道路構造物ジャーナルNET

③国総研における道路構造物の維持管理支援

筑波山の麓より

国土交通省
国土技術政策総合研究所
所長

木村 嘉富

公開日:2021.08.31

③道路ストックの総点検、法定点検制度の制定、定期点検に関する技術的助言の充実
 トンネル天井板の落下事故に対する委員会の調査が進められる一方で、2013年(平成25年)2月に、国土交通省は、全国の道路管理者に、道路ストックの総点検を行うことを要請しました。
 これは、トンネルに加えて、橋梁、舗装、道路附属物(標識、照明、情報提供装置、横断歩道橋等)、土工構造物(のり面、盛土、擁壁等)を対象に、道路利用者及び第三者の被害を防止する目的から、構造物本体やその附属物からの部材やコンクリート片等の落下、ポットホールや路面下空洞の陥没などの危険度を把握し、可能な限りの応急措置を実施するなど当面の被害防止措置を講じることを目的としたものです。


図-6 総点検の対象の例

 また同年には、道路法の改正を行うなかで、老朽化への適切な対応も含めた安全・安心の確保のため、予防保全の観点を踏まえた道路構造物の点検を行うべきことを明確化しました。これを受けて、関連政省令の改正も行い、政令にて、点検・診断・措置・記録というメンテナンスサイクルを実施することは管理者の義務であること、そして、省令にて、橋梁、トンネルなどでは知識と技能を有する者が近接目視による点検と健全性の診断を5年に1度実施するという定期点検を法定化しました。このことは、地方公共団体を含む全ての道路管理者に課せられた義務であり、「国土交通省社会資本メンテナンス元年」2013年(平成25年)を体現する改革でした。
 
 2014年(平成26年)6月には、トンネル、道路橋、シェッド・大型カルバート、横断歩道橋、門型標識等を対象にした定期点検の実施に関わる技術的助言(定期点検要領)が全道路管理者に通知されています。国総研では、これら一連の法改正や定期点検要領の策定において、全体の体系や主要部分の原案の策定を国土交通省本省とともに行うともに、土木研究所とも連携して、定期点検要領の原案を作成しました。また、これまでの直轄国道の定期点検要領についても見直し、横断歩道橋等いくつかの構造物については新たに策定しています。

 国土交通省では、2013年(平成25年)の道路法の改正以後、具体的な点検頻度や方法については法令で定められていないものの全国の道路管理者が道路のメンテナンスサイクルを確立するにあたっての点検要領の充実が図られ、2016年(平成28年)には舗装、2017年(平成29年)には小規模附属物とシェッド・大型カルバート以外の土工構造物を対象にした点検要領を策定しています。いずれの策定においても、国総研では原案の作成やそのために必要な研究成果の提供を行っています。そして、2019年(平成31年)3月には、トンネル、道路橋の法定点検2巡目に向けて点検要領を改定し、技術的な参考資料を充実させました。

(2)計画的な長寿命化を支えるための取組み
①道路橋の基礎データ収集要領策定
 アセットマネジメントについても、従来より一層研究内容の充実が図られ、その後の研究の大きな柱になっています。国土交通省は、2007年(平成19年)に、地方公共団体において計画的に道路橋の修繕が図られるように長寿命化計画策定の支援に着手しました。
 計画の策定のためには管理する道路橋の現状を速やかに把握するための方法が望まれます。そこで、国総研では、同年に「道路橋に関する基礎データ収集要領案」を提示しました。これは、個々の橋の安全性等は的確に管理されているはずである一方で、施設全体の経年数が増加していくなかで、各管理者が管理する施設全体の管理方針、計画を策定し、維持管理を進めることの重要性に応えるために、まずは最低限のデータを多くの橋でできるだけ早く把握することが必要であることから作成した技術資料です。
 直轄国道の道路橋の定期点検にてマネジメントの高度化の観点で収集していたデータ(損傷程度)を活用し、分析することで、データの取得項目を絞り込み等ができることが分かったので、それを反映して作成しています。多くの道路管理者に活用され、現在でも法定点検要領の付録において、法定行為に加えてアセットマネジメントのための基礎データを収集するために参考になることが紹介されています。

