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㉒北九州空港連絡橋(その2)

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.07.01

(6)技術職員のレベルアップ

 ビッグプロジェクトを効率的・効果的に進めるためには、何が必要か。技術論文を読むのも確か
に重要ではあるが、実物を見て、成り立ち等について議論をすることも重要と考えている。そこで、本四長大橋の視察、県内・外の橋梁の視察を積極的に行った。併せて、大学の先生方やコンサルタント実務者にも現場を見てもらい、県職員を含めた技術論議を頻繁に行った。1995年~1997年当時、九州地方で視察に行った現場の一例を以下に示す。
 ①佐賀県(呼子大橋)  ②長崎県(西海橋・平戸大橋)  ③熊本県(通潤橋・内大臣橋・天草パールライン・牛深ハイヤ大橋) ④沖縄県(泊大橋・阿嘉大橋・名護?橋(鋼管矢板打設現場)
 当時の写真が残っていたので下写真に示す。

(7)従来の技術委員会と空港連絡橋委員会との違い

 第21回の連載記事でも述べたが、従来型の技術委員会(分科会)と空港連絡橋委員会(分科会)の違いはズバリ産官学一体となった調査・設計・施工検討を行う委員会(分科会)であること。一例として、地盤・基礎工分科会での「基礎の設計」に関する調査・設計の考え方を図-2に示す。
  手法と福岡県手法の大きな違いは、コスト(検討費用は高いが、工事費は安価)と情報量(多い)と実務作業量(多い)と満足度(高い)と信頼性(高い)の違い、である。コスト・実務作業で言えば、地盤調査量の増や原位置載荷試験(土質試験であり杭の載荷試験)の増及び試設計の増である。信頼性で言えば、鋼管杭の支持力機構を解明したこと(安全率の引き下げ等に寄与)、砂・粘土の互層地盤の周面摩擦力の評価法を確立出来たこと、である。(この項 ※参考資料:新北九州空港連絡橋設計・ 施工委員会 報告書)

(8)基礎形式の選定

 空港連絡橋の基礎形式選定経緯を以下に示す。なお、地盤の支持力算定式等については、第11回に記載済みであるのでここでは省略する。

①地盤状況
  架橋地点の地盤状況は、上部から沖積層(粘性土)、上部洪積層(粘性土と砂質土の互層)及び下部洪積層(上部洪積層と同様)、その下に基盤岩となる三郡変成岩類が分布している。道示で定義されている支持層となりうる(砂質土でN値30以上、粘性土でN値20以上)地盤は、TP-30m以深に存在する下部洪積層である。

②基礎形式の検討
 基礎形式は、一般的に用いられる6形式(図-4参照)から、海上部の施工であること(船舶が使用出来るメリット)、牡蠣や海苔の区画漁業権が設定されている海域が隣接(周辺環境に配慮する)していること、等を考慮し、適用可能な4形式に絞り比較検討した。

 1)鋼管矢板井筒基礎(仮締切り兼用型)
 2)ニューマチックケーソン基礎(鋼殻吊込み式)
 3)鋼管杭(鋼殻フーチング式)
 4)場所打ち杭(築島・締切り式)

 最終的には、上部工を鋼モノコード式バランスドアーチ橋及びPCエクストラドーズド橋にした
場合の試設計を実施し、施工性・経済性において格段に優れる「鋼管矢板井筒基礎(仮締切り
兼用型)」を選定した(表-1参照)。

③基礎形式の最終決定に当たって
  1995年夏、基礎工形式を最終決定するわけだが、兵庫県南部地震時の西宮大橋の下部工被災を受けて私自身悩んでいた(第11号参照)。西宮大橋で採用された鋼管矢板井筒基礎は果たして健全なのか。特に、継手部(ジャンクション)に損傷が出ているのか、出ていないのか、出ていても軽微か、重篤か。私自身が橋脚の損傷を目の当たりにしている以上、これらが不明確の中での鋼管矢板井筒基礎の採用・不採用の判断は難しかった。

 

 幸いなことに兵庫県港湾課の方で委員会を立ち上げ、基礎の被災調査を積極的に為されたことが有りがたかった。鋼管矢板井筒基礎においても二重締切りを行い、締め切り内をドライアップ後、堆積したヘドロを除去し、杭体、頂版及び継ぎ手管等の損傷の有無について徹底的に調査が為された(図-5参照)。当時の鋼管杭協会の西澤課長に案内して頂き、実際に損傷の有無を確認出来たのは幸運であった。

