1.はじめに
株式会社日本インシークでは、2年前より市町村等で管理されている小規模吊橋を含めた特殊橋梁の維持管理支援をスタートさせました。初年度が小規模吊橋3橋の調査診断業務の提案と実施、2年目は調査診断後の補修設計と新たな小規模吊橋2橋の調査診断並びに補修設計です(現場を巡る「和歌山県白浜町 人道吊橋3橋を詳細調査」参照)。新たに景勝地に架設された斜張橋1橋(歩道橋)の詳細調査診断並びに損傷ブーツの取替工事を行いました。さらに、小規模吊橋1橋の技術相談を受けました。
本文では、過年度に実施した小規模吊橋の詳細調査結果から判明した特徴的な損傷を紹介するとともに、近畿道路メンテナンスセンターが実施している「技術相談会」という画期的な取組みに参加しましたので紹介します。
2.建設後60年以上を経過した小規模吊橋
(1)代表的な変状の紹介
小規模吊橋の上部工(主塔・ケーブル・桁)に発生している代表的な損傷を個別に紹介します。下部工(橋台・橋脚)については、比較的損傷が少ないことから今回は省きます。
①主塔
写真-1 主塔の損傷状況(和歌山)
写真-1は和歌山県の小規模吊橋の事例です。鋼製主塔については、状態が良く、発錆が見られる程度です。RC主塔については、ラーメン隅角部に鉄筋腐食が見られる程度です。建設当時は川砂を使用したものと考えられ、内在塩分も問題ないレベルです。また、自然条件から中性化も進行していません。写真-2は奈良県の小規模吊橋の事例です。和歌山県と同様に鋼製主塔には発錆が見られるものの状態は良いと考えられます。
写真-2 主塔の損傷状況(奈良)
②吊構造部
1)主ケーブル
写真-3 主ケーブルの損傷状況(和歌山)
写真-3は和歌山県の小規模吊橋の事例です。A橋については海岸部からの距離が比較的離れている等の条件からケーブル自体は健全です。B橋については、A橋、C橋との中間的な距離にあり、比較的健全です。C橋については、交換レベルの損傷度です。写真-4は奈良県の小規模吊橋の事例です。山間部の標高1,200mの位置に建設された吊橋です。冬期の積雪や梅雨時期の雨の影響は受けますが、非常に良い状態です。
写真-4 主ケーブルの損傷状況(奈良)
2)ハンガー
写真-5 ハンガーの損傷状況(和歌山)
写真-5は和歌山県の小規模吊橋の事例です。大部分が丸鋼タイプの吊材です。一般部は腐食、長さ調整(張力)用のねじ部分等からの破断及び多数のハンガーが塑性変形を起こしており、必要な張力が入っていません。写真-6は奈良県の小規模吊橋の事例です。この吊橋ではワイヤーロープが使用されていますが、全数が腐食、断線、塑性変形を起こしています。
写真-6 ハンガーの損傷状況(奈良)
3)桁等
写真-7 桁等の損傷状況(和歌山)
写真-7は和歌山県の小規模吊橋の事例です。横桁(鋼製)の腐食と断面欠損、ハンガー接合部の損傷、木製桁の腐食損傷が発生しています。写真-8は奈良県の小規模吊橋の事例です。この吊橋では大雨時に流下した流木が桁に衝突し、桁自体が塑性変形したり、長年の繰り返し荷重載荷により桁の添接ボルトが脱落しています。
写真-8 桁等の損傷状況(奈良)
4)耐風索・支索等
写真-9 耐風索・支索の損傷状況(和歌山)
写真-9は和歌山県の小規模吊橋の事例です。耐風索・支索は、無補剛吊橋では横荷重(風荷重等)のみに抵抗するのではなく、鉛直方向の死荷重増(剛性付与)の効果も与えています。しかしながら、腐食や破断が発生しても放置されているのが現状です。写真-10は奈良県の小規模吊橋の事例です。この吊橋では大雨時に流下した流木が桁に衝突し、桁自体が塑性変形したり、その影響で耐風索や支索に張力抜けや変形が生じています。
写真-10 耐風索・支索の損傷状況(奈良)