 2014年(平成26年)6月のトンネル、道路橋、シェッド・大型カルバート、横断歩道橋、門型標識等を対象にした定期点検の実施に関わる技術的助言(定期点検要領)の通知においても、個々の構造物毎にその構造物の特徴や損傷の原因も考慮しながら行う健全性の診断だけでなく、全国の構造物のマクロ的なマネジメント施策等を検討するための基礎データとなる損傷程度の評価等、客観情報の蓄積を開始することに主導的な役割を果たしています。

②日常管理や老朽化対策、耐災害性向上のためのマネジメントを高度化するためのデータの活用
 国総研では、いずれの点検要領の策定においても、既往の点検結果や損傷事例の分析結果から知見を提供するとともに、原案の提案を行っています。
 特に、舗装の点検要領の策定にあたっては、既往の路面性状調査データの分析等を通じ、道路分類に応じたメリハリのある効率的な点検の在り方や、「使用目標年数」という新たな概念の導入を通じて早期劣化区間を削減していく考え方などについて提案を行いました。さらに、早期劣化メカニズムに関する検討結果等もふまえ、舗装点検要領に基づき舗装のアセットマネジメントを確立していく指針を示した技術図書の発刊に貢献しました。
 また道路橋については、10年以上にわたり蓄積してきた直轄国道の基礎データを分析し、統計的劣化特性を明らかにすることで劣化曲線集を作成、その成果から道路橋の耐久性向上策を研究し、国総研資料としてまとめています。


図-8 点検データからの劣化特性の分析例

 一方、近年の豪雨による道路災害を受けて、道路の耐災害性を向上させるために、点検などのデータに基づいて効果的・効率的に性能の向上を図るための取り組みが求められるようになってきており、2020年(令和2年)からは、国土交通省の道路技術小委員会でもリスクアセスメントの議論が始まっています。

(3)道路管理者への人材育成と技術支援
 定期点検や措置は、個々の構造物の特性や変状の原因を反映させて工学的に判断するものであり、画一的な判断フローの策定などは却って危険、不合理になることも危惧されます。そのため、これらの適切な運用にあたっては、定期点検要領の充実だけでは不十分であり、関係者が適切な技術力を身に着けるための研修、資格制度や道路管理者への技術支援の体制を充実することなど多様な方策を組み合わせて実施することが必要です。
 そこで、国土交通省では、2013(平成25)年の道路法の改正に併せて、実務者研修や直轄診断などの新たな試みも始めています。実務者研修については、各地方整備局や関係団体と共同し、統一したテキストとカリキュラムで法令の適切な運用に必要な最低限の知識と技能を習得するための研修を開始しました。
 道路橋については、現在では知識習得の確認試験も実施しており、これらの一連の取り組みは、現在の定期点検要領においても、定期点検に必要な知識と技能の例として参考にできることが示されています。国総研でも、有識者の助言を受けながら公式テキストを作成し国総研資料として発刊、研修の実施主体である地方整備局への研修講師の派遣や試験問題の作成等の支援を継続して実施しています。

 直轄診断は、地方公共団体への支援として、要請により緊急的な対応が必要かつ高度な技術力を要する施設を対象に、地方整備局、国総研、土木研究所の職員等で構成する「道路メンテナンス技術集団」による調査や措置方針についての技術的な助言を行うものであり、2014(平成26)年の開始以来、毎年継続的に支援を行っています。2020年(令和2年)度までに橋梁・トンネル・大型シェッドについて計16構造物を対象に実施しました。


