<景観上の課題>
・H形断面やボックス断面にすれば、アーチリブを単弦(モノコード)にし、景観上スッキリとさせた効果がゼロになる。
・走行車両にとっては吊材が壁となって見える。
・既往の吊材は、添接部の発錆や腐食、一般部の塗装劣化により非常に見苦しくなっている。
写真-2にしまなみ海道「大三島橋」を示す。2弦のソリッドリブアーチ橋で、吊材にはケーブルを採用している。2弦のアーチリブは大ボックスの矩形断面であり、アーチの横構の存在がより一層圧迫感を与えている。
写真-2 大三島橋(アーチリブと吊材)
大三島橋は、大三島と伯方島間の花栗瀬戸に架かるアーチ橋で直角方向からの景観は私自身気に入っている橋の一つである。しかし、太いアーチリブにより安心感はあるものの、その遮蔽感は半端ではない。一方、吊材(ケーブル)は視線を遮らないことから開放感を与えている。お分かり頂けたろうか。本橋では、大三島橋の教訓を生かしたのである。
<設計上および構造上>
設計目標に掲げた「主部材(つまり、アーチリブと吊材)は、想定地震時には弾性設計とする」を満足するためにさまざまな検討を行った。
1)アーチリブ面内・面外の有効座屈長は、吊材の剛性によって変わってくる。表-1に線形座屈解析によって求めた概略検討時の有効座屈長を示す。ケーブルにした場合、面内で約3倍、面外で1.18倍有効座屈長が伸びることになる。
表-1 アーチリブ有効座屈長の比較
2)アーチリブ面外有効座屈長は、アーチリブ自身の面外剛性と吊材の面外剛性によって面外座屈に抵抗している。面外方向の有効座屈長は、吊材の剛度を多少変化させても、大きく変わらないことが分かっていた(計算結果では1.18倍)。また、許容応力度レベルでは数%程度の差である。
3)面外有効座屈長に拘り(経済的な設計?)、面外剛性を上げた場合、想定地震時(直角方向)には弾性範囲を大きく超える断面力が発生することが分かった。
4)結局、想定地震以上の大規模地震時にはどうなっているか。アーチリブと吊材結合部には塑性ヒンジが発生。地震後には大規模な修復が必要になる。それならば、当初からアーチリブと吊材はヒンジ結合で良い。
<結論>
「吊材をケーブルにする」ことで、アーチリブの設計は多少不経済となる。しかし、それを上回るメリットがあると当時は考えた。例えば、
・力の伝達を明確に、かつ、シンプルにできる。
・アーチリブの存在感が際立つ。
・景観を阻害する連続する壁がなくなる。
・将来の維持管理は楽になる(私は思うと確信している)。
・吊材の主要な役目(補剛桁を吊り上げ、アーチリブに軸力として流す)を果たす。
⑤アーチリブの断面形状(図-5参照)
アーチリブの断面形状は、景観側からの要望もあり四角形断面から六角形断面に漸次変化するようにしている。視覚の錯覚を利用したものだが、運転手や歩行者は図-5の青〇の点を認識することになる。アーチリブの上方に進むにつれて視覚に入るウエブ面の寸法は短くなる。このため、アーチリブが天頂に進むにつれて細くなる錯覚(イメージ)が植えつけられることとなる。
図-5 アーチリブの断面形状(四角形→六角形)
⑥アーチリブの維持管理
鋼製アーチリブの維持管理といえば、将来的な塗替え塗装である。古今東西、アーチリブには多くの見苦しい吊りピースや兼用付加物が設置されている。写真-3に事例を示す。
写真-3 維持管理用ピースの事例
北九州空港連絡橋では、図-6に示すように吊りピースを隠す配慮を行った
図-6 アーチリブ形状と吊ピースの目隠し
⑦三次元的に断面形状が変化するアーチリブの製作
三次元的に断面形状が変化するアーチリブの製作性に関しては、当時の構造部会(部会長;九大彦坂教授)の諸先生達から疑問を投げかけられていた。私自身、「何も問題がない」と説明したが、実物を見て頂くのが一番良かろうと判断し、現場視察を実施した。
1995年の初夏、博多山笠の前日(当時の鮮明な記憶)、構造部会のメンバーのお一人であった元熊本大学 学長の﨑元先生(当時は教授)を現場にお連れした。愛知県豊田市内を流れる矢作川に架けられた「豊田大橋」である(写真-4参照)。この橋は、日本を代表する建築家、黒川紀章氏がデザインされた「恐竜の骨をモチーフにした橋」である。アーチリブの断面形状は、三次元的に変化する非常に奇抜なデザインである。やりすぎの感は否めないが、豊田スタジアム(黒川紀章チーム;デザイン)とセットでの景観設計であり、致し方ないのかとは思う。現地視察後、大阪府堺市にあるY社の製作工場に立ち寄り、工場を視察した。私が一番信頼している会社であり、工場でもある。先生にも十分に納得して頂いた。
写真-4 豊田大橋(1996年完成、バスケットハンドル型ニールセン橋)
(9)最後に
「鋼中路式単弦ローゼ橋」に橋種決定して以降、「技術の進歩をどう表現するか」、「将来にわたって福岡県の維持管理上のお荷物にしないためには」、「九州の玄関に相応しい橋梁とは」という3点を意識しながら各種検討を行った。
例えば、技術の進歩は吊材のケーブル化である。また、維持管理面では「ボルトから全溶接化」である。玄関に相応しい橋梁では「景観に重きを置いた橋梁設計」である。
技術の進歩の表現方法については、一例として「しまなみ海道の新尾道大橋(支間長215m)」が挙げられる。旧尾道大橋と同じ中央支間長を有する斜張橋。旧橋は、二面吊りに対して新橋では一面吊りを採用した。短い支間長でも新しい構造的工夫で技術の進歩は表現できるのである。
維持管理面については、ボルト添接から全溶接の採用である。これについては次回報告する予定である。
九州の玄関に相応しい橋梁については、福岡県苅田町に九州工場を置く某自動車会社のCMが流れている。嬉しい限りである。私の愛読書、十津川警部シリーズのテレビ化で空港連絡橋が登場もしている。
最近の話である。「空港連絡橋の物真似をされ、角さんが怒っているのでは」と尊敬するH先生(九大名誉教授)からメールが届いた。怒るどころか、物真似をされるくらいの橋梁を計画したのだから私は満足である。コンサルタントの設計者は知人でもあり、いろいろな相談を受けていたのは事実である。参考にその橋を写真-5に示す。
写真-5 有明海沿岸道路のバランスドアーチ橋(工事中) 出典;有明海沿岸国道事務所HPより
この橋は、支間長は短いが構造は空港連絡橋と……。バランスドアーチ橋であり、アーチコードは単弦から復弦に変化している。正面形状は人型に。吊材はケーブルを使用している。補剛桁は箱桁を採用。
北九州空港連絡橋は、オール補助事業である。技術委員会には行政側の委員として建設省(国交省)の錚錚たる顔ぶれが参加されていた。その委員会で認められたからこそ、有明海沿岸道路で採用されたと私は理解したいのだが。
次回は、風洞試験等について紹介する。
(次回は2021年9月1日に掲載予定です)