道路構造物ジャーナルNET

㉕既設高架橋を活用した上野-東京ラインの工事

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2021.09.01

 今回は、既設構造物を活用して新しい線路構造物を造った工事を紹介します。

1.上野-東京ラインの計画概要

 現在は東海道線が東京止まりでなく、東北線や高崎線、常磐線などまで直通運転されています。しばらく前までは、東海道線は東京止まりで、高崎線や東北線、常磐線は上野止まりでした。この東京と上野間の線路をつなげる工事を紹介します。
 東京駅から少し北側まで東海道線の線路は伸びていました。しかし、神田付近では線路も余分なスペースもなくなっています。かつてあったスペースは新幹線のために使われてしまいました。そこでこの神田付近で、用地を増やさないで線路を増やすためには、今走っている線路の上に新しい線路を造る必要が生じます。その位置として東北新幹線の高架橋の上に2階建ての高架橋を継ぎ足すことにしたのです。
 東北新幹線建設時に、将来の計画を見据えて、上に継ぎ足せるような配慮がされていました。ただし、当時とは耐震基準が異なり、そのままでは今の耐震基準を満たせないので補強が必要となります。また地元からの騒音対策など環境への要望から、当時想定していた線路の位置も、より民家から離れる位置に変えるようにもなりました。構造物も、環境面を配慮して、想定していた鋼桁は道路との交差部のみに限定し、PC桁を採用しています。
 図-1に上野-東京ライン(東北縦貫線と建設時は言っていたので、以下その用語を使います)の位置を示します。


図-1 東北縦貫線(上野-東京ライン);赤の破線

 図-2は、縦断図と横断図です。


図-2 東北縦貫線縦断図・横断図

 技術以外の話を紹介します。
 この上野-東京間は通勤通学時の混雑率が最も高い区間で、対策を望まれていた区間でした。このため、計画は何年も前から行われていましたが、全額JR東日本の自己資金でせざるを得ないこともあり、資金的な問題でなかなか進みませんでした。
 品川に車両基地があり、このプロジェクトの実施で東海道線を東京で折り返さずにすることで、車両基地を都心から離れた場所に移し、品川の車両基地を小さくして、その空いた土地を開発することでの利益で工事費を捻出することが考えられていました。その利益の範囲で工事費が収まるように、何度も検討を重ねていました。なんとか工事費をその範囲に収めると説明し、このプロジェクトは社内的に認められました。
 結果は、地元との協議で線路位置が動いたり、防音対策などで、計画時より工事費は増えてしまい、社長に予算を説明した幹部はあとから嘘をついたなと言われたようです。
 余裕がありすぎる予算では、いつまでもプロジェクトは動きません。また動き出したプロジェクトの予算がオーバーすると、その計画の関係者は責められることになります。プロジェクトを動かすには将来の利便に見合う予算に収めることが必要で、工事の実施段階では、予算内に収めるように技術力を発揮していくことが技術者の大きな役割です。技術力がないとどちらも管理できずに新たなプロジュエクトが生まれないことになります。必要なインフラ投資が実施できるように技術力を発揮してほしいと思っています。

2.既設構造物の補強1)

2.1 RC高架橋の改造、補強
 東京駅側のアプローチ部は、東海道線の引き上げ線で利用していた既存の高架橋を可能な限り利用しています。また神田付近は新幹線高架橋の上に、1層増やす構造となっています。既存高架橋も古い設計なので、現行の耐震基準を満たしていません。さらにレールレベルが既存のレールレベルより上がっていくため、必要な個所では既設高架橋上にさらに1層継ぎ足す構造としました。また基礎も補強が必要になります。既存高架橋を利用した高架橋の継ぎ足しと補強の状況を図-3-1・2に示します。


