(2)変状の総括
当社がこの2年間で携わった小規模吊橋5橋の変状を大まかにまとめたものが表-1です。
表-1 小規模吊橋の部材ごとの変状
(3)他橋に共通する注意点
筆者がこれまで見てきた小規模吊橋に共通する注意点を箇条書きにします。
①主ケーブル(主索)は、ロープ種別をはっきりさせた上で非破壊検査により健全性の評価をする必要があります。非破壊検査手法では、特に全磁束法が有効です。
②ハンガー(吊索)は、床版や桁の腐食等の損傷(死荷重の変動)により張力が過剰に入ったり、抜けたりしています。丸鋼を使用している場合、塑性変形を伴う損傷や横桁取り付け部付近での損傷が目立ちます。また、ケーブルバンド部(バンドが無い場合もあります)で滑りを起こしているケースもあります。
③耐風索・耐風支索は、その機能が発揮されていないケースが結構見られます。耐風索と支索の結合部で滑りが発生しているケースが目立ちます。
④鋼製主桁は、自動車荷重(1台程度)が考慮されている場合、疲労き裂が発生しているケースが見られます。詳細な調査が必要です。
⑤ハンガー(吊索)で吊られる横桁は、非常に重要な部材です。しかし、不均等荷重や雨水等の滞水により腐食しやすくなっています。ディテールが重要です。
⑥小規模の単径間吊橋では、ケーブルからの押し込み力が弱い為、主塔上でのスリップ防止の為、抑え金物が設置されています。この腐食がかなり発生しています。
⑦無補剛吊橋では変形を抑えるため耐風索・支索が大きく寄与しています。耐風索・支索にも十分な目配りが必要です。
⑧小規模吊橋の変状は、各部材の個別の変状とそれらが関連して全体形状の異常になって現れます。完成図等が無い場合は、現状の形状データを取得しておくことは重要です。
3.近畿地整での新たな取組み~技術相談会~
各府県道路メンテナンス会議の「自治体管理施設を対象とした技術相談会」制度を活用し、近畿道路メンテナンスセンターでは、地公体への支援を行っています(図-1参照)。
図-1 技術相談会の仕組み -記者発表資料よりー
4.技術相談会に参加して
昨年の12月、(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部からの推薦を受けて、「技術相談会」に参加させて頂きました。今後、特殊橋梁等でお悩みの地公体の皆さんや支援をされるコンサルタント、ゼネコン、メーカー、ファブリケーターの方々の参考になればと考え時系列的に作業内容を示します。
(1)作業の時系列
1)地公体から近畿地整・近畿道路メンテナンスセンターへ相談
2)建設コンサルタント協会に依頼し、相談相手として㈱日本インシークが選定(有資格技術者;角技師長)
3)技術相談会迄の具体的な仕事
①地公体: 技術相談内容の提示、各種資料(設計図面、点検資料等)の提示
②近畿道路メンテナンスセンター: 地公体と有資格技術者との調整
③有資格技術者: 現地踏査、相談内容に関するコメント作成、(技術提案書作成)
4)技術相談会の開催
ズーム会議により、相談内容に関する回答(資料説明)とディスカッションの実施
(2)今回の相談内容
健全度がⅢ判定とされた吊橋(写真-11参照)であること、補修設計の実績を有するコンサルタントが市内に1社しかないこと、市内には吊橋が2橋のみで補修実績が乏しいこと、などから小規模吊橋の補修方法について以下の相談を受けました。
・ケーブルの防錆方法
・ケーブル補修時の足場とその設置方法や荷重の考え方
・ケーブルの交換方法(将来)
・床版、主桁の取替方法と作業用足場や荷重制限
・木製床版を採用する場合の防腐処理
・木材に替る腐食しない材料
・鋼部材塗装時の最適な足場と設置方法や荷重制限
写真-11 対象橋梁(単径間無補剛吊橋)
(3)振り返って
私は「技術相談会」という枠組みがあるのを初めて知りました。この「技術相談会」の持つ意味は非常に大きいと考えます。何故か。日本全国、至る所に半世紀以上の長きにわたって供用された吊橋が数多く存在します。その多くが予算の関係で手つかずの状態です。法令改正で5年に一度の定期点検が2巡目に入りましたが、優先順位からするとどうでしょうか。
これまで、特殊橋梁を含めて管理者(発注者)が設計コンサルタント等に業務を丸投げする機会は非常に多かったのではないでしょうか。ところが、この仕組みに則れば、管理者が技術的な疑問(悩み)と考えている内容を実績のある有資格技術者に直接聞くことが出来るわけです。管理者は、今後の補修設計や補修工事の内容について、正々堂々と聞けるわけです。
今後もこの有益な取組みを全面的にバックアップする次第です。併せて、特殊橋梁等の維持管理について悩みをお持ちの管理者の皆さん、気軽に相談されたらいかがでしょうか。