1.はじめに
橋長200m以下で幅員も一車線を越えない吊橋、所謂、小規模吊橋は全国に約1,300橋以上現存しています。「小規模吊橋指針(以下「吊橋指針」という)・同解説(昭和59年4月・(社) 日本道路協会)」
㈱日本インシークでは、市町村等で管理されている小規模吊橋の維持管理を支援することを目的として、「小規模吊橋健全度評価システム」を開発しました。このシステムを活用することにより、これまで外観目視(や近接目視)により「補修」や「架け換え」の判断をしていた小規模吊橋に対して、具体的な数値を示した上で主ケーブルの健全度を評価し、その後の対策を提案することを可能としました。以下には「小規模吊橋健全度評価システム」の概要を紹介します。
2.本システムの特徴
図-1に本システムの特徴を示します。参考に、従来手法との比較も示します。
次に、各項目について紹介します。
(1)主ケーブルの詳細調査
小規模吊橋の場合、主ケーブルにはワイヤーロープ(より線)が一般的に採用されています。吊橋指針では、主ケーブルには構造用ロープと呼ばれるストランドロープ(麻芯ロープは除外)やスパイラルロープ(ロックドコイルロープを含む)が推奨されています。しかし、昭和30年代の小規模吊橋の主ケーブルには、索道のワイヤーロープが転用されていたこともあります。
主ケーブルの近接目視点検では、鋼線表面の錆・腐食・断線に基づく定性的な評価がこれまで主として行われています。本システムでは、全磁束法による非破壊検査(図-2参照)により、ワイヤーロープ内部までの損傷状態を定量的に評価できます。全磁束法とは、ロープ内を通る磁束(全磁束)の大小で腐食の程度を測定するものです。この全磁束法には、「ソレノイド式」と「永久磁石式」がありますが、一般的には、AC100V及び200Vの電源を使用するソレノイド式を採用します。ソレノイド式及び永久磁石式の測定状況写真を写真-1に示します。
(2)主ケーブルの健全度評価
全磁束法で求めた断面積減少率から引張強度低下率を求めます。図-3に断面積減少率と引張強度低下率の関係を示します。このグラフは、数種類のロープを強制的に電解質腐食させた後にロープの引張強度試験を行い、グラフにプロットしたものです。
求めた断面積減少率から引張強度低下率を求め、ケーブルの残存耐力を算出します。
(3)補修や架替の提案
ケーブルの残存耐力から予寿命を推定し、最適な対応策を提案します。
(4)費用
点検~詳細調査~補修設計まで一気通貫で実施することによりコスト縮減が可能です。
3.システム構成
図-4に示す3つの手法を組み合わせることで小規模吊橋の健全度を評価します。一つ目は、3Dレーザー測量で基本吊橋形状を作成します。二つ目は、復元設計をするための部材寸法等のデータを取得します。三つ目は、主ケーブル詳細調査で2つの要素技術から構成されます。その一つは、復元設計の精度向上のための張力測定であり、もう一つは、全磁束法による非破壊検査の実施です。それぞれについて以下に要点を説明します。
(1)調査・計測
①3Dレーザー測量
当社が得意とする3Dレーザー測量技術により、点群データを取得するとともに既設吊橋の
基本形状を作成します。これにより、完成図等が残っていない吊橋の復元設計を行います。ま
た、施工計画作成や将来の維持管理用の「BIM/CIMモデル」も作成します。
②構成部材の復元
部材毎の損傷状況把握や復元設計等に必要となる部材断面等の詳細調査を行います。高所作業車、橋梁点検車等の機械設備や人力での調査が不可能である場合、また、足場等の仮設備に多大な費用を要す場合は、アプローチ手法として「特殊高所技術」を使用して必要な部材データ等を取得します。
③主ケーブル詳細調査
「全磁束法」(東京製綱㈱、東京製綱テクノス㈱)による非破壊検査を行います。全磁束法は、国交省の性能カタログ、非破壊検査技術(橋りょう)に示されたもので、ソレノイド式全磁束法と永久磁石式全磁束法があります(前掲のとおり)。山間部の様に人力でのアプローチに限られる場合は、電源を必要としない永久磁石式全磁束法を適用します。
また、端末がソケット定着の場合、「加振法」によるケーブル張力測定が可能です。計算上の死荷重張力と実測張力を比較し、様々な検討が可能となります。
(2)診断・設計
(1)の情報を基に、ケーブル健全度の評価、吊構造部等に関する耐荷性能の評価を行います。主ケーブルの予寿命が限られている場合は、必要に応じて架け替え検討を行います。
(3)成果品
復元設計図、補修設計図、架替設計図、主ケーブル健全度評価等が成果品となります。
4.ケーブル健全度評価について
これまで関わってきたケーブル(吊材含む)の外観を写真-2に示します。ロープ種別、環境条件、使用条件等によって損傷は様々です。
(1)外観からの損傷評価について
外観目視からケーブル損傷度を評価するのは非常に難しいと言えます。
写真-2.1は、海塩粒子が飛び交う大鳴門橋のハンガーロープ定着部です。点検時に確認可能なのは左側のソケット、シムに囲まれた一面のみです。このため、詳細点検時では、張力開放の後、ロープの撤去、工場に持ち帰り非破壊検査(全磁束法)、ロープの破断試験を実施して損傷度のチェックを実施します。このロープで引張強度低下率は10~15%程度です。写真-2.2はどちらかと言えば海岸線に近い人道吊橋のケーブルです。3橋とも建設後約60年経過していますが、海岸線からの距離が近い(距離;A橋>B橋>C橋)ほど劣化は顕著です。ロープ構成の違い(A橋;7×7、B・C橋;7×19)や日射量等の違いでも劣化の差がでます。写真-2.3は内陸部の人道吊橋のケーブルです。ロープは、ストランドロープ(6×24、麻芯)です。この橋も建設後約60年が経過しています。A橋については、全磁束法(永久磁石式)による非破壊検査を実施済みで断面積減少はほとんど見られませんでした。
(2)非破壊検査(全磁束法)による損傷の定量的評価の意義
ケーブルの劣化現象は、架橋環境、ケーブル種別、素線防食法(亜鉛メッキの有無)、使用状態(活荷重)、等により千差万別です。ただ単に発錆(や腐食)状況により健全度判定を行うことは当然の事ながら危険です。今までの経験からすれば、吊橋の最重要部材である主ケーブルは、しっかりと非破壊検査(全磁束法)を行い、定量的な健全度評価を実施しておくことが肝要であると考えます。
5.最後に
㈱日本インシークでは、「小規模吊橋健全度評価システム」を策定し、地公体の支援を積極的に実施する所存です。簡単なリーフレット(下部参照)も作成していますのでご要望の際は連絡をお待ちしています。