【基礎の健全性調査結果と空港連絡橋の基礎決定】
 西宮大橋の基礎の健全性調査を行った結果、ジャンクション部、頂版コンクリート部・結合部及び鋼管矢板本体は、鋼材の一部に腐食が見られる程度でほぼ健全であることが確認できた。この場における目視確認結果を受け、空港連絡橋の基礎形式は、「鋼管矢板井筒基礎(仮締切り兼用型)」に最終決定した。(この項 ※参考資料:新北九州空港連絡橋設計・ 施工委員会 報告書)

(8)北九州空港の現状

 北九州空港は、近隣の福岡空港(福岡県)、山口宇部空港(山口県)及び大分空港の3空港と各空港圏域境界部の旅客を奪い合うことになる。余程の利便性・効率性が発揮されなければ存続は厳しいものとなる。参考として、「北九州空港利用促進連絡会」から公表された資料を表-2に示す。これは、2018年の住所別での東京路線の空港選択結果である。

 表-2の実績では、北九州市や中間市の利用客の約1/4が福岡空港に流れている。逆に、中津市(68%)や下関市(31%)では北九州空港が取り込んでいる。何とか空港圏域の旅客は確保しているようである。ただ、空港の利便性を考えると利用客を確保・維持するのは大変である。近隣の3空港に負けないためには、アクセスの確実性(時間)・重要性と24時間離発着可能という北九州空港独自のメリットの強調が特に重要である。1995年当時、有料道路事業を取りやめ、オール補助事業に方針転換したのは大正解だったと思う。仮に、片道徴収で通行料金1回300円であったとしたらどうなっていたことか。
 話は変わるが、関空連絡橋の事業費は約1,500億円。往復6車線の道路とJR/南海(2線)の道路・鉄道併用橋である。関空会社の設計係長時代、道路と鉄道のアロケ(費用配分)も担当した。本四と同様に55(道路):45(鉄道)の比率で建設費を鉄道事業者(JR西日本と南海)から頂いている。道路費用については、通行料金から返済していくことになるが、採算が非常に厳しく既にNEXCO西日本に移管された。どうしても1プロジェクトで採算をとるのは難しい。そこに来て、空港関連となるとなおさらである。航空需要の予測は難しい。だからこそ建設事業費を抑えることが特に重要である。

(9)最後に

 昨今、これはというビッグプロジェクトが極端に減ってきた。近場で言えば、「阪神高速道路5号湾岸線西伸部」くらいか。事業化は不透明ではあるが「第二関門橋」などがそれに次ぐプロジェクトではある。ビッグプロジェクトには多くの人財や予算が投入される。当然のことながらビッグプロジェクトによる誘発効果も期待している。中には誘発効果が表れず一過性で終わったビッグプロジェクトもかなりあるように思う(一過性とは、作っただけでその後の色々な誘発効果が皆無だったものをいう)。インフラ(例えば、道路構造物)整備は、造るだけでは道半ばである。インフラを利用してもらって、維持管理をしっかり行って、より小さいLCCで長持ちさせることが出来たならば国民から評価をされ、及第点をもらえるだろう。

 空港整備事業はどうか。福岡県に着任した頃は九州国際空港(玄海灘沖や佐賀空港拡張とか色々案があった)が7空整(第7次空港整備計画)に付記されるかどうか、が県庁内でも一部のオタクで話題になっていた(結局、玄海灘沖も記載されず)。当時、1県1空港などと叫ばれていた時代である。福岡県には、福岡空港と北九州空港(建設中)があった。さらに、九州国際空港(玄海灘沖)の要望である。アクセスは、都心から地下鉄延伸(JRや)するとか言う。20世紀後半、福岡空港は既に飽和状態で拡張も難しい状態であった。それでも玄界灘にもう一本空港が欲しいと言う。本当に必要か。これが航空行政です、と言う役人が居た。将来の責任を取らない高貴な方達だ。その一方で、高速道路や整備新幹線の必要性を論ずる者が居る。日本列島改造論が知らぬ間に着実に進んでいることを皆さんはどう思いますか。道路インフラに関与する者としての立場では嬉しいのだが。

 最後に。ビッグプロジェクトに限らず、私達は何かを後世に残す必要がある。例えば、道路然り、空港然り、空港連絡橋然り、である。作品は勿論である。言いたいのは、貴重な現場経験を積んだ技術者と建設の記録である。「現場力」、つまり現場経験を豊富に積んだ技術者を少しでも増やすことが重要である。将来同じような場面・局面に遭遇することがあるかもしれない。その時に過去の経験に裏打ちされた柔軟な発想や対応、判断が出来るような部下を育てられたか。我々年長者には部下を指導する任務がある。当時の自分では出来ていたのか?はっきりと答えは「ノー」である。自分で調整・仕事をする方が格段に速い、から自分で何でもやった。今から思えば、これでは「ダメ」である。どうすれば良かったのか、重要な課題であり、いつも過去を思い起こしながら悩んでいる。(次回は2021年8月1日に掲載予定です)

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