(4)多径間吊橋の適用にあたって
①多径間吊橋のメリット
海峡幅が広く、海底地形が起伏もなくなだらかな場合、一般的な3径間吊橋を多数連続配置するよりも支間長を無理して長くする必要が無く、中間部のアンカレイジを削減できるメリットがある。
②吊橋の計画
海上橋にあっては必要とされる航路幅や航路高の決定と基礎の設置位置の決定が特に重要となる。3径間吊橋と4(多)径間吊橋についてそれぞれ計画上の留意点を以下に記述する。
3径間吊橋の場合
・2本の主塔基礎の設置位置、ケーブルを支持するアンカレイジの設置位置が重要となる。
・側径間比は、0.4~0.5以内が望ましい。
・吊橋の工費に大きく影響を与える橋長あるいは支間長は安易に決めるべきではない。例えば、ケーブル水平張力は支間長の2乗に比例し、明石海峡大橋クラスになると1m当たり1億円という工事費になる。これは、阪神高速神戸山手線長田トンネルの工事費と同等である(阪神・本四時代、現場案内時に外国人への説明に引用させていただいた)。
(裏話)国内外の方からの質問で「明石海峡大橋の中央支間長を2,000mにしなかったのは何故か」というのがある。説明する際は、「主塔等の基礎設置位置の検討や工事費の最小化から決定した」という真面目な話と、「20世紀中(1,990年代)に完成した(させた)」という話をしている。
・主塔基礎は、制約条件(航路幅)や施工条件(地質・水深・潮流速等)をもとになるべく支間長を短くする方向で計画する。
4(多)径間吊橋の場合
・3径間吊橋では、両側に2基の大きなアンカレイジが必要となる。このアンカレイジが工費や景観設計では弱点となる。
・4(多)径間吊橋では、主径間数が多くなればなるほど工費や景観設計で目立たなくなる。
・豊予海峡の様に、海峡中央部に目立った深間(ふかま)が無く、だらだらとした地形においては多径間吊橋が有利となる。
・前述したように、超長大吊橋(豊予海峡大橋)では死・活荷重比が0.96:0.04程度。つまり、死荷重のウエイトが非常に大きいことから、中央主塔上でのケーブルスリップの問題はある程度解決できる可能性がある。
③基礎工法(図-10参照)
豊予海峡大橋に代表される次世代ビッグプロジェクト構想においては、基礎(設置)工法、上・下部工構造、耐風設計及び耐震設計について各種検討がなされた。特に、基礎(設置)工法については吊橋形式や支間割に大きく影響を与えるため多くの検討を実施した。次世代ビッグプロジェクトの概要については、これまで各学会や講演会で紹介してきたが、「今後、日の目を見ない」と考えられるため折角の機会なので一部を紹介する。なお、基礎の設置水深は、将来の技術開発にも期待し、平均水深100m程度としている。
<現状技術の発展>
図-10.1 大水深基礎の検討例(1)
薄肉低反力型基礎とは
・地盤の支持力が期待できない場合
・基本的に、RCケーソンの製作技術を活用し、ドライドックでフーチング部を製作後、架橋地点迄曳航後、柱部を鋼殻あるいはコンクリート柱で構築し、海水を注入・沈設する。
ツインタワー基礎とは
・明石海峡大橋などの円形鋼殻ケーソンと内部充填コンクリートの数量を大幅に削減
ハイブリッドツインタワー基礎とは
・フーチング部をRCケーソン、柱部を鋼殻ケーソンとした基礎
<現状技術を長大橋基礎に応用>
図-10.2 大水深基礎の検討例(2)
ジャケット基礎とは
・メキシコ湾や北極海の石油掘削リグで採用されているジャケットを応用
・海洋ドックにおいて横向きにジャケットを製作。
・高さ数百メートルのジャケットをFC船で吊り上げ、海上を浮かせた状態(浮力を利用)で設置位置まで曳航。
・注水し、沈設。既設のアンカー、ベースと現場で接合。
