道路構造物ジャーナルNET

㉗長大橋の伸縮装置雑感

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.12.07

(3)多々羅大橋の伸縮装置

 多々羅大橋の伸縮装置は、側径間のPC桁と橋台の間に設置するものである。ここでは深くは書けないが、理論武装をした上で(独断)でローリングリーフ式に決定した。その理由の一部を以下に示す。
 
 ①設計伸縮量(地震時において±700mm程度)からすると必然的にくし型、ローリングリーフ式、
  リンク式が候補となる。マウラー式(±400mm)は適用外となる。
 ②伸縮装置設置箇所は、PC箱桁橋の端部上床版と橋台部である。伸縮装置設置に伴う床版打ち下ろし(切り欠き)をなるべく少なくしたい、ことからリンクは対象外とした。
 ③くし型、リンク式の様に開床式の場合、雨天時には常時桁下に雨水が排水されること(遊間が広く、非排水構造にするのが難しい)になり維持管理が大変である。
 ④走行性は閉床式となるローリングリーフ式が最良である。設計伸縮量が大きくなるとくし型、リンク式共に歯の寸法が大きくなる。歯の寸法が大きくなると歯と歯の間に自動二輪車の車輪が取られ、転倒する事故も多発していた。歯の寸法を小さくすると片持ち梁で設計される歯の横倒れ座屈防止の為に高さを多くとる必要がある。結果的に切り欠きが多くなり、不適となる。
 ⑤瀬戸大橋の斜張橋で発生した事故。つまり、GW中にリンク式伸縮装置の1ブロックのピンが外れてくしが落下、そこに車両が突っ込み事故が発生。この事故を契機に「機械式のリンク式伸縮装置を私は絶対使用しない」と心に決めた。
 ⑥以上からローリングリーフ式を選定した。しかし、瀬戸大橋下津井瀬戸大橋では「舌板」の板厚分で車輪が衝突し大きな金属音を発し、騒音問題が顕著になっていた。舌板を削っても限界があり、抜本的な騒音対策が必須であった。併せて、コスト削減の検討を実施した。

<裏話>
 神戸(所長)から尾道(局)へ異動してきた部長から「角君、理事から国産の伸縮装置を使うようにと言われるだろう。ローリングリーフを使うなら理由を準備しておくように。明石でも言われたし、来島でも言われたようだ」と。国産S社製のリンク式伸縮装置を推奨するのは公団OBが絡んでいいたためである。
 上記⑥の課題を解決するために、騒音対策とコストを下げる検討を実施した。
 ①騒音を下げる検討
 当時、ローリングリーフを使用した下津井瀬戸大橋では、図-3に示す舌板と車両タイヤの衝突により騒音が発生していた。これは国内の他の吊橋でも同様であった。下津井瀬戸大橋では舌板と滑り板の段差を解消すべく舌板先端部を現地で削っていたようである。これでは改善効果があまり期待できない。そこで伸縮装置本体の剛性増や防振材設置及びコンクリート充填等の検討を行った。最終的に採用したのは、防振材設置(グラスウール)と舌板先端部を1mmまで切削、の2手法である。その後、効果の有無は聞こえてこないが、多分期待通りだったと確信している。

②コストを下げる検討
 機械加工は、摺動面や舌板・振子板等の必要部位・面を除き止めることにした。不必要な機械切削が為され、結果的に製作コストが上がっていたためである。

<さらに裏話>
 多々羅大橋の伸縮装置の検討をしている頃、来島大橋がリンクになっているという情報を受けた。早速、多々羅のコスト削減策と騒音対策、これまでの実績をもって本社上層部に説明せよ、と担当者に言った。功を奏し、リンク式からローリングリーフ式へと変更が承認された。

(6)最後に

 今回は、長大橋の伸縮装置をテーマにした。伸縮装置は、設計・施工・維持管理において非常
に重要な構造部材である。これまで私が担当(設計)した大型伸縮装置は、瀬戸大橋を始めとして、①多々羅大橋(ローリングリーフ式)、②北九州空港連絡橋(ローリングリーフ式、マウラー式)、③岸ノ上高架橋(瀬戸大橋陸上部)(マウラー式)、④関空連絡橋空港島側(マウラースイベル式)、がある。また、維持管理場面では大鳴門橋(くし型)が挙げられる。一昔前は「地震時には伸縮装置を壊す」という思想があった。本体部材を壊さないためである。とは言っても長大橋の伸縮装置は規模も大きく、高価である。全ルート完成後、改訂された本四公団の「大型伸縮装置の設計要領・同解説(2001.4)」の最後にこういう解説が書かれている。

 ・設計にあたっては、既設橋梁における問題や破損の原因を充分に認識しておく必要がある。
 ・設計における配慮が十分であっても、施工が不完全であったり慎重さを欠くと破損をもたらすことになるので、施工・維持管理を確実に行えるような構造が望ましい。

 湾岸西伸部には連続斜張橋が計画されている。しっかりと上記を理解した上で伸縮装置の設計をしてもらいたい。伸縮装置は、橋梁付属物だと思っていないだろうか。道路利用者の安全快適な走行を担保し、スリップや騒音を発生させず、伸縮機能を低下させず、が最低の要件である。阪神高速時代には「簡易鋼製ジョイント」がもてはやされた。かつての部下達に現状を聞くと、ゴムの止水が不十分なようである。ジョイント屋さんは現状に胡坐をかかず、前向きに改善して欲しいものだ。(次回は2022年1月1日に掲載予定です)

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