シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊸
進化するコンクリート用化学混和剤! ー運搬の長時間化に対応する化学混和剤ー
国際企業株式会社
広島営業所 課長
筒井 達也 氏
はじめに. コンクリート用化学混和剤の進化と活用
開発から長きにわたりコンクリート用化学混和剤に求められてきた機能は、ワーカビリティ改善、強度および耐久性の向上、凝結速度の調整などが一般的であった。現在はこれらの基本的な機能に加え、収縮低減剤含有による耐久性能の向上、増粘成分含有による流動性の促進など、技術の進歩と共にその機能も多様化している。 本稿ではこれらの新たな機能のうち、 スランプの長時間保持機能に焦点を当て、運搬時間延長によって可能になる現場打設や、 コンクリート構造物の品質確保に深く関わる現場作業員の生産性向上ならびに働き方改善、コンクリート業界集約化におけるコンクリート用化学混和剤の活用へ向けた取り組みについて考察し、その可能性を述べる。
1. 現場で求められるコンクリート用化学混和剤の機能
コンクリート用化学混和剤を使用する際、現場で重視される機能とは何かを示す数値として、筆者らがコンクリートよろず研究会において実施したコンクリート用混和材料に関する認知・実態についての調査結 果を紹介する1)。当該資料は業界関係者へ広く回答を依頼し約2ヶ月間の実施期間で全国から521件の有効回答を得たものである。図1.1は「化学混和剤を使用する際に重視している項目」、図1.2は「化学混和剤について機能を追加、強化して欲しい項目」への回答集計を示す。いずれの回答においても最も多くの回答が寄せられたのが「スランプ保持性能」であった。
スランプ保持性能は直近20年にわたり生コンクリート生産者からの要望を受け、混和剤メーカー各社が大きく改善・改良を進めてきており、保持性能は確実に高められてきているが、現場からは更なる改善が求められているとの結果が確認された。
2.スランプの長時間保持機能を持つ化学混和剤の開発
フレッシュコンクリートの打設現場からの要望のみならず、 コンクリート製造工場(生コン工場)の集約化による場外運搬の長距離化、気温の上昇にともなう凝結の急激な進行、建設現場におけるトラックアジテータの待機の慢性化による場内運搬時間の長時間化等、業界を取り巻く環境からもスランプ保持機能の役割は多岐にわたる。このような背景を受け、スランプの長時間保持を可能にする化学混和剤が開発され、実際現場での活用が進んでいる。
ここでスランプの長時間保持機能AE減水剤(以下GSPと称す)を例に挙げて紹介する2)。同製品はJIS A 6204においてAE減水剤に分類される。同製品の特長に関する概要図を図2に示す。GSPは、従来品と比較して流動保持性を飛躍的に向上させる効果に加え、経時にともなうコンクリートの粘性の増大を抑制し、良好なワーカビリティを維持する効果により、長距離・長時間運搬が可能となる(図2a)。
一般に、経時によるスランプの低下が大きい場合には、荷卸し地点到着時のスランプを管理幅内に収めるために、生コン工場では管理幅の上限を超えたコンクリートを出荷する対策を講じているが、その場合でも使用できる(管理幅内に入る)時間が限られるため、生コン工場側のスランプ管理の難易度は高いままである。一方、GSPは流動性を長時間制御できることから、生コン工場側のスランプ管理は容易となる(図2b)。
また、長時間の運搬・打設について既に使用されている技術として超遅延剤を添加してフレッシュ性状を確保する方法もあるが、必要以上の凝結遅延効果を付与してしまう事もあり、仕上げ工程が遅延するリスクがある。また超遅延剤はJISA6204においては減水剤の分類であり、その減水性能によりベースコンクリートのスランプ調整に手間がかかる事がある。一方GSPは、同じく減水性能を有するが流動保持性を延長した分の最低限の凝結時間を確保することができるため、大幅に凝結遅延することなく、スランプを長時間保持することができることも特長の一つである(図2c)。