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⑳設計の再評価と維持管理(その2)~大鳴門橋耐風性再評価~

現場力=技術力(技術者とは何だ?)

株式会社日本インシーク
技術本部 技師長

角 和夫

公開日:2021.05.01

(4)取付け部に発生したき裂原因の推定

 当時(今から20年前)の私の推定は、①初期不整(製作・架設誤差を起因とする)によるもの、②長年の交通振動や風荷重による疲労き裂、の二つとした。これを証明するために、様々な計算を実施した。
 この結果、製作・架設誤差を持ったスタビライザー(鋼管)を現地架設時に強引にボルト接合したことにより大きな残留応力が導入され、その後、直角方向の風荷重や自動車荷重による補剛桁の変位等の影響を受け、取付け部にき裂が発生し、各所に広がったものと考えられる。疲労に関しては、風荷重等による応力振幅の算出、累積回数の算出(想定)等を実施し、疲労ではないことを確認した。


図-7 鉛直スタビライザー取付部に発生したき裂の一例

<有識者等による現地調査>
 2005年頃、福岡県課長時代に北九州空港連絡橋の委員会でお世話になった九工大の助教授を含む数人の有識者にご足労を頂き、御意見を伺った。終始疲労だと仰った先生とはそれ以来疎遠になってしまった。理由は特には触れない。
 当時、特定の先生以外には現場を見せてはならないというような風潮が当時の公団内にあったが、私は全然気にしなかった。あえて、優秀な指導者や学生達の教材になることに関しては希望がある限り現場を案内した。

(5)大鳴門橋補剛桁耐風性の再評価

 2010年、阪神高速から本四に復帰した際、前号で述べた「明石海峡大橋主塔制振対策の再評価」及び本件の「大鳴門補剛桁耐風性の再評価」を実施した。

①目的
 大鳴門橋補剛桁の耐風安定化部材として設置されている鉛直スタビライザー取付け部にき裂が供用開始後(?)、確認された。放置しておけば今後広範囲にき裂が発生する可能性があること、補修数量が膨大で将来にわたって維持管理上の負担が増える可能性があること、から鉛直スタビライザーの設置効果と設置範囲を明確にすることである。つまり、最新の解析技術等を基に設置効果・範囲が明確になり、その範囲が縮小されれば維持管理費の削減が期待できるためである。

②再評価手法
 明石海峡大橋補剛桁の耐風安定性検討において、その妥当性が検証された「三次元フラッター解析手法」を用いて、鉛直スタビライザー設置効果と設置範囲について再検証することとした。

★三次元フラッター解析とは?
 2次元剛体部分模型を用いて補剛桁に作用する静的空気力(三分力)及び動的空気力(非定常空気力)を風洞試験によって計測し、それらを3次元フラッター解析モデルによるフラッター解析に外力として入力することによって実橋の振動応答を推定する方法。

③再評価結果
 (本四技報引用 大鳴門橋のフラッター解析による耐風性再評価 福永、角、竹口、遠藤)
1)過去の二次元風洞試験結果からの考察と対応
 ・当初の断面(渦の道無し)
  →鉛直スタビライザーの設置効果が非常に大きい(鉛直スタビライザーが無い場合は+3度の吹上でフラッターが発生)
 ・現状断面(渦の道有り)
  →鉛直スタビライザーの有無に関わらず耐風性は悪化(0度、+3度の吹上でフラッターが発生)
 ・渦の道の設置範囲
  →耐風性を満足する区間に限定して設置

2)鉛直スタビライザーの効果と設置範囲
 フラッター解析結果(鉛直スタビライザーの設置範囲の影響)を図-8に示す。スタビライザー設置範囲は、中央径間中央部の30%程度の区間に設置することで照査風速をクリアすることが判明した。ここで照査風速は、87.6m/sであるが、解析上の振動数誤差(解析モデルの)の補正値として安全側に94.6m/sとした。


図-8 フラッター解析結果(鉛直スタビライザーの設置範囲と発現風速)

