4.Good Practiceの出現と講習会の開催
2020年度から、技術調査課と土木学会356委員会がコミュニケーションしながら試行工事の支援をすることになりました。
コンクリートの打込みの計画段階から事前の勉強会を立ち上げて、コロナ禍の中、現場での勉強会につなげ、筆者らも参加する形で打込み時の施工状況把握や脱型後の目視評価を現場で行った現場も出てきました。
山口システムを参考に、橋台のひび割れ抑制のために補強鉄筋の追加にチャレンジした現場も出てきました。
356委員会の委員が勉強会や現場に入り込んでいって試行工事を活性化させることはもちろん可能であり、その結果、構造物の品質が向上し、356委員会のそれぞれの委員のスキルアップにもつながるので、大変有益であると感じています。一方で、356委員会のマンパワーにも限界があるし、遠方の打込みや勉強会に参加することが容易でない場合もあります。どのようにして、有意義な試行工事を多くの現場で実践していただけるか、その仕掛けを議論しました。
仕掛けの一つは、試行工事を上手に進める上で参考になる情報をWebで発信することです。「品質・耐久性確保チャンネル」(http://hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/)は、品質確保に関する筆者らの活動に関する情報を掲載したものですが、「関連動画」(http://hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/movienew/index.html)のリンクに、試行工事の意義や、上手に進めるためのコツを簡単にまとめた動画を掲載しました(図-3)。また、「品質確保の好例」(http://hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/goodpractice/index.html)のリンクも作り、過去の品質確保のGood Practiceの情報を掲載するようにしました。手作りのHPですので、なかなかプロが作るように充実はできないかもしれませんが、今後も内容のブラッシュアップに努め、品質確保にチャレンジする方々に有効に活用されていくことを願っています。
図-3 品質・耐久性確保チャンネルでの試行工事の教材動画
もう一つは、仕掛けというよりは、コロナ禍で利活用が一気に進んだオンラインでの会議を活用したことです。技術調査課と356委員会の打ち合わせも、これまで基本的にはすべてオンラインでした。また、具体的な試行工事の事前勉強会も多くはオンラインで開催されました。オンラインには長所・短所があることはもちろん承知していますが、日本全国に位置する試行工事の現場に多くの委員が集まることも現実的に無理ですし、オンラインの会議で多くの委員が参加できる勉強会は、かなり有意義なものが多かったと感じています。
ただ、オンラインのコミュニケーションだけでは上手く行かない場合があります。筆者もこれまでに数多くの講演をしたり、コンサルティングをしたりしてきましたので、会議の場を盛り上げたり、クリエイティブな場にするノウハウはそれなりに身に付けています。それでも、現実の公共事業の現場で、これまでよりも少し上の品質確保を目指そう、という取組みですから、諸事情により関係者の目指すところが一つになるのが容易でない場合もあります。次回の号で書いてみようと思いますが、河津トンネルの現場にはすでに4回通いましたが、2回目に訪れた2021年4月9日の生コンの実機試験練りの際に、明らかに関係者の雰囲気が転換した瞬間がありました。オンラインも適切に活用しつつ、やはり本当のコミュニケーションは対面で、ということなのでしょうね。
さて、前置きが長くなりましたが、試行工事の現場でのGood Practiceもいくつか見られるようになってきたこともあり、技術調査課との打ち合わせの場で、全国での講習会を開催してはどうか、と提案しました。2021年11月26日にオンラインで開催することとし、現場でのGood Practiceを4件と、356委員会からの話題提供6件をコアとする内容にしました(http://hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/sonota/NewR31126kosyukai_douga.pdf)。冒頭には技術調査課の栗原さんからご挨拶いただき、その後に筆者が品質確保の意義を説明しました。
現場でのGood Practiceとして、
(1) 河津トンネルでの様々な事項を考慮したコンクリートの配合選定と、覆工コンクリートの品質確保について、安藤ハザマの平方 宏朋さんに発表いただきました。
(2) 東海環状の岐阜ICの中空橋脚においては、打込み時の気温が35℃を超えた日での暑中コンクリートの品質確保や、356委員会のメンバーのWebでの施工状況把握などについて、市川工務店の村井 桂太さんに発表いただきました。
(3) 山陰西部国道事務所の久保田 晃平さんには、山口システムを参考にした橋台のひび割れ抑制対策について発表いただきました。
(4) 沖縄県の中部土木事務所の親川 賢一さんには、泡瀬連絡橋での品質確保における周知会の重要性や、フライアッシュの活用などについてご発表いただきました。
356委員会からは、スランプ保持性に優れた化学混和剤の活用による品質確保と生産性向上や、目視評価法における打重ねの評価方法の改善の提案(http://hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/mokushi/index.html)、スランプ12cmのコンクリートを施工する場合の品質確保のテクニックなど、6件の話題を短時間で提供しました。
すべての発表を動画で公開し、発表ファイルもダウンロードできるようにしました。品質確保に関するノウハウや哲学等が共有され、さらに拡がっていくことを期待しています。
5.今後の展望
2020年度からの技術調査課と土木学会350委員会・356委員会の連携により、いくつかのGood Practiceが品質確保の試行工事の現場で見られるようになり、2021年11月26日のオンラインでの講習会を実施できたのは、一つの成果であると思います。
品質確保の試行工事は今後も継続されるようです。目視評価法の打重ねの評価方法を改善したので(http://hinshitsukakuhoch.web.fc2.com/mokushi/index.html)、改善した手法をぜひ試行工事でも活用していただければと思います。
全国での講習会はできれば年に1回は今後も開催し、試行工事に関わる方々のモチベーションになればと期待しています。技術調査課とは、試行工事の対象を橋梁下部工とトンネル覆工コンクリートから拡張し、橋梁上部工やボックスカルバートなども対象とすることも検討をしています。
現在は土木学会356委員会が技術的な支援を行っていますが、この委員会は任期のある委員会であり、今後の継続性をどうすべきか、筆者も知恵を絞っているところです。
そして、試行工事を重ねていくことには意義があると思いますが、図-1に示したように、地方のニーズにあわせた技術規準に落とし込んでいくことが重要であると思っており、そうなるように実践を重ねたいと思っています。