(3)事業計画に関して~ポートアイランド・和田岬間~
最終的には、1主塔斜張橋案と2主塔斜張橋案が残ったようである。その結果、1主塔斜張橋案(ポートアイランド側に主塔を設置)を選定。その理由は、1)維持管理性が高い、2)景観性に優れる、3)不測の事態に対するリスクが相対的に最も小さい、と述べている。比較案を図-6.1に。最終選定案を図-6.2に示す。
以下に、1)~3)についてのコメントを示す。
①維持管理性が高い(一般的に点検が困難である主塔が1本である)
平成9年頃、兵庫県の1面吊り、2径間の斜張橋(中央支間長310m)の技術検討する際に当時の本四公団S理事にしつこいくらいに言われた。2径間斜張橋の桁の振動諸元は、3径間斜張橋に換算すると支間長×2×0.8つまり、770m級の斜張橋に匹敵すると。因みに、この考えで整理すると以下のようになる(あくまでも推算である)。
1主塔斜張橋案の場合
・主塔高 770m×0.2(標準;中央支間長の1/5)+航路高=220m(多々羅大橋に匹敵)
・最上段ケーブル長 凡そ400m(多々羅大橋の規模に相当)
2主塔斜張橋案の場合
・主塔高 480m×0.2(標準;中央支間長の1/5)+航路高=170m
・最上段ケーブル長 凡そ240m
つまり、2主塔斜張橋では東神戸大橋クラスに、1主塔斜張橋では多々羅大橋クラスの大規模斜張橋となる。主塔基数が減ったからと言って点検が容易になることは無い。逆に、太径のケーブルが多段に配置されることが点検をし難くする。
②景観性に優れる(主塔が1本であることにより、デザイン性が高い)
神戸港の玄関口に合った橋、つまり、ゲート性から考えると2主塔斜張橋が良いのではないか。これだけの規模とコスト(1主塔案は、イニシャルコストで1%高く、LCCでは1%安いという
試算はありえない)を掛けてまで冒険をするのか。
③不測の事態に対するリスクが相対的に最も小さい(断層上の堆積層にみられる地層の傾斜(とう曲)を避けた位置に主塔を配置)
1本塔柱を優位とする根拠にはなっていない。
(4)2橋に共通すること
六甲アイランド~ポートアイランド間、ポートアイランド~和田岬間、いずれの斜張橋においてもコスト意識が少しでも働いているのか、が疑問である。平成18年当時の「湾岸西伸部委員会・幹事会」では全体事業費を少しでも下げることこそが湾岸西伸部着工への近道、という委託者(当時の阪神国道)側の思いもあり、我々は海プロで検討した新技術も議論した。10数年の時を経て、事業化(ミッシングリンクの解消)の話が先行し、コストは二の次になってしまったように感じてしまう。阪神大震災を凌駕するような六甲淡路断層帯パート2の話題も当時はあった。大阪湾断層、未知の活断層(伏在断層)等がうごめく湾岸西伸部に夢ではあるが多くの難題・課題を抱えた長大連続斜張橋を建設する勇気が何故あるのか、不思議である。
(5)最後に
今回、「大阪湾岸西伸部斜張橋計画雑感」として好き勝手に思いを綴らせてもらった。20世紀
中盤から後半、本四架橋の代名詞「夢の架け橋」が神戸の地に再来しようとしている。20~30年、あるいはそれ以上の期間をかけ、建設省、国鉄、本四公団、学、産等で技術検討された「夢の架け橋」。これに対して、世界での実績はあるものの僅か数年の期間で「夢の多径間連続斜張橋」にトライしている。地震国という点ではギリシャのリオナンテリオン橋が教科書ではあるが、残された課題が本橋には多数あると考える。見切り発車にならないように十分に検討して頂きたい。
最後に、阪神高速で開発した高耐久性床版(UFC)を斜張橋の主桁に是非採用してもらいたいものだ。多々羅大橋の主桁では、鋼床版疲労対策としてディテールは改良した。多分問題無いであろう。しかし、湾岸西伸部の交通量や荷重(過積載等)は多々羅と比べものにならないほど多いし、大きい。これまでの知見を生かし、対策を打つべきところは打って欲しい。鋼管集成橋脚も同様である。アプローチ橋脚で是非採用してもらいたい。