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㉕北九州空港連絡橋(その5) ~構造と景観~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.10.01

(5)北九州空港連絡橋での景観論

 1995年5月に福岡県に着任したことは以前書いたとおりである。6月に景観部門を担当して頂いている若手建築家と県庁内で打ち合わせをした。まだ、20代後半の建築家である。瀬戸大橋の櫃石島橋・岩黒島橋の兜型の橋脚のデザインも良く勉強されていた。図-1.1に瀬戸大橋島嶼部橋梁の景観の連続性や一体性を感じさせるための基本構造フォルム(フォルム;形状)を示す。つまり、形式が異なる橋梁であっても橋脚や塔に柱として力学的な普遍性を持つ形を共通の構造要素(共通フォルム)として用い、形状に統一性を持たせ、景観的に連続性を感じさせるように考えられている。図-1.1に示す基本構造フォルムは、榊、寺社、農家、頭巾、兜(かぶと)など、日本をイメージするものである。これをデザイン化したものが図-1.2に示す岩黒島橋4P橋脚である。<瀬戸大橋技術誌(本四公団)引用>


 この時点で凡その景観計画は出来ていた。景観デザインのスキームとして後にまとめられたので紹介する(図-2参照)。
 ①正面性(橋軸方向から見た時に印象的な橋)
 ②側面性(自然景観と調和)
 ③連続性(中央のアーチ橋と両サイドのアプローチ橋)
 ④シンボル性(空域条件や航路限界など限られた中で印象的なデザインを)
 ⑤アメニティ性(車両運転者だけでなく、歩行者の事も考えて) 
の5項目である。以下に検討した個別のデザインについて概略紹介する。なお、アーチリブの形状については既に紹介したので割愛する。

①アーチリブ吊材
 図-3.1に吊材比較案、写真-2にケーブル定着部を紹介する。アーチリブ吊材については、前号で紹介したようにケーブル(円形;断面小)を採用している。一般的には、鋼部材(矩形やH形;断面大)が採用されているが、走行車両の視界を遮る目障りな部材となっている。


②補剛桁断面形状
  図-3.2に補剛桁の断面形状を示す。なお、アプローチ部の連続箱桁断面形状も同様である。箱桁ウエブについては、傾斜ウエブとしている。鋼床版疲労損傷対策という観点から、車線中央にウエブを配置し、溶接不良が起きやすい傾斜ウエブとトラフリブ間には板リブを設置している。

③橋脚形状
  図-3.3に橋脚形状を示す。一般的な矩形形状の橋脚では重量感が大きすぎる。桁をシャー
プでスレンダーな形状としたことから、橋脚もシャープでスレンダーなものにした。その手法とし
て、1)90度の角度を用いない、2)面の数を多くする、こととした。

④橋上空間のデザイン
 橋上空間のデザインとしては、1)アーチリブ形状(前号紹介済み)、2)吊材の種類と形状、3)ポール照明と高欄照明、4)防護柵の形状、5)プラザ(休憩所)、6)アプローチ部の形状、等がある。ここでは、3)ポール照明と高欄照明、及び5)プラザ(休憩所)、について紹介する。

 1)ポール照明と高欄照明(ライン照明)
  北九州空港連絡橋は、関西国際空港連絡橋と同様に上部に空域制限が、中央のアーチ橋下部に航路が設定されている(図-3.4参照)。関空の場合、照明柱(高さ約10m)を海上中央部に設置した場合、空域制限を侵すことになる。このため、海上中央部付近にはライン照明を設置している。それでは、北九州空港はどうか?照明柱(H=10m)を設置しても空域制限には引っかからない。物理的にはポール照明を設置しても何ら問題が無いことになる。そこで、図-3.5に示すように各案を検討した。