図3-1 既設RC高架橋の継ぎ足しと基礎の補強

図3-2 既設RC高架橋の継ぎ足しと基礎の補強(縦断面);斜線部が継ぎ足し部

(1)高架橋の継ぎ足しと補強
 既存高架橋は、既設の柱の外に軸方向鉄筋を配置して、曲げ補強を行い、鋼板で巻いてせん断と靭性補強しています。追加した軸方向鉄筋は、スラブを貫通させて、スラブの上の新しい上層の柱の主鉄筋としています。新設の柱上部の塑性ヒンジ区間には主筋に内接するスパイラル鋼材(内巻きスパイラル)が配置されています(図-4)。


図-4 既設高架橋の柱の補強と、上層への継ぎ足し

(2)基礎の補強
 高架橋の1層の増設と、耐震基準の変更に対応するために基礎の補強も必要となります。増し杭と基礎スラブを増築することで対処しています。水平力の増加に対しては新たな工法を開発して採用しました2)3)
 それは杭の新設と地表に土間コンクリートを施工する方法です(図-5)。土間コンクリートで柱からの水平力を受け、その水平力は新設の杭で受けることで、既設の杭への水平力を減らすことができます。それゆえ、既設フーチングをはつって鉄筋を出してフーチングを大きくし杭を増設する必要が、水平力の増加に対しては不要になる工法です。
 鉛直力が不足する場合は別途その対応が必要になりますが、多くの場合は水平力の増加で済んでいるので、この工法は有効です。今回は、1層の継ぎ足しが行われ、鉛直力も不足する箇所にはフーチングを大きくして杭の増設も併用しています。


図-5 土間コンによる水平力に対する基礎の補強

 余談ですが、この地表面にスラブを施工し、短い杭を施工して基礎を補強する工法を思いついたのは、地震での被害からです。新潟県中越地震で、上越新幹線の和奈津高架橋の柱がせん断損傷しました。事前の耐震診断では曲げ破壊先行となっていました。
 現地は地表付近の地盤が悪く、柱の高さは8mですが、4mは土に埋もれていました。その地表に細い杭を施工し、土間コンクリートのようなスラブを施工し、機械設備を置いていました。この土間コンクリートが柱の中間を拘束したため、短い柱として挙動してせん断先行損傷となったのです(写真-1)。
 この状況から地表面にスラブを施工し、短い杭を施工することで水平力を負担させることができ、既設の基礎の負担を減らすことができると思いました。この現象を実験などで確認し、設計に導入したのです4)


写真-1 土間コンに拘束された柱のせん断損傷

2.2 新幹線鋼ラーメンの補強と継ぎ足し
 新幹線の高架橋は鋼のラーメン構造です。柱は中空の角型の鋼製柱です。建設時点の技術基準が改定され、設計時より入力地震が大きくなってしまったので耐震性能を上げることが必要になりました。
 この柱の耐震性能を向上させるために、柱内にスパイラル鉄筋を何本か周辺に配置し、コンクリートを打設する方法を考えました。スパイラル鉄筋の数を変えたりしながら実験を行い、変形性能を大きくでき、耐震性を満足できる構造を見出し採用しています(図-6)。


図-6 既設鋼ラーメン橋脚のスパイラル鉄筋とコンクリート充填による補強

 図-7はコンクリートを詰めただけの場合と、スパイラル鉄筋の本数を変えてコンクリートを詰めた場合の、交番載荷試験の結果を示しています。スパイラル鉄筋を入れることで、変形性能が大きく向上することがわかります。角型鋼管の溶接部が切れてそこからコンクリートが粉砕されて飛び出して耐荷力を失ってくるのですが、スパイラル鉄筋とその内部のコンクリートは健全で圧縮力を負担し続けるので耐荷力を維持し続けるのです。


図-7 交番載荷試験での荷重変位曲線

 写真-2は、鋼管柱内にスパイラル鉄筋を配置している状況です。
 なぜこのような工法としたかというと、鋼管柱の外から補強できれば構造的には簡単なのですが、この場所は神田駅付近で新幹線の高架下は各種利用されており、高架下の鋼管柱の周囲に近づくことも困難だったからです。鋼管の柱内には新幹線の軌道面のスラブから入ることができたことで、柱の中から補強する工法を開発したのです。


写真-2 鋼管柱内にスパイラル鉄筋を配置している状況

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