図-9 直轄診断の様子

表-1 直轄診断を実施した構造物一覧

(4)今後の展望
 道路の耐災害性の向上、データの高度な活用による点検やマネジメントの信頼性向上と効率化に向けて、現在の定期点検要領を核とした基準体系や道路管理実務体系の発展的な刷新が求められると考えられます。そのためには、設計~点検・診断~措置~記録までを一連で統一的かつ定量的な信頼性評価体系にしていくことが必要であり、信頼性の評価に関連付けて多様なデータの活用が図られるようにしていくことが主要な研究テーマになります。
 国土交通省が道路の老朽化対策に本格的に着手する中で、2014年(平成26年)4月、国総研では道路構造物研究部を発足させ、道路構造物の維持管理に関する技術基準類の策定や結果の分析、道路管理者への技術支援のための体制強化を行いました。
 技術基準類の策定においては、全国の定期点検結果や直轄国道の構造物を対象に収集した基礎データの分析等を行い、定期点検の信頼性向上や作業の省力化を図るための知見を提供するとともに、その結果も踏まえて点検要領等の改定原案の作成を行ってきました。このことは今後も国総研として担っていく重要な役割です。
 一方で、定期的な健全性の診断に加え、老朽化や耐災害性のマネジメントを連携させ、効率的に実施していくためには、日常のデータの効率的・効果的な取得と、デジタルトランスフォーメーションを活用したデータの分析と管理は不可欠です。国総研は、多様なデータ等を信頼性の評価に活用できる道路構造物管理システムを構築するための、構造物の設計・施工等の技術基準の性能規定化や信頼性評価の体系を既設構造物の安全性・耐久性の管理やリスクマネジメントに導入するための研究に着手しています。

 以上、国総研20年史のなかから、道路構造物の維持管理支援を紹介しました。他の46例についても研究・活動のアウトライン、主な研究成果、関連する報告書・技術資料一覧、今後の展望として記載しています。ご興味のあるものをご覧いただけましたら幸いです。改めて、国総研20年史のページです。
http://www.nilim.go.jp/lab/bbg/20nenshi/index_20years.htm

4.土木学会におけるインフラメンテナンス分野の表彰制度創設

 今回、国総研20年史の具体的な事例として道路構造物の維持管理支援を取り上げました。インフラメンテナンスは重要な事項であり、土木学会においてもインフラメンテナンス総合委員会が設けられ、実践的な取り組みが幅広く行われています。
 その活動の一環として、今年度、インフラメンテナンス分野の表彰制度が創設されています。具体的には次の4つの賞が設けられています。

インフラメンテナンス プロジェクト賞
・インフラメンテナンスにより地域のインフラの機能維持・向上に顕著な貢献をなし、地域社会の社会・経済・生活の改善に寄与したと認められるプロジェクト(マネジメント、ビジネスモデル、制度設計等に関連する総合的なプロジェクトを含む) ※プロジェクトの行われた時期は問わない

インフラメンテナンス チャレンジ賞
・点検・診断、設計、施工・マネジメント等の個別または組合せ技術を駆使し、地域のインフラメンテナンスに寄与した取り組み
・創意工夫によりインフラメンテナンスに対する管理者、市民等ステークホルダーの意識の向上が認められた取り組み(市民協働、人材育成等を含む)

インフラメンテナンス エキスパート賞、インフラメンテナンス マイスター賞
・独自の技能・技術を駆使することによりインフラメンテナンスの発展に貢献があった個人または団体
・長年にわたる事業実施、研究または技術開発等の活動を通してインフラメンテナンスの発展に貢献があった個人または団体

インフラメンテナンス 実践研究論文賞
・インフラメンテナンスに関する取り組み事例や実践例を対象とした論文を募集
・カテゴリーとして、担い手と体制、技術とプロジェクト、マネジメント
・学術論文に加え、実用性、実効性の面でメンテナンスの品質向上や効率化、社会的認知度の向上等に寄与する論文も歓迎

 これらの賞の選考の過程で特に表彰すべき事案については、インフラメンテナンス特別賞が授与される場合もあるとのことです。


図-10 土木学会インフラメンテナンス分野の表彰制度

 募集期間は、論文賞が9月30日、それ以外の賞が10月29日までとなっています。詳細は、次をご覧下さい。
https://committees.jsce.or.jp/maintesogo02/node/10

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