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-分かっていますか?何が問題なのか-
第58回 鈴木俊男さんから学んだこと ‐突桁式吊補剛桁橋にチャレンジした恐ろしい胆力は何か‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2021.06.01

3.鈴木俊男さんのチャレンジ精神、胆力はどこから

 私の尊敬する鈴木俊男さんの連載も今回が最終章となる。今回は、鈴木俊男さんが葛西橋の架橋にあたって行った力学実験、構造実験および風洞実験について、私感を含め説明する。
 今回紹介する実験内容は、鈴木俊男さんが土木技術に『突桁式吊補剛桁橋について』の表題で4回にわたって連載した論説研究を基に、自分なりに紐解き記述した。私が参考にした論説研究は、鈴木俊男さんが東京都建設局道路建設本部計画課長職時代の執筆である。
 鈴木さん曰く、突桁式吊補剛桁橋に関する種々な実験は、突桁式吊補剛桁橋の正式採用(荒川河口に架かる葛西橋)が決まったことから、設計の基本的資料を得るために行ったと述べている。一般的に、鈴木俊男さんが並外れた専門技術者としての卓越した能力があることを周囲が認めたとしても、一技術者の望みを叶えるほど、当時の地方自治体・東京都に余裕があったとは思えない。その厚き壁を超えて、これだけ多くの実験を行ったことは、驚愕に値する。
 今大量の交通を捌く葛西橋を見て、構造詳細を調べ、設計図書を読み、関係者に当時のことを聞くと、そこには鈴木俊男さんの専門技術者としてのプライドと負けん気が存在する。
 現代に置き換えて考えても、未知の構造型式の設計・施工や載荷時や風による挙動を確認する目的で、これから説明する種々な実験を行えるかというと、それは不可能に近い。それも、国の組織ではなく、単なる地方自治体・東京都が進めたことが感動的である。鈴木俊男さんを快く思わない、反対勢力は数多くいたであろうし、予算要求資料に対し難題を振りかける同僚、上司もいたであろう。
 ここで実験費について、どの程度となるか算定してみる。近年の事例で、規模約580m、主径間260mの新構造型式の道路橋設計・施工に必要と判断し、風洞実験や振動実験等を行った実例によると、約1億円(事業費の1%)を要している。
 一方、突桁式吊補剛桁橋(葛西橋)は、橋梁規模281.4m、主径間142.0m、総事業費27.5億円である。実験費用に関係する資料がないので、私が先に示した事例を参考に算出してみた。
 総事業費の1%が実験費と仮定すると、突桁式吊補剛桁橋の実験費用は、約2,753万円となる。現在の貨幣価値等(再調達価格を算出した)で再度算出すると、突桁式吊補剛桁橋の同様な実験を現在行うと、約1.3億円である。
 ここで、当時の新設道路橋の事業費を調べて比較してみた。1964年(昭和39年)完成の道路橋、①鋼単純桁橋(橋長16.0m×幅員33.7m)は総事業費46,522,696円、②PCT桁橋(橋長14.4m×幅員4.5m)は総事業費11,019,427円、以上が橋長15m程度の調査結果である。
 新構造型式・突桁式吊補剛桁橋に必要と判断した実験費用を、将来の技術向上に必要な投資として安いと判断するか、高いと判断するかである。確かに新構造型式にトライアルするために必要と判断した実験費としては、非常に高額と私は考える。
 しかし、当の鈴木俊男さんは、種々な実験が必要不可欠と『ハガネ』のような強い意志を持ち、反対勢力を押しのけたのであろう。その後、鈴木俊男さんは、国の担当組織である建設省や学の頂点である東京大学の支援を受ける体制づくりを行い、自らが必要と判断した実験すべてを完ぺきに実行している。数多くの難題を処理し、自らの理想を実現した鈴木俊男さんに対し、私は末端の技術者として脅威を感じると同時に、自らも学ぶべき技術者魂を感じる。それでは、お待ちかねの話題、話のスタートとなる力学実験から話を始めよう。

