道路構造物ジャーナルNET

-分かっていますか?何が問題なのか- 第56回 葛西橋にみるチャレンジ精神と鈴木俊男 ‐何かが大きく足らない日本のエンジニア‐

これでよいのか専門技術者

(一般財団法人)首都高速道路技術センター
上席研究員

髙木 千太郎

公開日:2020.12.01

4.1 Tittle Bridgeの崩落事故について
 カナダ・ノバスコシア州のガイスバラ郡キャンソ(図-9参照、Canso-area Nova Scotia’s Guysborough County)で2020年(令和2年)7月7日(火曜日)の午後、Tittle Bridgeが崩落した。崩落した道路橋を管理するノバスコシア州運輸インフラ更新局(TIR)によると、崩落したTittle Bridgeは1950年に建設された鋼製のピントラス(図-10参照)、床が木製で、老朽化を理由に今年の夏に架け替える予定であったとのことである。ガイスバラ郡本土とTittle Bridgeのみで繋がっているデュレルズ島には30人が住んでおり、橋が落ちたことで少なくとも8日間、島は本土との通行が出来ないであろうとの報道である。
 
 Tittle Bridgeの架け替え工事は、Alva Constructionが約120万ドルで受注し、架け替え工事に必要な建設重機を島内に運搬する時に事故が発生した。Alva Construction とはどのような会社かと調べてみると、カナダ・ノバスコシア州アンティゴニッシュを拠点とする中規模のゼネコンであり、一般土木工事、橋梁、港湾構造物、杭打ち、管路工事など受注範囲は幅広く、近年完成した橋梁としては、カンバーランド郡のルート366 Northport Bridge他10橋以上の工事実績のある、土木関係工事を得意とする建設会社である。過去に橋梁等の重要施設に多くの実績がある請負業者が、こともあろうに建設機械を運搬中に、それも架け替えるTittle Bridgeを崩落させるとは情けない話である。
 
 私としては非常に興味深かったので、インターネット動画から崩落する過程をピックアップして、図-11に掲載した。崩落する状況は、建設機械を積載したトレーラーが橋梁上に誘導員(矢印の先)、トレーラーの後ろに2名の誘導員?を配置し、向かって右側の誘導員が左右を見ながらトレーラーを誘導し、全荷重が橋梁に作用した瞬間に、向かって左側の部材がねじれる様に崩落したのである。崩落する直前に誘導員が大きな声を発しているので、その時、トレーラーが何かに接触した可能性はある。Tittle Bridge 崩落事故報道を見るとTittle Bridge の最大許容荷重は、41,500㎏であるが、トレーラーの重量は14,000〜17,000kg、積載重量は39,916kg、積んでいるTerexHC80マークの入った建設重機である。不幸中の幸であったのは、トレーラーの運転手もトレーラーと共に水没したが、自力で脱出、病院には運ばれたが無事のようである。
 図-12は、崩落した後のTittle Bridgeである。私の創造の域を脱しないが、今回通過しようした車両の総重量は、Tittle Bridgeの許容荷重以下であったが、限界値に近い重量ではあったと考える。Alva Constructionの技術者は、走行による衝撃荷重さえ橋に作用しなければ、重機は運搬できると判断したのであろう。Tittle Bridgeが運搬に使えなければ、仮橋、もしくは重機運搬の台船が必要になる。この事故の教訓は、人間の勘には限界があることを示している。私が判断するに、Alva Constructionの技術陣が少しでも経費を浮かそうと考えたのが間違いで、現橋を使うならば事前に載荷試験を行い、発生応力を確かめるのが常道である。そもそも海外の工事発注形態は、日本と違って契約すれば種々な面での自由性がある。これまでは何とかセーフだったかもしれないが、今回の場合、担当技術者や会社の思惑は外れ、Tittle Bridgeは建設重機もトレーラーも水中にと相成りアウトとなった。
 発注者からの会社に課せられるペナルティーはかなりと思う。今回の事故は、過去に国内外で頻発している事例が多くあり、技術者の能力と判断力を疑う悪しき事故である。ここで、私が紹介したカナダ・Tittle Bridge崩落事故内容を読んで笑ってはいけませんよ!読者の皆さん。今、国内では、同様な、いやもっと問題とすべき恥ずかしい事故が起ったのですから。

4.2山口県・上関大橋の事故について
 2020年(令和2年)11月14日(日曜日)午後8時ごろ、山口県・上関町の離島と本土を結ぶ上関大橋の端部、伸縮装置に約20㎝の大きな段差(道路管理者は2㎝以上から管理瑕疵を問われる)が発生、普通乗用車が段差に衝突し、乗車していた2人がけがをして病院に搬送された(図-13参照)。当然、事故原因となった上関大橋は、通行止めされた。上関大橋は、1969年に供用開始した橋長220m(40.0+140.0+40.0)、幅員8m(6.5+0.75×2)、一等橋で構造型式は、3径間プレストレストコンクリート箱型断面有ヒンジ片持ち梁橋である(図-14参照・山口県公開資料)。上関大橋の特徴は、支間割を見ればお分かりのように、桁端部のアップリフトが大きく、桁端部をPC鋼材で垂直・水平方向に固定している点にある。上関大橋の設計関連資料によると『・・・橋脚をスレンダーにし、軸力のみで曲げを伝達しない構造とした。この場合側径間が短いため、橋脚が中央径間側に転倒する傾向を有するので、側径間桁端を取付鋼棒によって橋台に取付け、橋台をカウンターウェイトとして働かせるとともに、橋軸方向水平力もとらせることとした。・・・』と構造上の特徴が明記されている。一般的な呼び名としては、端部のアップリフト等に対応する特殊構造であるドゥルックバンド構造である(図-15参照)。
 
