はじめに
第一大戸川橋梁が、2021(令和3)年5月21日に開催された国の文化審議会の答申を受け、官報告示を経て、国の重要文化財に指定されることとなりましたので、この橋梁について今回は紹介します。
写真-1 第一大戸川橋梁
私もワクチンの2回接種を終えました。大手町の大規模会場での接種です。1度目は軽い副反応でした。2度目は翌日に少し熱が出て、頭痛、全身がだるい症状で、我慢できず痛み止めを飲みました。3日目にはほぼ頭痛、だるさはなくなりました。2回接種が済んだので気持ち的には安心感があります。早く皆のワクチンが終わり、自粛ムードがなくなることを期待しています。
オリンピックが多くの会場では無観客ということで実施されています。自粛の中で観客を入れるのは非難する人が多いと思いますが、観客なしでの競技は寂しいですね。ワクチン2回接種の終えた人の観戦を認めるなどしてもよいのではないかと感じています。医療体制が逼迫という話が、いつまでたっても改善されないのは不思議ですね。
1.鉄道橋梁のPC技術への取り組み
第一大戸川橋梁は、1954(昭和29)年に国鉄信楽線(現在は信楽高原鉄道)雲井‐信楽間に造られた最初の本格的なPC鉄道橋です。場所は滋賀県甲賀市信楽町勅旨にあります。現在の信楽高原鉄道の駅では勅旨―玉桂寺前間にあり、玉桂寺前駅より徒歩約3分の箇所にあります。
我が国の鉄道橋梁のプレストレストコンクリート(PC)技術への取り組みは、国鉄構造物設計事務所(構設)の前身である鉄道省鉄道技術研究所第2部において、1943(昭和18)年ごろからのプレテンション桁の実験から始まります。
1938(昭和13)年に、仁杉巌博士は国鉄に入社し、この技術研究所第2部に配属されています。すぐに軍に召集されましたが、1943(昭和18)年に研究所に戻っています。このころ、吉田徳次郎博士が研究所の顧問をされ、その指導の下に仁杉博士がプレテンション桁の試験を担当しています。1m程度の桁を44本造っては壊したとのことです。その後、猪俣俊二博士が研究を引き継いでいます。PC桁の研究の目的は、当時高価だった鋼材を減らすため、鋼材の少ない構造を開発することであったとのことを仁杉博士から直接うかがったことがあります。
プレテンション方式は枕木に実用化されて、各地に枕木の製造工場が造られました。
ポストテンション方式では1952、53(昭和27、28)年のスパン10mの東京駅構内の6、7番線のホーム桁(写真-2)に128本の単純I型桁が使われました。
その後の東北新幹線、北陸新幹線の東京駅の工事ですべて撤去されています。撤去に当たり、供用22年後と、35年後に材料試験と静的破壊試験が行われています1)2)。耐荷力面で問題なく、特にグラウトは完全な形でシース内に充填されていたことが報告されています。東京駅構内のホーム桁は、猪俣博士や菅原操博士が採用に当たり実物破壊試験の指導や設計など深くかかわっています。
写真-2 東京駅のホーム桁(撤去時)
1953(昭和28)年にスパン4.9mの大阪駅の軌道の扛上桁が最初のポストテンション方式の鉄道橋として造られました。
大阪駅は地盤沈下とともに高架橋が沈下しており、ホームと軌道を扛上する必要が生じ、扛上用の桁としてPC桁も採用されています。このPC桁のコンクリートの配合はスランプ0で、水セメント比30%と記されています。コンクリート強度は500kgf/cm2となっています。設計は国鉄特殊設計室が担当しています。桁の制作はピー・エス・コンクリート株式会社が担当しています。
2.スパン30mの本格的な橋梁として設計された第一大戸川橋梁
仁杉博士が大阪工事事務所の次長の時代に、信楽線の大戸川にかかっていたスパン10mの鋼桁3連が大雨による増水で流されました。その復旧にPC桁を採用することを決めたのが仁杉博士です。
基本設計は、フランス人技師コバニコ氏(極東鋼弦コンクリート振興株式会社(FKK))が行い、吉田徳次郎博士の指導を仰ぎながら、国鉄の特殊設計室長、友永和夫博士を中心に、大阪工事事務所にて、最終設計が行われました。コバニコ氏はフランスのSTUP社からFKKに派遣された技術者で、当時30代になったばかりとのことですが、この初期の我が国の道路や鉄道の多くのPC構造物の設計、施工の指導に当たっています。
フレシネー工法は1952(昭和27)年に、鉄道省への入社が仁杉博士より3年先輩の藤田亀太郎氏が日本に導入し、FKKを設立しています。この第一大戸川橋梁にはフレシネー工法が使われました。それまで使われていたマグネル方式の定着工法に比べて一度に12本のPC鋼線が緊張、定着できるので作業能率が向上しました。
第一大戸川橋梁は、それまでの短いスパンの橋梁でのポストテンション方式での実績から一気にスパン30mの本格的な橋梁として設計されました。コンクリート強度は450kgf/cm2で、桁高/スパンは1/23となっています(図-1)。前年に初めて4.9mスパンの大阪駅の軌道桁をポステン方式で施工した翌年の施工です。
図-1 主桁と支承
支承構造はフランスで用いられていたコンクリートロッカーシューが用いられました(写真-3、写真-4)。コンクリートは、水セメント比36%、スランプ3㎝、C=450kg/m3です。
コンクリートの打ち込み順序は、試験の結果、第1層を上突縁下端まで、第2層を上突縁部分とし、締固めは、底打ちバイブレーターおよび側打ちバイブレーターの型枠バイブレーターによったと記されています。グラウトはフライアッシュ混入W/C+F=48%です3)。
写真-3 コンクリートロッカーシュー(固定)/写真-4 コンクリートロッカーシュー(可動)