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-分かっていますか?何が問題なのか-
第58回 鈴木俊男さんから学んだこと ‐突桁式吊補剛桁橋にチャレンジした恐ろしい胆力は何か‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.06.01

3.2 構造実験
 構造実験は、突桁式吊補剛桁橋の各部構造のうち、特徴ともいえ、検討が必要な補剛始点部の構造詳細を決定する目的で行っている。
 当該箇所は、一般的に応力集中や二次応力の問題が存在することは周知の事実である。清州橋の桁端部格点構造詳細も同様であったが、応力集中を避け、応力の流れをスムーズにするように処理するのが基本である。
 そこで、応力分布状態を把握する目的で光弾性模型による第三次(基礎的)実験と定量的解析を行うための大型鋼製模型による第四次(詳細)実験を行っている。第一に光弾性模型による第三次実験について説明する。

(1)第三次実験(光弾性法)
 構造物内部の応力状態を調べる方法としては、実験的手法の『光弾性法』と数値的手法である『有限要素法(Finite Element Method:FEM)』がある。
 初期の有限要素法は、変分原理に基づく物理的近似として扱われ、適用範囲も限られると理解されていた。しかし、研究が進むにつれて、物理的のほうが、近似を行う際に容易となり、有限要素法による構造解析が主流となっていった。しかし当時は、まだ『有限要素法』による構造解析の実例が少なかったこともあり、『光弾性法』が選択されたようである。
『光弾性法』を知る人が少ないと思われるので、少しだけ知識を持つ私がその概要を述べる。透明で均一な物質であるガラスやポリマー(プラスチック)に力を加えると複屈折現象を起こす。複屈折性を用いて構造物内の応力状態を求める実験法が『光弾性法』である。
『光弾性法』には、二次元モデル内の応力を求める『透過光弾性法』、三次元モデル内の応力を求める『応力凍結法』、『光散乱光弾性法』、『光弾性CT法』、構造物の表面に光弾性皮膜を貼り付けて応力を求める『光弾性皮膜法』などがある。『透過光弾性法』、『応力凍結法』、『光散乱光弾性法』では可視光が利用される。ここで用いられた実験において使われた偏光器は、等色線縞(主応力差)を求める円偏光器および等傾線縞(主応力方向)を求める平面偏光器が使われている。
『光弾性法』の『応力凍結法』とは、ポリマーで作成した三次元モデルを、転移域以上まで加熱して想定している作用荷重をかけ、負荷したままで二次転移域より下の常温まで冷却する。そうすると、二次結合の分子鎖配向が、温度降下による二次結合の安定化によってそのまま凍結され、負荷を除いても分子鎖の配向は戻らず保持する。常温まで降下させた三次元モデルをスライスし、各スライス中に凍結された分子鎖の配向を応力複屈折によって計測することで三次元応力分布を求めることができる。
 近年は、『光弾性法』を使って構造解析を行う事例は、橋梁に場合はほとんどない。
 鈴木俊男さんが行った第三次実験について説明する。突桁式吊補剛桁橋において、吊引張部材と補剛桁の格点は、理論上ヒンジと仮定されるが、実際は、第一吊材も含めた部分まで剛結と考えられる。そこで、図-24に示すように剛結となる補剛始点部分について、取付け部分の内側隅角部曲率rおよび偏心量eを変えた光弾性模型3体を製作し、光弾性法の実験を行っている。


図-24 光弾性模型一般図

 光弾性実験の結果を示す。図-25および図-26の上側が等色線の一部、図-25の下側は、偏光板の回転角を10°おきに変化させて記録した等傾線図、図-26の下側は、等色線の縞次数より求めた縁応力の分布図である。


図-25 等色線写真及び等傾線図:A2 -Ⅲ/図-26 等色線写真及び等傾線図:CⅢ、A2-Ⅰ

 光弾性実験によって、応力ピークの発生場所や二次応力の大きさについて把握できる。しかし、光弾性実験によって得られた結果をもって、構造物の応力分布状態を定量的に解析することは、実橋と模型の構造的な差異やポリマー加工技術上等の問題から困難である。
 私は、『光弾性法』による構造解析は応力集中部の確認や応力の流れを把握するのは容易ではあるが、先に示す有限要素法や差分法ほど精度は高くないと判断している。それではなぜ、『光弾性法』にこだわったかである。
 鈴木俊男さんの考えとしては、『光弾性法』によって応力を見える化し、次の第四次実験におけるひずみゲージの張り方や作用荷重を決定する目的で行ったと考える。
 現在行われている『光弾性法』の実験・解析は、先に示すアナログ的な手法からデジタル手法へ移行し、構造解析にも適用範囲が広がったと聞いている。私の知る限りだが、昭和後期以降、『光弾性法』による橋梁の構造解析はほとんど行われていない。次に、『光弾性法』による実験で得られた結果を基に行った、定量的な構造解析、現在も行っている構造実験、第四次実験について説明する。

