大きくなります。杭基礎は引き抜き力が増えることからも曲げ耐力の確保のための鉄筋量が増えます。
耐震基準を震度法の震度の1.5倍の力で降伏耐力を確保し、必要な変形性能を確保することで、地上部は以前の構造物とあまり変わらない耐力と大きさで耐震性の優れた構造物が造れる設計法ができたと思ったら、基礎が大きくなってしまうという問題が生じました。構設の所長、次長など上司と相談しました。壊れた地上部を合理的な設計ルールとするのは当然だが、壊れていない基礎を大きくするのはだめだ。基礎の設計は震度法のままでの設計とすることに決められました。木に竹を接いだ設計ルールとなるが、やむをえない。という判断でした。
理論よりも実態を重視するという判断は正しいし、この考えは私も大切にしたいと思っています。
その後、国鉄の民営分割にともない、技術基準の事務局は鉄道総研に移りました。総研での改定で、基礎も一体とした解析ルールとなって現在に至っています。理論のほうを重視したのだと思います。これによりそれまでよりも基礎はかなり大きくなることになって、現在に至っています。この分野の研究が進み、以前の程度の大きさになることを期待しています。
5.4 支承はゴムシューと鋼製のストッパーへ
シューの水平移動防止が壊れたことは、材質が粘りのない鋳鉄であったことも影響しています。BPシューの移動防止部材も大きく曲がって千切れる寸前でしたが、鋼製だったことで粘ったので落下しませんでした。
また、鉛直支持機構と水平支持機構を一緒にすると、水平支持機構が壊れた時も鉛直支持機構を一緒に扱わなくてはいけないので、地震後の復旧に時間がかかることになります。このことから、その後の支承構造は、鉛直支持はゴムシューに、水平支持は鋼製のストッパーが基本となりました。
6.新基準では大宮以南の新幹線構造物の設計から
6.1 過去の設計には新基準は適用しないのがルール
1983(昭和58)年から正式に新しい設計基準が適用されました。この時の通達は、いつものように今後設計のものから適用するとなっています。すでに設計作業に入っているものなどには手戻りが生じないような適用となっているのです。
東北新幹線や上越新幹線などの設計もこの時点ではすでに多く行われていたので、新しい基準の適用は東北新幹線では大宮から上野間の残っていた設計からということになります。その後の阪神大震災から東日本大震災まで大きな地震で新幹線構造物が被害を受けましたが、いずれもこの1983年の基準の前の基準での設計の構造物です。
6.2 東海地震対策では静岡付近の新幹線高架橋は補強を実施
この頃、東海地震が近い将来起こるということで国を挙げてさまざまな対策がされていました。静岡付近の新幹線についても耐震診断を実施し、耐震性能の足らない構造物には補強が行われています。
すでに設計したものや、すでに造ったものを今のルールで検討し補強するということは、それまで一般に行われていませんが、唯一東海地震対策は、診断し、耐震性能の不足の構造物は、補強が実施されました。この時に、その後の耐震補強に多く採用される鋼板で柱を巻く実験を実施し、現地の補強にも採用しています5)。
東海地震を予知するということで、当時さまざまな計測や、仕組みが国で造られました。しかしその後、実用的な予知はできないということになって、さまざまな仕組みはなくなりました。
阪神大震災が起こるまで、東海地震がすぐにでも起こりうる大きな地震という認識でした。それ以外の地域では大きな地震は近い将来にはないという認識でした。そのため、東海地震以外については耐震補強ということは議論にもなっていませんでした。
この頃には、研究者は大きな地震があれば、震度法での設計の構造物で帯鉄筋が少ないものは壊れるであろうと想定できたと思います。ただし、大きな地震が起こるということは想定できなかったのだと思います。
せん断破壊する構造物は耐震性能が小さく、十分な帯鉄筋が入ってせん断破壊の生じない構造物や、部材断面の大きな構造物の耐震性能は高いのです。この帯鉄筋の量は、現在は計算で求めて入れていますが、かつては設計者によっては計算より多く入れたり、計算通りだったりしています。設計者個人の判断がかつては優先され、時代とともに会計検査での不経済との指摘で計算通りの構造物が増えています。
せん断の許容応力度が大きすぎる基準の時代があり、この基準通りの設計ではせん断耐力が不足し、せん断先行破壊する柱が造られました。以前紹介しましたが、東海道新幹線は設計責任者が柱の帯鉄筋を、10cmピッチに計算以上にしっかり入れています。そのため、せん断先行破壊にはならずに比較的高い耐震性を持っています。
大正時代に造られた初期の鉄筋コンクリート高架橋は、主筋に丸鋼が使われていること、また鉄筋の強度も大きくなかったので柱断面も大きく、せん断先行破壊が生じにくい構造物となっています。そのため、これら古い鉄筋コンクリート高架橋のせん断破壊の地震被害はほとんどありません。中途半端な技術の進歩と、基準に技術者が従いすぎることが地震被害を大きくしたようです。いろいろ反省させられます。
(次回は4月1日に掲載予定です)
【参考文献】
1)石橋忠良、加藤勝美;中層梁の地震被害と復旧について、構設資料No.67、1981
2)Veletsos,A.S and Newmark,N.M;Effect of Inerastic Behavior on the simple System to Earthquake Motions,Proceedings of 2nd WCEE,Vol.2 1960.7
3)石橋忠良、吉野伸一;鉄筋コンクリート橋脚の地震時変形性能に関する研究、土木学会論文集,第390号、1988.2
4)菅野貴浩、石橋忠良、木野淳一、小林薫;軸方向鉄筋の内側に円形帯鉄筋を配置した鉄筋コンクリート柱の地震時変形性能、コンクリート工学論文集 第20巻第2号 2009年5月
5)宮本征夫、石橋忠良、斎藤俊彦;既設橋脚の鋼板巻き耐震補強方法に関する実験的研究、コンクリート工学年次論文報告集9-2,1987