(1)はじめに
東京・大阪など10都府県に「まん延防止等重点措置」が適用されてほぼ半月が経った。1日あたりの大阪の新型コロナ新規感染者数は本原稿を書いている4月16日で1,209人となった。あっさりと東京を追い越してしまった後、独走状態である。
毎朝、JR大阪駅地下街を抜け、キタ新地の横を通り御堂筋を本町に向け徒歩通勤しているが、そこにはびっくりするような光景が広がっている。4月12日から「まん防」がスタートしたが、1年前の歩行者密度の倍以上である。多分、大阪メトロ御堂筋線の超満員電車に乗るより、歩道を歩いて出勤するほうが安全と考えてのことだろうが。
丁度1年前の緊急事態宣言発令の時、殆ど人は歩いていなかった。昨年は企業が「在宅勤務」を推奨したこともあり、徒歩通勤者は少なかったように思う。今年は、完全に危機感ゼロの官庁・企業だらけということであろうか。
4月9日、夜のNHKニュースで「おやっ」と驚くテロップが流れた。
「本四高速道路 国・地元の出資金返還計画検討されず 会計検査院が検討を進める必要があるとする報告書を国会に提出」
つまり、本州四国連絡高速道路が抱える債務の返済のために、国や地方自治体(10府県市)が負担した1兆7,300億円余りの出資金(無利子)について返済計画が検討されていないことが分かったのである。結局の所、民営化検討時に本四の債務処理スキームが検討されたが、解決しないまま闇に葬られた形となったのである。
債務処理がしやすいように、機構で一括債務管理と道路資産の貸付、通行料収入からの安定した使用料返済、本四には真水(税金)の1兆3,000億円の投入、将来的には他の道路会社へ。ここに出資金の返済が抜けているのだ。
丁度、本四橋が全通後、次期海洋架橋プロジェクトの検討を進めている頃、本四が独り立ちできるような技術を発信せねばと酒飲み話をしていたものだ。話を戻すと、民営化後の債務処理のスキームの柱は、あくまでも出資金(800億円/年、国と地方の出資比率2:1)の継続(最終的に10府県市の反対で平成23、24年度は減額、26年度以降地方は出資しない)と真水の注入である。言い方は悪いが問題は将来に先送りである。
地元の夢の実現、早期開通、早期債務償還。開通後は通行料金値下げを目的とした出資金ではあったが、地方から継続出資はノーと言われた時点で、策士はいろいろ考えたのであろう。組織のスリム化、給料削減、子会社の整理、他の道路会社との合併等、お茶を濁す程度で経営者はやらない。いや、その上の組織からやる必要はない、と言われているのだろう。
今回の会計検査院の指摘は鳩が豆鉄砲をくらったようなものだろう。忘れてしまいたいものが掘り起こされた。今後の国や道路会社の施策に期待するとともに、マスコミ報道にも注視したい。料金値上げは愚の骨頂、絶対せずに。国民の血税を使わずに。「安全・安心・快適なサービス」を期待している。
さて、今回は前回に引き続き「設計の再評価と維持管理(その2)」について紹介する。長大吊橋の風による発散振動、いわゆる「フラッター」対策として補剛桁に設置された鉛直スタビライザーの再評価についてである。
因みに、フラッターとは、ねじれ1自由度あるいは鉛直たわみとねじれ2自由度連成の発散振動をいう。鉛直スタビライザーによるフラッター対策は、大鳴門橋(図-1、2参照)、若戸大橋(4車線化後の改築工事にて設置)(図-2参照)、明石海峡大橋(図-2参照)において実施されている。
図-1 大鳴門橋全景
図-2 スタビライザー設置事例
(2)大鳴門橋補剛桁で起こった維持管理上の問題点
2004年、大鳴門橋の橋梁課長をしていた当時、本社長大橋技術センターから久しぶりに単身赴任し、初めて長大橋の維持管理業務を経験した時の話である。
過去の点検記録を読み返していくと、毎年残っている損傷がある。言うならば、経過観察という処置されない損傷である。塗装については計画的に塗替え塗装をすればよいし、構造的な欠陥(疲労損傷等)については原因を究明し、対処すればよい。
ところが大鳴門橋補剛桁(中央径間)にはフラッター対策として中央分離帯の下に鉛直スタビライザーが設置されている(図-3、4、5参照)。この鉛直スタビライザーは、規模(数量や大きさ)が大きいこと、耐風安定上、特に重要な部材であることから単純に撤去や補修が出来ないと考えられていたからである。
図-3 大鳴門橋スタビライザー設置範囲
図-4 鉛直スタビライザー設置位置
図-5 鉛直スタビライザー
それでは「鉛直スタビライザー」にどのような損傷が発生していたのか。鉛直スタビライザーの取り付け部の一部にき裂が発生していたのである(図-6参照)。
図-6 鉛直スタビライザー取付部に発生したき裂
(3)鉛直スタビライザーとは
大鳴門橋周辺は日本でも有数の強風地域であり、台風の常襲地帯でもある。このため、耐風設計に用いる基本風速(海面上10mにおける10分間平均風速)は、本四橋でも最も高い50m/sとなっており、関西国際空港連絡橋と同値である。
長大吊橋の耐風安定性においては、補剛桁のフラッターを照査風速(設計風速×1.2)以内で発生させないことが求められる。このため、設計段階においては、断面形状、管理路配置と形状、検査車レール配置と形状、公共添架物の配置などを含めて数多くのケースの二次元バネ支持風洞試験が実施された。その結果、発散振動であるフラッターに対する耐風安定性を確保するために、中央径間部の中央帯直下に鉛直スタビライザーが設置された。鉛直スタビラオザーは、上下に鋼管を配置し、その間を外形材(ステンレス板)で覆った構造となっている。スタビライザーの機能及び性能を以下に示す。
<機能>
・フラッター(ねじれ1自由度あるいは鉛直たわみとねじれ2自由度連成の発散振動)に対する限界風速を高める。フラッター照査風速(補剛桁の設計風速×1.2以上)を満足すること。
・補剛桁主横トラス上弦材の座屈防止材。
<性能>
・設計風速に対応する風荷重が作用した際、構成部材に応力的な問題がなく、変形も許容値以内であること。
・座屈防止材として必要な剛性を有すること。
・吊橋の変形を拘束せず、その変形により座屈等の問題を生じないこと。
・振動に対して疲労などの問題を生じないこと。
・万一の補修時を想定して部分的補修、部材交換が可能なこと。