 次に、フラッター解析結果(風速と減衰の関係)を図-9に示す。縦軸の対数減衰率がマイナス(負の減衰)となる風速がフラッター発振風速である。因みに、全区間及び1/2設置(〇及び●表示)でフラッター発生せず。1/3区間設置(△表示)で120m/sで発振。1/4区間設置(▲表示)で110m/sで発振。全区間撤去(×表示)で70m/sで発振、という結果となった。


図-9 フラッター解析結果(風速と減衰の関係)

3)遊歩道「渦の道」と鉛直スタビライザー
 大鳴門橋供用開始(1985年6月)から15年後、2000年4月、徳島県観光協会が管理する「大鳴門橋遊歩道 渦の道」がオープンした。全長は450m、鳴門側主塔から120mほど中央径間側に延びている(図-10参照)。前述したように耐風安定性に影響を与えない範囲である。


図-10 「大鳴門橋遊歩道 渦の道」(右写真は、遊歩道を歩く筆者の次女と孫)

<裏話>
 2000年4月、「大鳴門橋遊歩道 渦の道」はオープンした。要望のあった徳島県側の補剛桁の内空間である。「夢の新幹線」が実現すれば撤去となる。本文でも触れたが、設置場所・範囲は、耐風安定性に影響を及ぼさない鳴門側の450m。中央径間側に120mほど張り出している。
 渦の道開通後、淡路島南部の自治体から「セカンド渦の道」の要望が兵庫県庁に出されたと聞いた。「大鳴門橋遊歩道 渦の道」オープン以来、多くの観光客の誘致に成功した徳島県にあやかっての発想である。兵庫県は、「明石海峡大橋に舞子プロムナードを設置したのだから大鳴門橋には設置しない」と地元要望を断ったと聞いた。
 それから20数年後、兵庫県は大鳴門橋に「セカンド渦の道」を要望していると聞く。前向きに検討は進んでいるようだが、今回紹介した耐風性再評価が重要な意味を持っているのがお分かり頂けるだろう。

(6)鉛直スタビライザー取付部のメンテナンス

(5)で述べたように、中央径間の30%程度の区間に鉛直スタビライザーを設置することで耐風性は満足する結果となった。また、鉛直スタビライザーの芯材(上下2本の鋼管)の内、上側の1本は主横トラス上弦材の座屈防止材も兼ねている。
 一方、大鳴門橋の補剛桁(主横トラス上弦材と上横構)の骨組構造からほぼ半分については座屈防止材としての機能は不要であったように記憶している。つまり、損傷発生個所、設置範囲(中央径間の30%以上)、不要範囲及び撤去等の諸費用を勘案の上、最適なメンテナンスを考えていく必要がある。
 幸いなことに、この4月から今回の検討業務を一緒に実施したT君が所長に赴任したと聞いた。「セカンド渦の道」の検討も彼が担当していたと聞く。たまには良い人事をすることもあるのだ、と思ったしだいである。

(7)最後に

 突然、降って湧いたようなお知らせがお茶の間に届いた。償還計画を根底から覆すような出資金の返還計画の問題である。財政投融資資金、民間借り入れ資金、国・地方自治体からの出資金等を原資として建設・管理されているビッグプロジェクト。
建設する前はルートごとの陳情合戦。いざ開通すれば3ルートも要らなかったという一部の世論。民営化の時に再三言われたB/C(費用対便益)による高速道路建設判断の議論。新規路線建設を抑えるためのB/C議論であったはずだが、道路会社が作らなくなった代わりに国が作っている。
 本四橋の交通量は、当初の計画交通量を当然下回っている。真水の注入や出資金の継続で通行料金を下げたことにより交通量は計画に対して100%台をキープ。しかし、今後少子高齢化の影響で交通量が確実に減少していくのは目に見えている。
 今後の出資金返済の検討で通行料金が上がれば完全に息の根を止められかねない。今後益々増えていく維持管理費、その縮減に向けて前回及び今回示したような設計検証や再評価を適宜行い、柔軟な対応を期待している。さらなる維持管理技術の開発や高度化は必須である。根拠のない古臭い慣習は捨てて欲しい。見直しと発見が必要である。
(次回は、2021年6月1日に掲載予定です)

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