シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊺
「NATMトンネルの覆工コンクリートの新しい養生システムの開発」
横浜国立大学
大学院 都市イノベーション研究院
教授
細田 暁 氏
5.実構造物での養生の効果の確認
試験施工を行った実構造物において、養生による効果を計測しました。計測結果の詳細は、参考文献6)をご覧ください。表-1に示すように、従来システムで養生した15 Block、3mの延長を新システムで養生した16 Blockにおいて、養生による保温・保湿の効果や、コンクリートの緻密化の効果を調査しました。なお、調査期間中は、トンネルは掘削中であり貫通していませんでした。
No.15のブロックでは、打込みの翌日に材齢22時間で脱型し、従来から使用されている一般的な養生方法により材齢9日まで養生を行いました。この養生方法は、空気の入った厚さ数十cm程度の布製の膜を鋼フレーム製の架台により支持して、コンクリート壁面に押し当てるものです。
No.16のブロックでは、打込みの翌日に材齢22時間で脱型し、延長方向に3mの区間に小径バルーン構造による養生を材齢9日まで適用しました。また、同じNo.16ブロックの残りの部分は脱型後に養生を行わずに、養生による緻密化の効果を比較することしました。
図-7に示すように、天端部A、アーチ肩部B、S.L.付近のC、Dの箇所で計測を行いました。
表-2にコンクリートの配合を示しました。No.15、16のブロックの配合は共通であり、剥落対策用のPP短繊維が0.30vol%添加されています。
図8~10に、天端付近の箇所Aにおける、新システム、無養生、従来システムの部分の温度と湿度の計測結果を示しました。養生シートとコンクリートの間にセンサーを設置して計測しました。新システムの保温効果と90%程度以上の高湿度を保つ保湿効果が明確に確認されました。また、無養生部に見られるように、計測時期におけるトンネルでは相対湿度が60%前後と比較的低いことも分かりました。
図-11では、養生によるコンクリートの緻密化の効果が確認できます。棒グラフが表層透気係数(左軸)で、計測箇所の含水率(右軸)も合わせてプロットされています。どの箇所においても、新システムで養生した場合は、小さな透気係数を示し、養生によりコンクリートが緻密になっていることが確認されました。なお、箇所Dにのみ、透水性型枠が使用されており、養生の効果と合わせて、極めて小さな透気係数を示しました。
図-12には、表面吸水試験の結果も示しました。箇所Cでは、新システムによる養生により、無養生部と比べて明らかに小さな表面吸水速度(左軸)が確認されました。透水性型枠を使用した箇所Dでは、養生方法にかかわらず小さな表面吸水速度となりました。
養生シートがコンクリートに必ずしも密着していない新システムによる養生を行った結果、保温・保湿効果が確認され、コンクリートの緻密化の効果も表層透気試験と表面吸水試験により確認されました。
6.おわりに
大断面のトンネルで、新しい養生システムを架設し、養生の効果を確認することはできました。しかし、NATMトンネルの施工においては、養生システムの架設が簡易にかつ安全にできること、覆工コンクリートの打設のための移動式型枠であるセントルが移動するのを追いかける形で、養生システムの移動が容易にかつ安全にできることが必須の条件です。引き続き、実際の現場での技術開発を重ね、本施工で安心して使用していただける技術となるようにしたいと思います。
参考文献
1) 岩間 慧大,細田 暁:NATMトンネル覆工コンクリートの変状に関する点検データの分析,コンクリート工学年次論文集,Vol.38,No.2,pp.1501-1506,2016
2) 馬塲 崇史,細田 暁:トンネル覆工コンクリートの定期点検データの分析による品質確保の取組みの効果の検証,コンクリート構造物の補修,補強,アップグレード論文報告集,第29巻,pp.243-248,2020.10
3) 東北地方整備局:コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(トンネル覆工コンクリート編)2021年改訂版,2021.6
4) NEXCO総研:トンネル施工管理要領,2020.7
5) 岩間 慧大,細田 暁,小宮 隆之,宮田 和実:NATMトンネル覆工コンクリートのひび割れシミュレーションの施工・点検記録による検証,コンクリート工学年次論文集,Vol.40,No.1,pp.1221-1226,2018
6) 細田 暁,揖斐 剛,Raphael N. Uwazuruonye,八巻 大介:小径バルーン構造による養生システムを用いたトンネル覆工コンクリートの養生効果の調査,コンクリート工学年次論文集,Vol.43,No.1,pp.941-946,2021