4.風での斜材の振動
青森ベイブリッジの斜材はグラウトの施工前までは振動はなかったのですが、グラウト施工が終えた状況で振動が起きました。台風の過ぎた後の小雨の天候の時、弱い風速でレインバイブレーションが起こりました。その日の斜材の振動の測定結果を表-1に示します。
表-1 レインバイブレーション時の計測結果
その後、斜材の下端にダンパーを付けて対処しています(図-6、写真-5)。この斜材に手を当てると、普段でも小さな振動が常時しています。この常時の微振動を感じると、斜材の設計は慎重に扱わないといけないという思いを強くします。斜材の構造はPCストランドをFRPの外筒菅にいれて、PCグラウトを注入した構造です。FRP管には金色の塗装がしてあります。
図-6 ダンパーの構造図
写真-5 ダンパー設置の状況
5.メンテナンスに関して
この橋梁の設計時点で、雪害対策で塩を撒くのかということの議論が行われました。塩を撒くならそれなりの対応を設計時点でしようと考えましたが、当時は塩を撒かないとのことだったので、塩の散布への対策は完全ではないことがあります。桁の外面に塗装はしていますが、路面に対する対策はしていません。開業後、塩を撒いているとの話が聞こえ、心配しました。その後は路面に融雪用のヒーターが施工されたようです。
斜材の外筒菅はFRPを選定しましたが、色を付けやすいことも考えてFRPを選定しています。いずれにしてもこの斜材の防錆が一番注意の必要な個所です。しっかり点検し、必要に応じてメンテナンスしていってもらいたいと思っています。
風対策でダンパーを施工していて大きな振動は抑えていると思いますが、小さな振動はありますので、ダンパーの取り付け部など注意して点検していくことが大切だと思っています。
施工後のメンテナンスは県に引き渡したので、県のほうで適切にメンテナンスしていってくれることを期待しています。当時の設計、施工に関係したJRや施工会社の関係者が時々、気になって見ては状況を知らせてくれます。ダンパーの油が漏れていたとか教えてくれます。その都度、関係者を通じて県に知らせてもらうようにしています。写真-6は完成時の写真です。
写真-6 完成時の状況
以下、斜張橋に関する私の印象に残っていることを紹介します。
6.ブロトンヌのPC斜張橋
1981(昭和56)年に、井深賞という賞をいただきました。これはソニーの井深さんが国鉄の理事をされており、井深さんが辞めるときにこのような賞を作られました。この賞の賞金で毎年、若い技術者2人に海外に調査に行かせてくれるという賞です。
私はこの賞をいただいたので、当時許される最長期間の2週間、ヨーロッパに行くことにしました。いただいたのは決められた金額ですが、追加するのは自由です。あまり追加しないで済むように当時航空運賃の安いロシアのアエロフロートを使いましたが、飛行機代でいただいたお金のほとんどかかってしまいました。当時はまだ1ドルが300円台だったと思います。
イギリス、フランス、イタリアと回りました。この時、フランスには国鉄のパリ事務所があり、ここに私が仙台の新幹線建設の時に一緒にいた先輩の小森博さん(のちの鉄道運輸機構理事長)が勤務していました。小森さんにお願いして、ブロトンヌの斜張橋を見に行きたいといって、車で現地まで連れて行ってもらいました。パリから何時間かかかって夕方に現地に着きました。夕日があたって斜材が金色に輝いた非常に美しい橋でした。
このような橋を建設してみたいと思ったのが、斜張橋への最初にかかわりです。この橋を探して、川沿いに車で移動したのですが、渡し舟が利用されているようで、途中には橋はほとんどない河川でした。
高速道路は、時速150km程度のスピードで皆、運転していることにも驚かされました。
7.本四の生口橋の設計時の、斜材の許容値の議論
本四の生口橋にPC斜張橋が計画されている時期のころです。本四公団の設計部長は田島二郎先生が当時されていたと思います。私も鉄道からの委員として参加していました。
そこではPC斜張橋の斜材の許容値について、土研の橋梁研究室長だったと思いますがSさんと、本四の技術者との議論が印象に残っています。本四の提案は、斜材の許容値を0.4Pyとする案だったと思います。それに対してSさんから吊り橋のケーブルの許容値の0.33Pyで合わせるべきという意見だったかと思います。この許容値をどうするかということで激論が交わされていたことが印象に残っています。
今のPC斜張橋の許容値は、この生口橋での提案と同じ0.4Pyで行われています。エクストラドーズ橋の斜材は0.6Pyかと思います。
鉄道橋では、PC斜張橋もエクストラドーズ橋もいずれも今は斜張橋と同じ許容値0.4Pyを採用しています。この時の許容値を決める議論を思い出すと、許容値を決めるというのは広く議論し、慎重に扱うことが必要だと思っています。
青森ベイブリッジには多くの技術者がかかわりました。JRの技術者も、施工会社の技術者もここでの経験がその後に生かされています。技術的に高度なプロジェクトを経験することが技術者の育成には必要です。技術者が育つようなプロジェクトを作っていってほしいと思っています。
参考文献
1)青森ベイブリッジ 編集;青森県、JR東日本東北工事事務所 平成5年9月20日
(次回は6月1日掲載予定です)