2. 五反田のビル2)
2.1 対策の概要
これは、鉄道構造物の柱と建物の一部の柱が共用されたビルの話です。鉄道を受けている箱型の函体の中間柱がビルの柱と共用しています(図-8)。
図-8 建物と軌道の位置関係
ビルが完成し、これからテナントが入るという時期に、ビル内の部屋に入ったら、列車の振動や騒音が大きく、これではテナントを入れられないとの話になりました。ビルの開発の責任者から至急何とかしてくれとの相談を受けました。
対策として唯一の方法は、軌道からの振動、衝撃を軌道近くで遮ることです。軌道を桁で受け、その桁の支承に、柔らかいゴムを使い、桁の支持点の剛性を高めるということです。急いで追加の工事を行いました。軌道の荷重は薄いスラブにはできるだけ直接伝えないように一度桁で受けます。バラストを撤去して、軌道を受ける鋼桁をセットし、柱の近くのスラブ上にゴムシューを施工しました。
図-9に軌道桁の構造概要を示します。地下道躯体天端とレールレベルの差が最小で600mmのため、工事桁に用いている枕木抱き込み形式としました。枕木下のゴムパットは静的ばね値10tf/cmとしました。軌道桁の支点はビルの柱と位置を揃え5径間連続としました。軌道桁のゴムシューの静的ばね値は20tf/cmとしました。動的なばね値は30tf/cmとしています。端部は隣の軌道と急に変化しないように静的ばね値を86.8tf/cmとしています。
図-9 防振対策をした軌道桁
線路下のRC 函体については、軌道桁の支点部の剛性を高めスラブ上床板の振動を抑えるために、柱位置に合わせてブレース材を設けてたわみの低減と振動低減を図りました(図-10)。
テナントの入る直前に工事を終えました。
図-10 支点部のたわみを抑えるためのブレース材の設置
2.2 対策の効果
(1)カルバートの振動
対策前後で列車通過時のカルバートのスラブの振動を測定しました。図-11にその測定結果を示します。
図-11 カルバート上部スラブの振動測定値
(2)建物内部の振動
対策前後の建物内部の振動測定結果を図-12に示します。対策前はバラスト軌道です。対策後はフローティング軌道です。
対策後は、3階の周波数別振動性状は知覚限界を下回っており、振動レベルも55dB以下です。目標としていた55dB を下回りました。
図-12 対策前後の建物内部の振動測定結果
(3)建物内部の騒音
対策後の騒音評価を図-13に示します。改良後の騒音は3階でNC-30、4階でNC-35で目標のNC-40 を満足しました(オフィスにおいて、我慢できる騒音の大きさの限度はNC40程度とされています)。騒音レベルは40dB以下となっています。
図-13 建物内部の騒音測定値(改良後)
列車を支持する建物内の騒音振動を減らすには、まず軌道を建物と分離し、軌道を桁で受け、その桁は剛性の高いたわみにくい梁などで支持させることです。その桁のゴムシューは走行性に悪影響のでない範囲でできるだけ柔らかくすることです。軌道からの振動、衝撃を、ビルとの接点で柔らかいゴムシューを挟んでできるだけ伝わらないようにすることです。考えられる効果的対策として現状でできることは、このような方法のみではないかと思います。
(次回は2022年1月1日に掲載予定です)
【参考文献】
1)米倉頼夫、石橋忠良;列車を支持する建物の振動低減対策と効果 SEDNo.7 1996,11月
2)大迫勝彦ほか;JR東急目黒ビルの列車振動低減対策 SEDNo.19 2002 11月