(2)第四次実験(詳細実験)
 第四次実験は、実橋の約1/3.5の鋼製模型桁を製作し、載荷試験を行っている。模型の各部接合は溶接、桁と吊引張部材の取付け部および第2吊引張部材の連結は、連結構造の相違による応力状態の変化を比較検討する目的で、ピン連結または高力ボルトによる剛結合の2種類を行っている。
 また、実橋と同様な応力状態を再現させるために、補剛桁の両端からそれぞれ1mの2点に同一の大きさの荷重を作用させ、補剛桁に一様な曲げモーメントを、また吊引張部材を斜め軸方向に引っ張って軸引張力を発生させる載荷装置としている。第四次模型と載荷装置概要を図-27に示す。


図-27 第四次実験模型(一般図、載荷装置概要)

 第四次実験によって明らかとなったポイントは以下である。第四次実験から得られた知見の説明も、先の説明と同様に数値は省略する。
 ①補剛始点部における吊引張部材と補剛桁の連結は、第一吊材をも含めて剛結構造としてよい。しかし剛結する場合は、吊引張部材と補剛桁が交わる部分の内側隅角部には、半径が少なくとも吊引張部材の高さに等しい大きさの丸みが必要である。
 ②吊引張部材と補剛桁および第2吊材の格点部取付けまでを含む部分の連結を剛結合とすると、補剛始点隅角部付け根から第2吊材取り付け部までを含めた部分の引張部材には、かなりの二次応力が発生する。
 ③最初の吊材(第2吊材)の上下端はヒンジ結合とし、曲げモーメントの作用しない構造とする必要がある。二次応力は吊材長が短いために発生すると考えられることから、吊材長が長くなる他の吊材では、ヒンジ構造とする必要はない。
 以上が、構造実験によって明らかとなった結論である。これまでの説明で構造関係の実験がどのように行われたか、また突桁式吊補剛桁橋の構造特性が理解できたと考える。
 さて、次の風洞実験であるが、タコマ橋の落橋以降、数多くの吊構造系橋梁等で風洞実験が行われている。葛西橋が荒川河口部に架橋されるにしても、鈴木俊男さんが橋長300m弱、柱高さ15m程度で風洞実験を行いたい気持ちは、突桁式吊補剛桁橋の規模を大きくした場合、特に、風の強い海上部等に架橋する厳しい条件を意識して行ったと私は考える。

3.3 風洞実験
 一般的に橋梁の風洞実験は、空気力学的安定性、橋体が風によって振動が起る風速、限界風速を求めるために行うものである。限界風速が、局地的にも気象上条件からも生ずる風速よりも大きければ振動は発生しないと判断するが、小さい時は風に対する耐風対策が必要となる。ここで行われた、風洞実験の目的は下記である。
 突桁式吊補剛桁橋は、定着桁部分を吊補剛部材によって補剛する新たな型式のゲルバー桁橋であるが、中央径間が比較的大きく、また吊橋的な形態を有するにも関わらず主桁が充腹構造である。
 また、長径間吊橋と比較して、突桁式吊補剛桁橋は不適当な断面形状を有することから、風力による振動性状並びに上横構の有無、吊材の形状などの影響を求めるため必要がある。以上の理由から風洞実験を行う必要性があると判断している。
 風洞実験において重要な模型は、アクリライト樹脂を使用し縮尺1/50の模型製作し、吹出口断面が1.2×8.0mである長尺構造物用大型低速風洞を使った風洞実験を行っている。
 肝心な風洞性能は、ファンが3台(30kw)、最高風速12m/sで、迎角+5°、0°、-5°の3通り、風速は最大11.9m/sで行った。解像度が悪くて申し訳ないが、図-28に風洞実験状況を示す。


図-28 風洞実験状況

 鈴木俊男さん肝いりの風洞実験を行って、得られた結果を以下に示す。なお、説明は要点のみとする。
 ①突桁式吊補剛桁橋は、風による不安定振動の発生に対しては安全である。しかし、海上高所に架設する場合は、長径間吊橋と同様な対策が必要と考える。
 ②上横構を設ける必要はない。
 ③架設時に、定着桁のみを架設し、床版を設けない状態であっても耐風性能は十分ある。
 当初、私が説明したように、葛西橋の架橋条件や規模から判断した風に対する対策は必要がないと判断したが、得られた結論は同様であった。以上が、突桁式吊補剛桁橋の実橋使用に際し、行った第一次実験から、第二次、第三次、第四次、そして風洞実験で得られた知見である。
 今回は、私の判断で鈴木俊男さんが行なった実験内容や実験によって得られた知見等について説明したが、計測数値は省いている。読者等の中で、数値が必要と思われる方は、当シリーズの責任者である井手迫氏に連絡して頂ければ、私のほうからデータを提供させていただく。
 しかし今思うと、これだけの数多い実験を行った鈴木俊男さんの真意、得られた知見に対する評価などを、鈴木俊男さん本人に直接聞いておけば良かったと後悔している。それでは、今回の締めに移るとしよう。

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