2.4 牽引力
HEP工法はPCケーブルを先に土中に挿入しておき、これでエレメントを反対側から引き込む工法です。ジャッキのけん引力は2つのトンネルのうち短いトンネルでは牽引力の最大は2,590KN で、平均牽引力の最大で1,530KNでした。長いトンネルでは平均牽引力の最大で2,280KNでした。牽引力の最大とはエレメントを引き込むにつれて周面との摩擦が増加してくるので、最終の引き込み時での値となります。各トンネルのエレメントの代表的な牽引力の値を図-9、図-10に示します。
図-9 けん引力分布図(第1トンネルR14)
図-10 けん引力分布図(第2トンネルR7)
2.5 牽引速度
牽引速度は100mm/分で計画し、実績は50~180mm/分にばらつきました。
表-2に1エレメントの1日当たりの施工延長の実績の平均を示します。段取とは鏡切やマシンの組み込み、PC鋼線配置、反力設備などに要した時間です。けん引日数には支障物撤去などの時間を含んでいます。第2トンネルは埋め土の範囲で、玉石、丸太など障害物があり、その撤去のため時間がかかっています。支障物がない時に、24時間で32mの牽引の実績があります。
撤去日数は到達後の機械の引き抜きなどに要した時間です。第1トンネルは42mで、1エレメント6.4日で施工されています。第2トンネルは107mの延長を、支障物撤去の時間も含んで平均11.4日で施工されています。
表-2 各トンネルの1エレメントの施工実績(日/1エレメント)
2.6 施工精度
施工精度は施工延長の1/1000(約100mm)以内を目標としました。基準エレメントの施工精度の値を図に示します。エレメント先頭に方向修正用のそりを付けジャッキで方向制御をすることで、鉛直、水平とも目標以内の精度での施工ができました。
図-11 第1トンネル基準エレメント施工精度
図-12 第2トンネル基準エレメント施工精度
2.7 中埋めコンクリート
矩形のエレメントはコンクリートで充填されます。高流動コンクリートを用いています。その配合を表-3に示します。コンクリートはエレメント内を最大15mごとに隔壁を設け、隔壁上部には空気抜きおよび充填確認のためのパンチングメタルを設置しています。コンクリートは隔壁でくぎられた部屋ごとに、隣のエレメントより打設しました。
表-3 中埋めコンクリートの配合
2.8 閉合部
トンネルの閉合部はメッセル工法による底設導坑施工後、場所打ち鉄筋コンクリートで閉合しました。
2.9 トンネル掘削
メッセルによる底設導坑はストラットにてトンネルを仮閉合し、その後にトンネルの上半掘削を開始しました。コンクリートでの閉合が完了した時点で下半掘削を行ないました。
2.10 二次覆工
二次覆工は将来のメンテナンスができるだけ不要になるように配慮して、PICフォームを用いています。PICフォームは厚さ20㎜で、繊維補強コンクリート版にポリマー含侵処理した板であり、これを埋設型枠として用いました。鋼製エレメントとPICフォームの隙間には裏込めモルタルを充填しています。写真-7は完成時の様子です。
写真-7 トンネル完成状況
100mを超える土かぶりの浅いトンネルを、線路下を斜めに縦断して非開削で施工した事例を紹介しました。エレメントの中間に中押しのジャッキを組み合わせてさらに長い箇所への適用のための施工の試験も実施しています。
この工事は多くの人が難しいのでは、と心配しました。いろいろのプロジェクトで、やる前にできない理由を聞かされたことがあります。土木の分野では知恵を出せばほとんどできないことはないと思っています。この現場では鉄建建設の酒井喜市郎さんがずいぶん頑張ってくれました。この工事が比較的スムースに進んだのは酒井さんの頑張りが大きかったと思っています。大事なのはできない理由を考えるより、できるように知恵を出し合うことが大切です。
(次回は2021年12月1日に掲載予定です)
【参考文献】
1) 荒川栄佐夫ほか;臨海線第2広町トンネルの設計、施工、SED.No.20,JR東日本構造技術センター、2003.5
2)荒川栄佐夫ほか;第2広町トンネル(HEP&JES)の施工、東工技報Vol.15、2002.4