 図-16は、上関大橋の側径間の側面を下から見上げた状況である。上関大橋は、桁端部と主箱桁側面にアウトケーブル補強した治具と塗装が確認でき、たわみ改善、耐荷力向上、塩害やアルカリシリカ反応抑止の対策を行ったと判断できる。そこで、種々な上関大橋に関する公開資料を見ると、今から7年前に補修・補強工事を完了させたとの記録がある。また他の資料を見ると、上関大橋は塩害やアルカリシリカ反応によってコンクリートの変状が著しかったと変状写真とコメントがあり、先の予測が正しいことになる。それでは、補修・補強工事を行っているのに、なぜ今回の事故が発生したかである。誰でもが考えるのは、アップリフトで上方向に持ち上がるのを防ぐPC鋼棒が破断し、段差が生じたと考えるのが普通であり、私も事故発生を見た直後にそのように考えた。これから示す私の意見に反論する人、私に敵意を持つ人などなど、数多くいるとは思うが敢えて意見を述べる。


 事故原因の調査と供用可能かの判断をするために、事故発生2日後の11月16日に山口県、国土交通省、学識経験者が現地調査を行い、調査結果直後の発言が公表されている。「橋全体にひび割れなど重篤な損傷は見られない」そして、「初めて見るケース。橋桁の端を詳細に見るべきだ」である。

 私は悲しい、情けない。問題は約1時間半も目視で現地調査したのに事故原因をある程度推定できなかった点である。事前に橋梁台帳や一般図を確認していれば、なぜ、上大関大橋の桁端部と橋台パラペット部に段差が生じ、浮き上がったかの予測は付く。
 山口県が公開した資料には図-17が掲載されている。

 PC箱桁の端部、支承部にこれだけの大きな空間が出来たこと、段差のない島側橋台部と対比することなどで、その原因は当然分かるはずである。桁端部にあるPC鋼材の状況は分からないにしても、先の構造的特徴が分かれば、ある程度推測できるのが専門技術者の仕事ではないのか? 私の経験では、PC箱桁だけでなく、中小径間の桁端部、支承部点検は容易でないことは判っている。読者の中には、「現地に行かなければその状況もわからない。髙木さん、無理を言うなよ」とお叱りを受けるのは百も承知で続ける。カナダの事例と事象は異なるが、交通利便性を絶たれた島民は、事故調査を行っている、優れた?? 専門技術者が発する言葉を聞き、不安一杯になったのではないかと思う。

 その後、11月24日に開催された復旧検討会議では、『段差の生じた原因を橋桁と橋台を垂直方向に固定する18本の鋼棒(直径33mm・長さ8.3m)が損傷したとの認識でほぼ一致』。事故原因の調査結果の発表に、このように時間を要するものか、事案が事案だけに不思議だ。『来年1月末までに本格復旧に向けた助言を策定する方針だ』。私は、上関大橋の本格復旧に向けた検討が、何故これから2か月もかかるのか関係者に聞いてみたいものである。関係者は、いくら頼んでも私には会っては頂けないと思いますが。

 令和2年(2020年)11月18日(水曜日)夕方の知事記者会見の場では、NHKの記者が質問する「その中では、今のこの橋が、既存のものが今後も使えるのか、もしくは架け替えなきゃいけないのかと、そういうところも踏まえて検討してもらうということですか。」それに対し知事は「そうですね。全面復旧をして、安心してですね、従来どおり通れるようになるためには、どういった対策が要るのかということを考えていくことになりますので、その中で、前提状況を設けずにですね、さまざまな検討をすることになるだろうと思います。」と答弁した。
 私は、上関大橋の現場に行ったわけではないので、無責任な発言はしたくはないが、国が法制度化した定期点検、補修・補強工事前に行った詳細点検や補修・補強設計を行ったコンサルタントの責任は重い。なぜこのような発言になるかと言うと、先の上関大橋の定期点検結果後の診断はⅡランク(予防保全段階)だからである。写真-9、写真-10、写真-11を読者の方々は目を凝らして見てもらいたい。上関大橋とは違うかもしれないが、PC箱桁の橋台部桁端の点検を行うと、ゴム支承でも鋼製支承でもこのような状況で、這いつくばって、軍隊が良く行う匍匐(ほふく)前進しなければ点検できないのだ。コンサルタントの技術者は、本当に上関大橋を近接目視点検したのかと言いたい。


 常々私は、国が公表している『道路メンテナンス年報』は全く信用出来ないと思っている。その理由の一つが上関大橋に発生した事故と点検結果であり、他にも事例がある。それと同時に、本事故発生後に国土交通省から全国の橋梁管理者に発せられた? 緊急点検指示によって、行政技術者が天手古舞する姿が目に浮かぶようである。このようなことを続けていると、大事故が起こると同時にメンテナンスに携わる人は皆無となることを分かっているのか・・・は。
 さらに、もっと恐れることは、上関大橋と同構造の橋梁は危険な構造であると決めつけ、国内で供用している同一構造、類似構造の架け替えを加速させることである。私が日ごろから口を酸っぱくして発言している、「メンテナンスが大変な橋梁は直ぐに架け替えるのが適切である。それの方が、枕を高くして寝ることが出来る」と言った、何処の誰かとは言わないが、安易な考えの技術者が本流を占めることを危惧している。本連載のメインテーマ『これでよいのか専門技術者 -分かっていますか? 何が問題なのか-』の連載の趣旨と、なぜ私が何度も同じことを言うのか考えてほしい。

「ボーとしてんじゃないよ!!」と叱られますよ。(2020年12月1日掲載)

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