3.1 力学実験
 新設橋梁における力学実験とは、実橋の特性を確実に再現する程度の縮小模型を用いて、想定している荷重条件下において再現模型がどのように挙動するかを計測し、新たな知見を得ることや想定していた数値(たわみ、ひずみなど)となるかを確認するために行うものと理解している。
 力学実験によって得られた結果は、模型における載荷条件を含む境界条件などの違いによって、仮定計算結果と実験結果には差異が生じることは必ずあり、なぜ差異が発生したのかを分析することが必要である。結果分析によって、納得する結論が得られない場合は、再現模型に関する再検討や載荷内容を変えるなどして、再度実験を行うことが力学実験には必要と考える。
 すべての実験に共通することではあるが、計測の精度、真値と計測結果の差異である誤差が必ずある。この誤差は、偏りを原因とする系統誤差、ばらつきを原因とする偶然誤差、計測値の読み間違いや計測の誤った使用等によるミスによる誤差の3種類がある。
 実験においては、測定値が正確であり、ばらつきが小さい等精度の良い計測を行うことを求められ、目的に適合した測定項目を必要な精度の範囲内で計測することが重要である。ここまで私の知り得る知識の範囲で力学実験等における注意事項を説明したが、さて、鈴木俊男さんの実験はどのように進めたか説明しよう。

 突桁式吊補剛桁橋の力学実験は、力学的諸性質の概要を確認する目的で行う、第一次実験(基礎実験)と、鈴木俊男さんが考えた突桁式吊補剛桁橋の理論式の妥当性と振動性状を確認する目的で行った第二次実験(詳細実験)の2段階で行っている。図-22に静的実験を行った第一次模型を示す。


図-22 第一次模型一般図

 模型は、1主桁(片側のみ)で製作、補剛桁は長方形(10×15mm)の鋼棒、吊引張部材は真鍮板(E=1.0×106kg/cm2)、吊材は綿糸を使っている。直線部材の各格点は、ヒンジ結合させ、理論式を誘導時の仮定と一致させている。また、柱高さの影響を調べるために、柱高さhを2種類、20.0cm(h/l2=1/3.75)と15.0cm(h/l2=1/5)の計測を行っている。
 作用荷重は、集中荷重を桁の各格点にP=0.68、1.36、2.72の3種類を順次載荷している。
 第二次実験は、第一次実験に使用する模型よりも精度の高い実橋を1/58.3縮尺した全径間模型を製作し、載荷試験と振動実験を行っている。第二次実験に使用した模型を図-23に示す。


図-23 第二次模型一般図

 補剛桁は、真鍮製の2主桁を木材で連結し、支点はすべてピン構造、柱基部の中間支点は固定、端支点は可動と実橋と条件を合わせ、負反力による浮き上がり対策を行い、実験を行っている。実験における必要箇所の計測は、応力は電気抵抗線ひずみ計、桁のたわみは、ダイヤル・ゲージによって測定する、常道であった。
 これまで説明した実験によって得られた結果について、計測値は省略し、結論のみを私が重要と判断したポイントを絞って紹介する。
 力学実験の結論は、①突桁式吊補剛桁橋は、充分な耐荷力と曲げ剛性を有している。②鈴木俊男さんの誘導した弾性理論による応力計算法は、実用上問題のない精度を有し、安全側である。③吊補剛の効果は、定着部よりも突桁部において顕著である。④補剛桁に対し、吊引張材を偏心させて連結する効果は明確であり、設計上も有利となっている。⑤水平力Hおよびたわみの大きさは、柱高さhが減少すると増大し、柱高さの影響が明らかとなった。⑥補剛桁の剛性は、吊引張部材の断面積の小さいほど減少することから、吊引張部材に引張強度の大なる材料を使用する必要性はない。⑦振動に関しては、吊引張部材の形状による差異はない。である。
 鈴木俊男さんの初期の目的である、弾性理論式による解法は想定通り十分な精度を有していることは当然の結果であるが、柱高さによる構造影響度や吊補剛桁の吊り引張部材の材料強度について実験によって導かれた結論は興味深かった。次に構造実験について説明する。

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