道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊵

東北地方整備局の品質・耐久性確保の取組みの現状と今後必要となる対応

日本大学
工学部 上席客員研究員

佐藤 和徳

公開日:2020.11.19

3.取組みを定着させるための対応

 コンクリート構造物の品質・耐久性確保の取組みを浸透・定着していくためには、図-4に示すような事項を実施していく必要がある。

1)実態認識と目標設定
 構造物の点検が義務化され、その結果として既設構造物の計画的な補修への移行が図られているが、一方で補修が必要となった原因の追究は十分に行われているとは言い難い。せっかくの点検データを有効活用する意味でも、劣化の実態を認識しその原因を分析し、対策を新設構造物に活かす取組みが必要となっている。そしてこの取組みを制度化して、何をどう改善していくのか、組織として改善目標を設定することが必要と考える。

2)管理基準等の整備
 品質・耐久性確保に適した管理基準や監督要領、工事成績評定実施基準などの整備が必要となっている。図-3で示したように、硬化したコンクリートの主な品質管理基準は、ひび割れが発生した場合の調査と非破壊検査による強度推定となっており、東北地方で必要となるコンクリートの表層品質を適切に反映したものとはなっていない。発注者が示す品質管理基準がこれでは、監督職員も受注者も真の品質・耐久性確保を目指す方向にはならない。このため、例えば、表層目視評価を活用した施工中に生じる不具合の種類毎の程度や改善の過程を評価するような基準が必要となる。すなわち不具合をなくす努力の跡を評価するような基準をつくる必要があると考える。そして、このような基準を、いきなり規格値として定めると、不合格で造りなおしというような極端なケースが生じかねないため、当面は経過措置として努力目標とする必要がある。また、過密配筋などの品質を確保しづらい設計を防ぐための基準も必要となる。

3)取り組み易さの向上
 コンクリート構造物の品質・耐久性確保の取組みは、現在、「試行」という形で行われている。これは、発注者が「試行」に取り組むかどうかを選択する形となっており、品質・耐久性確保に消極的な現状では、そもそも「試行」に取り組むケースは少ないと言える。今後は、「試行」から「標準」へ移行する必要があり、その方策の一つとして、現在定められている手引き類の内容を「試行」ではなく、「標準」として運用するためマニュアル等へ格上げするなどの取組みが必要と考える。
 また、実務での取り組み易さの向上を図るため、品質・耐久性確保に特化した標準特記仕様書なども整備する必要がある
 施工段階で決まる品質確保は、遵守すべき事項が共通仕様書にも定められており、標準歩掛の範囲内であると考えられがちである。しかし、品質を確保しようとすると、作業員の数を集めるだけでなく、品質確保の重要性の教育、施工前の手順の周知会、施工後に不具合が出た場合の改善に向けた意見交換会など、従来の工事では疎かになっていたことをしっかりと行う必要がある。そもそも、従来のように不具合があっても補修すれば検査に合格するような構造物を造っていた工事を含む母集団で決めた歩掛と、補修を必要とするような工事を除いた母集団で決めた歩掛では異なる可能性がある。このため、結果として現在の標準歩掛と大差がなくても、品質確保を図る工事では、歩掛調査付きの工事として、品質確保に伴う歩掛の実態を調査する必要がある。
 耐久性確保の場合は、標準歩掛では想定していないコンクリートの配合やエポキシ樹脂塗装鉄筋などの材料を使用するため、見積活用方式の積算が必要となる。これについても、特記仕様書とあわせて標準化・定型化を図る必要がある。
 また、耐久性確保のための工事では、求める耐久性を確保するために、様々な試験などを行う必要があり、それらに必要な工期も確保する必要があり、柔軟な工期設定の行い方も定める必要がある。

4)意識改革と協働の醸成
 そもそも、コンクリート構造物の品質・耐久性確保の工事を行おうとすると、発注を担当する実務者や工事を監督する職員からは、面倒くさい事もあって敬遠されがちとなる。しかしながら、品質や耐久性は誰が求めているかと言えば発注者なのである。そして、品質や耐久性を確保した結果、補修が減って、浮いた人員や予算を有効活用出来るという直接的なメリットを受けるのも構造物管理者でもある発注者なのである。今のような当事者意識のない状態から脱却し、品質・耐久性確保は発注者が求めているものであり、発注者主体で行う必要があることを徹底するような意識改革が必要である。
 公共工事は税金を使用して整備しているため、発注者はコストに敏感であり、コストアップを嫌う傾向にある。このため、耐久性確保のための工事が必要であっても、コストアップを嫌って従来仕様で工事発注するという事が行われがちとなっている。しかし、このような判断は、従来仕様の「点検で既に劣化が確認されている性能の構造物」と高耐久仕様の「将来劣化する可能性の低い構造物」を比較して、安い方の従来仕様の構造物を選択したという事に他ならない。
耐久性確保は、劣化に抵抗する性能の確保であり、まずコストではなく、確保すべき性能を確定する必要がある。確保すべき性能が決まったら、同じ性能であればコストが安い仕様を選べばよく、従来仕様と高耐久仕様を比較するような性能を無視したコスト比較は意味がない。このような誤ったコスト意識をなくすためにも、コスト優先主義から性能優先主義への変更が必要である。
 現状では発注者は、品質・耐久性確保の必要性に関する正しい認識やそれを実施するために必要な知識が不足している。このため、受注者から品質・耐久性確保に関する様々な提案があっても、それを採用するかどうか判断することが難しい。結果として、受注者からの提案を不採用とするか、採用する場合でも受注者側が膨大な労力と時間をかけて説明資料などを作成してやっと了解を得ている場合が多い。
 このようなことが発生する理由は、受発注者間の品質・耐久性確保に関する認識のずれを埋める機会がほとんどないことに起因しており、まず、この状態を改善する必要がある。受発注者間の認識のずれは、品質と耐久性の違いといった基本的な問題から、下部工や覆工コンクリートのひび割れ発生の有無の判断や、対策を行う場合のセメントの種類の変更の可否、膨張材の使用の有無、ひび割れ誘発目地やひび割れ抑制鉄筋などの対策の選定など高度なものまで広範に存在している。
 このような状況で、受発注者間の認識のずれを無くし協働の意識を醸成するため、テーマ毎のテキスト類の整備・拡充を行ったうえで、勉強会等を継続的に実施する必要がある。このような勉強会は、開催に手間がかかっても人材を育てる貴重な機会であり、多忙な中であっても開催する価値があることを認識する必要がある。また、勉強会等を通じて受発注者間に協働の意識が醸成されることが、品質・耐久性確保の取組みを浸透・定着させるために重要であることを認識する必要がある。

4.おわりに

 東北地方整備局が「試行」として実施してきたコンクリート構造物の品質耐久性確保の取組みを「標準」として実施するために必要と思われる主な事項を列記してみた。この取組みに関わってきた者の一人として、今後も「試行」から「標準」へ向けて、出来るところから取組んで行きたい。
 また、東北地方整備局が「試行工事」で行っている品質確保の仕組みは、20178年度から全国の地方整備局等でも試行的に採用が始まっている。今回列記したことは、将来、コンクリート構造物の品質・耐久性確保の取組みを全国的に本格展開する場合にも参考になれば幸いである。(2020年11月19日掲載)

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