【共著】
琉球大学工学部工学科(社会基盤デザインコース)
教授 富山 潤 氏
アール・アンド・エー
代表 風間 洋 氏
1.はじめに
沖縄県は、高温多湿の亜熱帯圏に属し、四方を海に囲まれた島嶼県であるため、県全域が過酷な塩害環境にある。また、コンクリート用骨材である海砂にアルカリシリカ反応(以下、ASRと称す)を発生させる有害鉱物が確認され、高濃度の飛来塩分が浸透した離島架橋などでASRの進行が確認されている。
そのため、沖縄県土木建築部では、塩害およびASR抑制に加え、温度応力の抑制を目的にフライアッシュコンクリート(以下、FACと称す)の利用を検討し、「沖縄県におけるフライアッシュコンクリートの配合及び施工指針1)」(以下、FAC指針と称す)を平成29年3月に策定(平成30年5月一部改訂)して材料面からの耐久性向上を図っている。また、施工面からの耐久性向上を図るため、平成30~令和元年度に沖縄県中部土木事務所管内の県道20号線(泡瀬工区)橋梁下部工工事(以下、泡瀬連絡橋と称す)においてコンクリート表層品質確保の試行を行った。
ここでは、沖縄県土木建築部の策定したFAC指針の概要、および品質確保試行工事について紹介する。
2.FAC指針の概要
(1)FAC指針策定の目的
沖縄県は、宮古島と伊良部島を結ぶ伊良部大橋(平成27年1 月31 日供用)の建設にあたり、コンクリート材料の観点から100 年耐久性を目指すことを検討し、県内橋梁で初の試みとしてFACを採用した。
この実積を受けて、県内の重要構造物においてFACの利用促進が図られてきたが、沖縄県にはFACに関する指針やマニュアル等がなかったため、各現場において、その都度、専門家の意見や助言を受け、FACの検討および採用が決定されていた。そのため、沖縄県土木建築部では、FACの配合方法や施工に関する標準的な考え方を示し、副産物の有効利用による環境負荷低減効果を図るとともに、コンクリート構造物の耐久性向上や長寿命化を図ることを目指してFAC指針を策定した。なお、本FAC指針は、既往の研究も参考に、沖縄県が各種調査検討を行い、その性状・品質等が確認された県産分級フライアッシュ(以下、FAと称す)を対象に作成されたものである。
本FAC指針は、以下の沖縄県土木建築部技術・建設業課のホームページからダウンロード可能である。
「沖縄県のコンクリート構造物の耐久性向上に向けた取組み」
https://www.pref.okinawa.jp/site/doboku/gijiken/kanri/jigyou/concrete.html
(2)FAC指針の構成
本FAC指針は、沖縄県内で産出されるFA(JISⅡ種灰)を「内割り(セメント代替)+外割り(細骨材代替)配合タイプ」、「内割り配合タイプ」、「外割り配合タイプ」の3タイプの配合に分類している(図-1)。
1)内割り+外割り配合タイプ
本配合タイプは、FAを内割り20%、外割りは内割り配合と合わせて100kg/m3以内となる量(内割りFA+外割りFA≦100kg/m3)を混和した配合であり、耐海水性(塩害を含む)、ASRの抑制、水和熱による温度上昇の抑制により耐久性向上を図ることを目的とした配合である。内割りと外割りを合わせて100kg/m3以内としたのは、FA総量が100kg/m3を超えると生コンクリートの粘性が強くなり、施工性が低下するためである。
この配合は、伊良部大橋下部工で用いられた配合を基本としており、各種検証試験により従来の普通コンクリート(以下、NCと称す)と同等の強度管理(管理材齢28日)が可能で、塩害・ASR・温度応力抑制等の耐久性向上効果が認められ、伊良部大橋施工以降、県内で最も多く用いられているFAC配合である。なお、本配合タイプは、水和熱による温度上昇抑制効果を期待しているため、マスコンクリートを対象としている。
2)内割り配合タイプ
本配合タイプは、FAを内割り10~20%の範囲で混和した配合であり、主に塩害およびASRの抑制効果を目的とした配合である(ASRの場合は15~20%)。表-1では塩害およびASR抑制効果がある置換率は15~30%とされているが、原則、28日強度管理を行うことを目的としているため、20%以下の配合を推奨している。仮に管理材齢28日を満足できない場合には、最大で91日まで管理材齢の延長を可能としている。また、JISフライアッシュセメントB種を用いる場合もこの配合タイプとなる。なお、本配合は、水和熱による温度上昇の抑制効果を期待していないため、対象部材は、比較的小規模な構造物が望ましいとしている。
3)外割り配合タイプ
本配合タイプは、伊良部大橋上部工コンクリートに用いられた配合を基本としており、プレキャストPC桁やPCセグメント桁等の脱型・吊り上げを早期に行う必要のある構造物で多く用いられている。
この配合は、ASR発生の可能性が懸念される沖縄県産の海砂3)を使用せず、細骨材を石灰岩砕砂100%とした場合に流動化材としてFAを外割りで3~5%配合するものである。なお、FA置換率(3%~5%)の選定は、コンクリート製造工場毎に異なる砕砂の粗粒率(FM)や粒度分布を考慮して、各工場で配合試験を行い、最適置換率を決定するものである。
4)その他特記事項
a)空気量の規定
FAC指針で取り扱う「内割り+外割り配合タイプ」および「内割り配合タイプ」では、荷下ろし地点での空気量を規定していない。これは、FAを多量配合した場合、FA中の未燃炭素分がAE剤を吸着することで安定した空気連行性が得られず、JISで一般的に規定されている4.5±1.5%で管理するにはFA用AE剤を使用する必要があるが、高価なFA用AE剤を用いると生コンクリート単価が高騰する事から、凍害がない沖縄県では空気量を規定せずに用いることとしたものである。ただし、容積計算上は、内割り配合で平均的に得られる空気量2.0±1.5%を用いることとした。また、FA配合量が少ない「外割り配合タイプ」については、普通AE剤により空気量を容易に調整できることから、荷卸し地点における空気量を4.5±1.5%とした。
b)累加計量
FAの計量は、専用の計量設備を基本とするが、離島など専用の計量設備がない工場が多いことや、特に外割り配合タイプでは砕砂の3~5%程度とFA量が少量となるため、計量誤差が生じる可能性が高いこと等を考慮し、専用の設備がない場合や少量利用の計量設備がない場合は、監督職員立ち会いの上において、セメントとの累加計量も可能とした。
c)水結合材比、単位量の基本
FACの配合は、コンクリート製造工場の持つFACと同じ呼び強度の標準配合の水結合材比、単位水量を基本とする。
d)養生期間の設定
FACの養生期間は、28日を原則とする。やむを得ない場合であっても、コンクリート標準示方書に示される7日間を確保すること4)。