道路構造物ジャーナルNET

㉒東京駅に至る中央線の重層化の工事

次世代の技術者へ

土木学会コンクリート委員会顧問
(JR東日本コンサルタンツ株式会社)

石橋 忠良

公開日:2021.06.01

はじめに

 道路橋として前回、青森ベイブリッジを紹介しました。今回、鉄道構造物として中央線の東京駅付近の重層化の工事を紹介します。この工事を紹介するのは、私自身直接、構造に深くかかわった工事だからです。

 東京駅につながる中央線は、建設位置が東京駅の丸の内側に面しています。北陸新幹線の開業にともない、新幹線のホームを1面増やす必要が生じました。そのため、在来線のホームを新幹線用に改造するとともに、在来線のホームを順次丸の内側に移動させることになりました。
 一番丸の内側の中央線は同じ高さでは、鉄道用地内に入らないので、それまでよりも1層上につくることになりました。この新しい中央線は丸の内に面するので、東京の顔となる構造物ということで、東京都をはじめ各箇所から注目されていました。そのため、計画時点からそのデザインについての意見を有識者から求め、それを踏まえて設計時点では篠原東大教授を委員長として景観委員会がつくられました。その委員会からのデザイン案を基に構造を考えることになります。
 最初に先生から提案されたデザインを見た設計を担当していたコンサルタントは、「設計できません」との返事をよこしました。委員会を作って委員長をお願いしたのですから、「できません」ではなく、どうしたらできるかを考えなくては申し訳ないので、私が自ら対応策を考えることにしました。
 カラトラバの設計したスイスのルツェルンの駅(写真-1)のイメージからと思われるデザインで、外側の柱は細く、線路側の柱は太い門型橋脚に桁が乗っているデザインでした。かつ、外側はエンタシスの細い鋼管の構造で、丸の内側から桁下を開放的に見えるようにしたいので、中層梁は設けないというものです。左右の柱の剛性の極端に異なるデザインです。


写真-1 ルツェルン駅

 設計を担当したコンサルタンツが設計できませんというので、デザインを尊重して成り立つ構造を自ら考えることにしました。
 門型橋脚で左右の柱の剛性が極端に異なるので、そのままでは橋軸方向の力で大きくねじれてしまいます。そこで、外観は桁構造ですが、実際はラーメン構造としました。左右の柱の剛性の違いは、桁式ではなくラーメン構造とすることで構造全体でねじりに抵抗するようにしました。
 また、鋼管柱では横梁を大きくしないと鋼管が横梁に定着できず、デザインのイメージにならないので、柱の構造はRCの柱として、鉄筋での横梁との定着とし、薄い鋼管でRC柱を巻き、外観は鋼管に見えるようにして対応しました。
 その他、デザインからの要求は基本的には叶えるように、コストが上がらないように構造で対応するようにしました。そのためには、設計基準の規定を守らない構造も実験などで確認の上いくつか採用しています。これらについても紹介します。
 コンサルタンツができないといってきた理由は、コンサルタンツの立場で、設計基準に従ったうえでの回答なのだと思います。設計基準の条文の最初には、特別な検討のうえ、性能を満足すれば、基準に従わなくて良いとされています。設計基準に縛られずに構造を考えることとしました。

 ここで鉄道の認定事業者制度について説明します。国鉄が民営化される以前は、国鉄は国として扱われ、設計は国鉄の責任で行われていました。私鉄の設計は、運輸省の確認が必要でした。
 国鉄が民営化され、JRの設計を民鉄として、設計の確認を運輸省で行うと膨大な業務量となります。そこで、技術集団を社内に持っている民鉄については、事前に責任者を国に届け出て、認められると、設計については届けられた各社の設計管理者が確認することで事業を進められる仕組みとなりました。設計管理者は、これも事前に届け出た設計基準に基づいて設計確認をするという仕組みです。
 この届け出た設計基準の最初に【性能を満足することを確認すれば以下の条文に従わなくて良い】と書かれています。条文通り行うほうが、責任を負わなくて良いので、多くの場合はこの最初の条文を使いません。ですが、新しい技術や構造を採用するときにはこの最初の条文にて、設計管理者の責任で実施できるのです。
 私はこの当時設計管理者をしていました。この最初の条文を使うことが技術の進歩につながります。個々の条文に従うだけなら、技術の進歩はなくなります。
 技術基準の一番大切な条文が、この最初の条文だと思います。

1.計画の概要

 東京駅に北陸新幹線のホームを新たに造る必要があり、そのために在来線のホームを新幹線に転用するので、在来線ホームをずらして、新幹線のホームのスペースをあける必要がありました。順次、ずらしていくと、中央線の位置に山手線、京浜東北線が来て、中央線の位置がなくなります。そのため、中央線を、丸の内駅舎近くまで移動させると同時に、2階に上げる必要が生じました(図-1)。
 駅部分で、中央線を丸の内側に駅舎近くまで移動させたので、駅を出た個所では鉄道の用地内に収まらずに、歩道の上を通って徐々に日本橋川付近で元の中央線の位置に戻ることになります。この歩道の上の構造物が丸の内側の表に見えることから、景観が重視されたのです。


図-1 東京駅のホームの移動

2.構造

2.1 構造の概要
 道路上の東京駅へのアプローチ部の断面は図-2のようになります。上が工事前、下が工事後の断面です。歩道を支障した分は、鉄道用地側に歩道を増やすことで対応しています。
 デザインでの特徴は道路側がエンタシスの形状でメタルのテクスチャーの円形柱(上下端の径1.0m、中央部の径1.2m)で、線路側の柱はコンクリートの角柱(線路方向1.5~1.7m、直角方向1m)となっています。歩道を縦断的に占有することから線路直角方向の柱幅は1.0mに制約されています。


図-2 東京駅へのアプローチ部の高架橋断面

 写真-2は工事着手の時の状況です。


写真-2 工事準備中

 図-3は東京駅へのアプローチ部のスパン割です。地下には多くの交通施設が存在しています。


図-3 新設の高架橋のスパン割

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