3.国総研20年史
本年4月に国総研が満20歳となったのを契機に、その間のあゆみについて「国総研20年史」としてとりまとめ、HPに掲載しました。
http://www.nilim.go.jp/lab/bbg/20nenshi/index_20years.htm
図-3 国総研20年史の表紙/図-4 国総研20周年ロゴマーク
国総研は前述したように、その使命を果たすための根幹となる活動として4つの活動を行っています。20年史ではこのうち国土交通政策の企画・立案、普及を支える研究開発を中心にとりまとめました。
国土交通政策を支える研究開発としては、①直面する重要な政策展開を支える技術基準・手法を体系的に提示して社会実装を通じて継続的に改良するとともに、②将来的な対応が想定される課題に対しても政策の方向性を提案してきています。
次の表は、20年史でとりあげた47の研究について、出来事とともに年表形式でとりまとめたものです。自然災害や事故を契機として取り組んだ研究のみならず、技術の進展も含め社会的変化を先取りした研究も行ってきたことが読み取れます。
図-5 国土技術政策を支える研究開発(拡大してご覧ください)
20年史のとりまとめにあたっては、国総研の使命である「安全・安心で活力と魅力ある国土と社会」に立ち戻り、時代を超えて変わらない本質として「強」「用」「美」を設定しました。これは、古代ローマの建築家ウィトルウィウスが、建築の三大要素として示したものを参考としています。
以下、道路構造物に関連する研究も含め、一部の概要を紹介します。
強:国土を強靱化し、国民のいのちと暮らしをまもる研究
激甚化・頻発化する災害からいのちと暮らしをまもる国土強靱化のための研究は、国総研発足時からの最重要課題といえます。土木研究所時代より各構造物の耐震性向上のための取り組みを進めており、国総研発足後も地震により顕在化した事象に対して新たな研究課題を設定し、進めてきました。例えば、津波に対しては、2004年スマトラ沖地震を契機として海岸堤防に作用する波力や津波浸水シミュレーション手法の研究を行っており、2011年の東日本大震災を契機として行われた総合的な津波対策における粘り強い海岸堤防・津波防災地域づくりの実施につながっています。
道路構造物に関しては、緊急輸送道路の橋梁耐震補強3箇年プログラムの推進支援、震災に対しての道路橋示方書の改定、制震ダンパーに関する取り組み、液状化等の地盤変状への対応、インフラ施設を対象とした強震観測、地震発生直後の情報空白期における道路被災情報の充実、災害対策検討支援ツールキットの開発・活用等を進めてきました。また、2016年の熊本地震に対しては、翌年、国総研として初めて現地に研究室を設置し、復興事業への技術支援や事業を通じた研究開発も実施しています。
社会資本の老朽化に対して、発足当初から直轄管理橋梁の定期点検、下水道管路劣化推計等に取り組んでいました。2012年の笹子トンネル天井板崩落事故を契機として2013年は国土交通省社会資本メンテナンス元年とされ、国総研でも道路構造物研究部を設置し法定点検や人材育成など各種の取り組みを行っています。
用:社会の生産性と成長力を高める研究
社会資本自体が社会の生産性と成長力を高める基本であり、基礎となるデータの取得やそれに基づく計画手法に取り組んできました。また、新技術の開発・活用のための研究として、下水道分野におけるB-DASHプロジェクトや道路構造物の技術基準類の性能規定化を進めています。
図-6 道路構造物の技術基準の性能規定化の経緯と現状及び今後の課題
国総研では、ネットワーク機能など道路の性能やそのサービス水準に応じて各構造物の性能を調和させ、それに対して具体性のある照査基準が示されるようにするため、性能規定化に基づく技術基準類の策定・改定に取り組んでいます。
上の図に示すように、性能規定化された基準は要求性能・適合みなし規定・検証方法等で構成されます。橋・土工・トンネルと道路構造本体を構成する構造物の種類により基準の整備状況には違いがあり、それぞれの整備状況に応じて更なる改定の検討を進めています。また、舗装については2001(平成13)年に仕様規定から性能規定への転換がなされましたが、引き続き技術基準類の策定・改定に取り組み、進展を図っているところです。
建設現場の生産性向上として情報化施工やBIM/CIMの活用を進めてきており、昨年度には国総研内にDX推進本部を設けて取り組みを加速化させています。本連載でも、機会を見て紹介します。
調達については、民間技術力を活用するための多様な入札契約方式の導入支援についても取り組んでおり、近年の大規模災害からの早期復旧に活用されています。
美:快適で安心な暮らしを支える研究
「強」による安全の確保、「用」による活力ある社会とともに、快適さや安心が不可欠です。「美」は羊が丸々と太った姿とされており、美しいというよりは望ましい姿、あってほしい姿といえます。
美に関しては、環境との調和のみならず、まちづくりも含めて各分野で幅広く取り組んでいます。道路に関しては、歩道のバリアフリー化、生活道路・幹線道路の交通安全対策の研究を進めてきました。
20年史ではここで紹介した研究開発の他、研究活動で培った高度で総合的な技術力を駆使した現場への貢献や、人材育成や広報等研究を支える環境整備についても紹介しています。
なお、国総研の20年間の活動については、土木技術資料7月号でも特集されていますので、ご一読いただけましたら幸いです。
図-7 土木技術資料令和3年7月号の表紙
発足後20年を経て、人間であれば成人となった国総研です。その使命を果たすために、関係者と連携して引き続き取り組んで参りますので、ご協力をお願いします。
(次回は8月末に掲載予定です)