 デザインで最重要視したのは、中央部のモノコードアーチ部である。つまり、センターポール照明案は、アーチの景観を阻害しているため不適とした。ポール照明+ライン照明案は、路面輝度不足となり不適であった。ポール照明案は、側面形状からアーチリブと輻輳する。ライン照明案は、路面上に何も出ないことから景観上は非常に優れているが、コスト面ではポール照明案に比較して大幅にコスト増となる。このため、折衷案として次の様に決定した。
 海上中央部(モノコードアーチ橋区間)→ライン照明(高欄内臓型照明)、両サイドアプローチ部→ポール照明。

 写真-3.1に高欄照明を、写真-3.2にポール照明を、図-3.6にポール照明構造図を示す。

2)プラザ(休憩所)
 北九州空港連絡橋の中央部に位置するモノコードアーチ橋。この部分にプラザ(休憩所)(図-3.7参照)を設け、アメニティ性を向上させることとした。プラザの支持構造は、補剛桁からブラケットを張り出し、桁との一体的デザインとしている。

 <裏話> 関空の設計係長時代、高欄照明は良いとは思わなかった。ポール照明に比べてLCCは必然的に高くなる。しかし、空域制限と航路制限のためにトラス桁高までも縮小し、なおかつ、高欄照明を選ばざるを得なかった関空連絡橋に対し、余裕のあった北九州空港連絡橋ではポール照明でも良かった。工費差は、数億円。一応、自分で比較案(LCCを含め)を作成し、事務的に県庁上層部を納得させた。あくまでも、私が居なくなった場合の会計検査対応含めてである。ある意味、総額525億円の予算の内、削減する部分、増額する部分(景観対応等)を一括管理をしていたから為せる術である。

(6)最後に
~北九州空港連絡橋の景観設計に貢献した建築家、松岡恭子氏~

 今回、構造と景観に関して記憶の範囲において記述した。福岡県に着任した当時(1995年度)と言えば、鋼道路橋の国内総発注量が約90万トンに達するような好景気であった。このため、地方自治体にも多くの斜張橋などの特殊橋梁が計画・建設された時期である。世界に目を向ければスペインの偉大な構造家であり建築家でもあるサンティアゴ・カラトラバ氏が様々な構造物(奇抜な建築物や橋梁)を世に出した時代でもある。舵取りを任された北九州空港連絡橋をどうするか。ただ単にA地点(空港)とB地点(福岡県苅田町)を結ぶだけのプロジェクト(橋)にはしたくなかった。福岡県(北九州)のシンボルとなる橋であること、空港(24時間空港)の玄関口にふさわしい橋であること、地域に愛され、根付くような橋であること。これが私の考えた空港連絡橋である。この実現に際して景観設計において大きく貢献して頂いた建築家を最後に紹介する。

 松岡恭子(㈱大央社長、㈱スピングラス・アーキテクツ社長)氏である。彼女は、九大建築学科を卒業後、都立大学院、コロンビア大学院を終了後、ニューヨークに建築設計事務所を開設。その後、ニューヨーク、台湾、福岡に事務所を展開。この時期に福岡県庁で出会った。それ以来、土木と建築のコラボレーションを最重要視することとなった。これまでの経験上、公共事業では景観側の主張を聞いているようで聞いていない。所謂、総合評価(構造性、製作・施工性、景観性、経済性)を行い、落としどころを探るわけだが難しい構造は造りたがらない。景観デザイナーもゴリ押しをしない。

 だが、松岡さんの取り組み方は違った。自分で手製の模型を製作して我々土木屋(橋屋)と打合せに臨む。どこが良くて、どこがダメなのか、を徹底的に議論した上で新しい構造の提案をされるし、我々も提案を行う。これだけの建築家(デザイナー)にこれまで出会ったことがない。北九州空港連絡橋における構造と景観(建築)のコラボレーションは、委員会の事務局を担当していた国府寺部長はじめ、㈱オリエンタルコンサルタンツ、㈱長大、㈱構造技術センター(今は無い)の技術陣と良い関係を作れたから可能になった。(次回は2021年11月1日に掲載予定です)

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