④活荷重載荷について
多径間吊橋の最大活荷重たわみの計算例を図-11に示す。
図-11 多径間吊橋の活荷重たわみ(影響線載荷と全載荷)
出典;長大橋講演会「長大橋の技術動向と将来展望」(石崎浩氏講演資料)多径間吊橋のフィージビリスタディ(平成20年3月7日)」より
<要点>
・活荷重たわみ
⇒影響線載荷では、最大たわみは5.6mとなる(活荷重は第二径間のみ)。
⇒全載荷では、最大たわみは2.2m(1/2.5)となる。
・これまでの影響線載荷手法は、着目部材に最大の断面力を生じさせる径間に活荷重を載荷させるものである。
・例えば、第二主塔の設計を例にとれば以下の通り
Vc max ;主塔の鉛直反力が最大となる影響線載荷(第二・三径間に荷重載荷)
δ max ;橋軸方向変位が最大となる影響線載荷(第一径間に荷重載荷)
(W TT ;暴風時(橋軸直角方向))(直角方向に風荷重載荷)
・つまり、限定された第二径間にのみ活荷重が載荷される可能性が極めて小さいことを設計に考慮することでより合理的・経済的な構造にできる。活荷重実態調査等を踏まえ、設計活荷重強度や載荷方法を柔軟に考える必要がある。
(5)最後に
この100年で長大橋の建設技術が大きく飛躍した。この時代に「多径間連続斜張橋が作れて、多径間連続吊橋は何故作れないのか?」と皆さん思ったことはありませんか。
難易度が高い小鳴門橋は、日本道路公団に建設を断られた徳島県が独自に建設をした画期的な多径間吊橋である。この橋を設計・建設された徳島県の松崎氏は、徳島県から本四公団に移られ、本四橋建設に手腕を振るわれた。私自身も非常に尊敬している技術者である。高性能・大容量の電子計算機も無い時代、手計算等で吊橋の解析をされ、驚愕である。
これまで多径間吊橋については、来島海峡大橋や海峡横断道路プロジェクト(豊予海峡大橋、伊勢湾口架橋、三県架橋早崎瀬戸大橋及び津軽海峡大橋等)で長年検討されてきた。超長大支間吊橋共通の課題(耐風安定性や大水深基礎等)は別として、①活荷重載荷方法の見直し(従来の影響線載荷、実態活荷重調査)、②安全率の見直し(現行活荷重の影響線載荷は常時ではない)、で設計可能であると記憶している。
阪神高速5号湾岸線西伸部(六甲アイランド-ポートアイランド)は、連続斜張橋(斜張橋2連)で既に事業化、着工されている。2020年7月1日号の連載記事「神戸の顔-東神戸大橋を巨大地震から守る-」の中で多径間連続吊橋について紹介した。多径間連続斜張橋は、リオン―アンテリオン橋(ギリシャ)、ミヨー橋(フランス)等で遥か昔に建設されている。
「今さら、連続斜張橋なの?」と思っている人、特に若い世代の技術者に期待したい。今後、少子高齢化、人口減少に伴い益々公共事業、特に長大橋の建設機会は減っていくであろう。可能な限り「多径間連続吊橋」の可能性を追求していってもらいたいものだ。
<最後に補足>
私の第三の故郷とでも言うべき徳島県鳴門市。友人が徳島の地場コンサルタントにいる。前述の松崎氏が以前、社長をされていた会社である。彼からアドバイスを求められていた件を最後に紹介する。①大渡ダム大橋(吊橋)の調査・診断、②小鳴門橋の変状と対策、③末広大橋のケーブル調査手法、である。
このうち、小鳴門橋は、設計も難しいが、製作・架設、維持管理も難しい。供用開始後、多くの変状・損傷が発生している。その都度、補修はされているようだが追いついていないし、適切な補修とは思えない。これは、多径間吊橋だからという側面もあるが、適切な維持管理や補修・補強が為されていないことも大きな要因であると考える。
(2020年12月1日掲載。次回は2021年1月1日に掲載予定です)